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テキスト・ネック=「スマホ首」にご用心

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

 電車の中で乗客を眺めてみると、そのほとんどが首を前方に傾け、何かに熱中している。スマホを眺めているのだ。この姿勢が頻繁に長く続くと、首と頸椎に悪影響が出ていわゆる「スマホ首」になる場合も多い。

スマホ首とは

 スマホや小型タブレットは、すでに我々の日常生活にとって欠かせないものになってしまった。これは老若男女を問わない。

 これだけ普及し、かつ日常のほとんどの時間に関与することになると、健康を含む我々の生活の様々な面に影響を与えるようになる。その一つが、スマホ首(Text Neck=テキスト・ネック、あるいはストレート・ネック)だ。

 スマホ首とは、首の骨、頸椎が本来なら緩い弧を描いて上方へ伸びているものが、前方へ傾斜し、しかも直線的(ストレート)に伸びてしまう状態のことをいう。スマホなどの画面を覗き込む姿勢を続けているとなりやすく、最近、スマホ首のせいで首や肩に痛みが生じる患者が増えている。これは世界的な現象であり、一種の現代病ともいえるだろう(※1)。

 10年ほど前からスマホ首に関する研究論文が増え始めている。

 若い世代を中心にしたスマホ首は、お隣の韓国でも問題になっているためか論文も多い。大学生31人を対象にした調査研究によれば、スマホの使用時間が長くなるほどスマホ首になりやすいことが示唆されたという(※2)。また、エジプトのカイロ大学の研究によれば、1日4時間以上スマホを使用する群でスマホ首の症状が認められたという(※3)。

運動不足と女性は要注意

 日本人を対象にした肩こりの追跡調査によれば、運動習慣の少ない人、女性に肩こりが多かったという(※4)。スマホ使用は片手によるものが多いため、首に左右非対称の力が加わるという研究もある(※5)。スマホ首は肩こりにもつながりかねないので(※6)、運動をするように心掛けるとともに女性はスマホ首に要注意ということになるだろう。

 一方、若い世代においてスマホ使用とスマホ首に関連性は認められないというものもある(※7)。これはブラジルの18〜21歳の若者150人を対象にした研究だが、スマホ首がどうして生じるのか、スマホ使用との因果関係はまだよくわかっていないというわけだ。

 スマホ首になりにくくするためには、スマホやタブレットなどの使用中、首をなるべく前方へ傾けず、首への負担を軽減するように心掛けることが重要だ(※8)。また、長時間のスマホ使用の後、首を軽くストレッチで柔らかくするような運動をするのも効果的だという(※9)。

 長時間、同じ姿勢を続ければ身体に負担が生じるのは当然だ。歩きスマホの危険もある。スマホへの没入し過ぎに注意し、時には電車の窓から外を流れる景色を眺めることをお勧めする。

※1:Ney Meziat-Filho, et al., "“Text-neck”: an epidemic of the modern era of cell phones?" The Spine Journal, Vol.18, Issue4, 714-715, 2018

※2:Hyeseon Han, et al., "Naturalistic data collection of head posture during smartphone use." Ergonomics, doi.org/10.1080/00140139.2018.1544379, 2018

※3:Marina N. Samaan, et al., "Effect of prolonged smartphone use on cervical spine and hand grip strength in adolescence." International Journal of Multidisciplinary Research and Development, Vol.5, Issue9, 2018

※4:Eijiro Okada, et al., "Development of stiff shoulder in asymptomatic volunteers during ten-year follow-up in Japan." Journal of Back and Musculoskeletal Rehabilitation, Vol.23, No.2, 69-75, 2010

※5:Yan Fei Xie, et al., "Spinal kinematics during smartphone texting- A comparison between young adults with and without chronic neck-shoulder pain." Applied Ergonomics, Vol.68, 160-168, 2018

※6:Gentaro Kumagai, et al., "Association between roentgenographic findings of the cervical spine and neck symptoms in a Japanese community population." Journal of Orthopedic Science, Vol.19, Issue3, 390-397, 2014

※7:Gerson Moreira Damasceno, et al., "Text neck and neck pain in 18-21-year-old young adults." European Spine Journal, Vol.27, Issue6, 1249-1254, 2018

※8:Jung-Hyun Choi, et al., "An analysis of the activity and muscle fatigue of the muscles around the neck under the three most frequent postures while using a smartphone." The Journal of Physical Therapy Science, Vol.28, 1660-1664, 2016

※9:Seung-Hyean Oh, et al., "The effects of stabilization exercises using a sling and stretching on the range of motion and cervical alignment of straight neck patients." The Journal of Physical Therapy Science, Vol.28, 372-377, 2016

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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