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人類は突如として「大絶滅」するかもしれない

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
ペルム紀の単弓類「エダフォサウルス」:国立科学博物館:写真:撮影筆者

 地球には何度か大絶滅が起きているが、有名なのは恐竜が絶滅した白亜紀末のイベントだろう。約2億5414万年前(±7万年、国際年代層序表)、ペルム紀(Permian Period)末にも大絶滅が起きているが、その原因もイベントの影響もまだ研究途上だ。今回、ペルム紀末の大絶滅が突如として起きたとする論文が出た。人類にとっても人ごとではいられない。

ペルム紀末の大絶滅の原因は

 ペルム紀末に起きた大絶滅では、三葉虫やアンモナイトなどの海洋生物の80〜96%、陸上へ進出していた昆虫、爬虫類や恐竜、哺乳類の祖先などの脊椎生物の70%が死滅したと考えられている(※1)。なぜ、このような大イベントが起きたのか、長く論争が続いてきた。

 最も有力なのは、地球内部のマントルが地上へわき上がってきて、地上のあちこちに大規模な火山を噴火させたというスーパー・プルーム(Super Plume)仮説だ(※2)。プルームというのは、地球内部から風船のように地殻へ浮上してくる熱せられた溶岩の巨大な塊で、白亜紀末の大絶滅の原因にもプルーム仮説がある。

 ペルム紀の地上にはパンゲアという超大陸があり、現在のように大陸が分散していなかった。パンゲア超大陸の下からスーパー・プルームがわき上がり、地表を壊滅的に破壊するほどの火山活動が始まったというわけだ。

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スーパー・プルームの概念図。地球核とマントル対流層の境界で生じたスーパー・プルームが地球表面である地殻へ上昇し、大規模な火山活動が起きる。こうした地球内部からのエネルギーが、パンゲア超大陸を引き裂いて徐々に分割させていったと考えられている。また火山活動による二酸化炭素濃度の上昇は地球温暖化と低酸素状態を引き起こし、ペルム紀後の生態系の復活のスピードを遅らせた。Via:Yukio Isozaki, "Plume Winter Scenario for Biosphere Catastrophe: The Permo-Triassic Boundary Case." Superplumes: Beyond Plate Tectonics, 2007

 パンゲア超大陸はその後、分裂したが最近になってスーパー・プルームによる火山の大噴火の痕跡は、現在のシベリアに残っているという論文(※3)が出た。当時、火山から噴出した物質(塩素や臭素、要素などのハロゲン=Halogen)によって地球をおおうオゾン層が破壊され、有害な紫外線が降り注ぐようになり、それが大絶滅につながったという。

 シベリアの痕跡は火山噴火の証拠としては不十分だったが、揮発性物質の分析などにより噴火にともなうハロゲン類の物質が大気中へ拡散したので明確な証拠が残っていないようだ。つまり、ペルム紀末の大絶滅の原因が火山の大噴火だとすれば、それを探るためにスーパー・プルームの証拠探しが必要ということなる。

 恐竜大絶滅の原因は現在ではほぼ隕石衝突というイベントによるものという説が有力だが、この時期に極端な地球環境の激変があったことは地質学や化石の証拠などから明らかだ。ペルム紀末の大絶滅の場合はパンゲア超大陸の分裂が始まったことと長期の酸素欠乏(※4)という事象が証拠になり得る。

ほんの数百年で絶滅するかも

 ただ、パンゲア超大陸は分裂してしまい、噴火による物質なども大気中へ放出され、その痕跡は多く残っていないし分裂後の地殻変動などで隠されてしまっている。痕跡探しが依然として続いているが、まだ明確な証拠を示すには至っていない。

 一方、ペルム紀末の大絶滅に関して今回、地質学的にほとんど瞬時に起きたという中国科学院などの研究グループによる論文(※5)が米国地質学会の学術誌『GSA Bulletin』に出た。

 パンゲア超大陸の痕跡はユーラシア大陸に残っていることが多いが、中国東部にも多くの地質学的証拠や化石などがある。研究グループがこの地域でペルム紀末の大絶滅前後の堆積物や地質、化石などを調べたところ、(国際年代層序表とは違う)約2億5200万年前の3万1000年の間にイベントが起き、ひょっとするとそれはほんの数百年の間だったかもしれないという。

 化石の調査により、生態系の多様性が急速に減衰したことがわかったが、研究グループは火山噴火によって二酸化硫黄や二酸化炭素が放出され、それが海洋を酸性化させたのではないかと考えている。だが、火山活動はペルム紀末のイベントより40万年前から起きていて、このような急速な大絶滅を説明できない。

 ペルム紀の後は三畳紀(〜2億13万年前±20万年、P-T境界=Permian-Triassic Boundary)になるが、ペルム紀直後からしばらく(100万〜300万年程度)は生物を絶滅させた原因が続いていたと考えられる。その後、海棲爬虫類やイカやタコといった頭足類の祖先が現れ、さらに恐竜へと続く陸棲脊椎動物の祖先などが出現して生態系が多様化していった(※6)。

 生物が多様化し、ある種が繁栄すればその後に必ず大きな絶滅イベントが起き、新たな生態系が形成される。地球に残された過去の歴史を眺めれば、地球環境を破壊し続けている人類も瞬時に絶滅してしまうかもしれない。

※1:Michael J. Benton, et al., "How to kill (almost) all life: the end-Permian extinction event." Trends in Ecology & Evolution, Vol.18, Issue7, 358-365, 2003

※2:Yukio Isozaki, "Plume Winter Scenario for Biosphere Catastrophe: The Permo-Triassic Boundary Case." Superplumes: Beyond Plate Tectonics, 409-440, 2007

※3:Michaele W. Broadley, et al., "End-Permian extinction amplified by plume- induced release of recycled lithospheric volatiles." nature geoscience, Vol.11, 682-687, 2018

※4:Yoshimichi Kajiwara, et al., "Development of a largely anoxic stratified ocean and its temporary massive mixing at the Permian/Triassic boundary supported by the sulfur isotopic record." Palaeogeography, Palaeoclimatology, Paraeoecology, Vol.111, issue3-4, 367-379, 1994

※5:Shu-Zhong Shen, et al., "A sudden end-Permian mass extinction in South China." GSA Bulletin, doi.org/10.1130/B31909.1, 2018

※6:Zhong-Qiang Chen, et al., "The timing and pattern of biotic recovery following the end-Permian mass extinction." nature geoscience, Vol.5, 375-383, 2012

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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