「加熱式」もタバコはタバコ~将来に禍根を残す「お目こぼし」

No SmokingだがIQOSは使える? 写真撮影筆者

 受動喫煙防止が進んでいるが、アイコス(IQOS)やプルーム・テック(Ploom TECH)といった加熱式タバコが広まるにつれ、タバコ会社は規制の網をかいくぐろうと加熱式タバコへの「お目こぼし」を画策し、メディアなどで特例扱いにせよという意見も出始めている。だが、加熱式もタバコだ。何が問題なのだろうか。

加熱式タバコ「例外論」とは

 受動喫煙防止を入れた改正健康増進法が成立し、日本もようやくタバコ対策の面で埒外から諸国の最後尾についた。国の受動喫煙対策をさらに厳しくした東京都や千葉市、大阪府の条例も各地で出始めている。

 だが、最近よく目にするのは「加熱式タバコは受動喫煙の害が少ないようだから既存の紙巻きタバコとは違う規制にしたらどうか」という意見だ。改正健康増進法でも飲食店に飲食などのサービスの提供を受けられる「加熱式たばこ専用の喫煙室」の設置を定め、飲食などができない紙巻きタバコ用の喫煙室とは別の規制になっている。

 東京都が独自に策定した受動喫煙防止条例でも、飲食店の対象は国の面積基準とは異なる従業員の有無という先進的なものなのに対し、加熱式タバコを国と同じ例外扱いにした。一方、愛知県豊橋市が策定しようとしている独自の受動喫煙防止条例案では加熱式タバコも紙巻きタバコと同様の規制にしている。

 受動喫煙防止の観点からみれば、確かに他者の健康に悪影響が全くないなら加熱式タバコに対して規制する必要はないだろう。企業従業員にアンケート調査を実施したところ、加熱式タバコは喫煙者本人への害が低く、受動喫煙の危険性はないと回答した者が約7割いたという研究もある(※1)。

加熱式タバコでも受動喫煙被害が

 では、加熱式タバコに受動喫煙の害はないのだろうか。これについて、タバコ会社からの研究も含め、第三者機関から少しずつデータが出始めている。

 受動喫煙の研究者によれば、ヒトの呼吸器の機能から吸い込んだタバコ煙の1/3弱は、そのまま次の呼気として排出されるという(※2)。加熱式タバコの主流煙(喫煙者が吸い込むタバコ煙)に有害物質が存在するなら、副流煙(喫煙者の吐き出すタバコ煙)にも有害物質が含まれる危険性があり、加熱式タバコはけっして安全ではなく規制すべきということになる。

 アイコス(2.4)を使った日本の分析研究によれば、主流煙には、一酸化炭素(2262ppm)、アンモニア(2.30ppm)、ホルムアルデヒド(2.52ppm)、アセトアルデヒド(43.1ppm)、粉じん(3.28mg/平方メートル)が検出された。一方、副流煙にはごく微量だが許容濃度を上回るホルムアルデヒドが含まれていたという(※3)。

 国立保健医療科学院は、加熱式タバコのスティック(タバコ葉の部分)の有害物質の解析を行った結果を発表しているが、ニコチンは紙巻きタバコとほぼ同じ量、発がん性物質とされるタバコに特異的なニトロソアミン類は紙巻きタバコの約1/5含まれていたという(※4)。

 2008~2018年にかけて発表されたアイコス、プルーム・テック、グロー(glo)といった加熱式タバコに関する100の論文を比較して分析した研究によれば、確かに有害物質の放出は低減されていたが、それによって健康被害も低減されるかどうかについて明らかにはなっていない(※5)。

 紙巻きタバコでは、1日1本の喫煙でも心血管疾患や脳卒中のリスクはある。141のコホート(集団)調査をもとにした55の論文を比較して分析した最新の研究によれば、1日に1本のタバコを吸う男性喫煙者は、1度も喫煙経験がない人にくらべ、心臓病のリスクは48%高くなり、脳卒中のリスクは25%高くなり、女性ではさらにリスクは上がることがわかったという(※6)。

 このリスクは、加熱式タバコでも受動喫煙でも同じだ。WHO(世界保健機関)は、タバコの煙にさらされることで受ける健康被害に閾値はない、つまりどんなに少量でもタバコの煙には健康懸念リスクがあるといっている(※7)。

 また、日本も加盟批准するタバコ規制枠組条約(FCTC)でも、加熱式タバコと紙巻きタバコは区別せず、同じ扱いにするように決議された。日本政府は、この条約と矛盾した法律を作ったことになる。

加熱式タバコの「ステルス化」を許すな

 改正健康増進法では、加熱式タバコ専用喫煙室の内部からのタバコ煙流出などについて政治・行政の間で揉み合いが続いているが、紙巻きタバコの喫煙室と同じ設置基準になる方向で動いている。だが、その中で飲食などのサービスを受けられるという紙巻きタバコとの「差別化」は生きたままだ。

 一方、加熱式タバコを製造・販売するタバコ会社は、加熱式タバコの「ステルス化」に躍起だ。改正健康増進法の本格施行の前に加熱式タバコを社会の中へ潜り込ませようとし、飲食店などに対し、タバコ会社のホームページから客を流入させる代わりに加熱式タバコ喫煙OKのポップ広告などを置くように働きかけている。

 いずれにせよ、公衆衛生の基本は「疑わしきは規制・禁止」だ。水俣病事件でも薬害エイズ事件でも、規制が遅れたことで被害が拡大した。

 加熱式タバコの影響はまだよくわからないが、その喫煙者が吸い込む主流煙に有害物質が含まれていることは明らかだ。健康被害が出てからでは遅い。加熱式タバコを例外にすることは、将来の社会に大きな禍根を残すことになりかねない。

※1:豊田桃子ら、「某社における新型タバコ製品の実態調査(2):電子タバコの危険性の認識」、産業衛生学雑誌、第59巻、398、2017

※2:大和浩、「オリンピックと屋内全面禁煙法・条例その40~加熱式タバコの屋外使用は法律・条例で規制すべし」、北九州市医報、第727号、2019

※3:川村晃右ら、「紙巻きタバコから加熱式タバコへの移行に伴う健康影響:ニコチン依存、ニコチン禁断症状と喫煙行動の変化について」、日衛誌、第73巻、379-387、2018

※4:Kanae Bekki, et al., "Comparison of Chemicals in Mainstream Smoke in Heat-not-burn Tobacco and Combustion Cigarettes." Journal of UOEH, Vol.39, Issue3, 2017

※5:B Dautzenberg, et al., "Systematic analysis of the scientific literature on heated tobacco." Revue des Maladies Respirators, doi.org/10.1016/j.rmr.2018.10.010, 2018

※6:Allan Hackshaw, et al., "Low cigarette consumption and risk of coronary heart disease and stroke: meta-analysis of 141 cohort studies in 55 study reports." the bmj, Vol.360, j5855, 2018

※7:WHO, "Policy recommendations on protection from exposure to second-hand tobacco smoke." Tobacco Free Initiative, World No Tobacco Day 2007