なぜヒトは「ヘビに呑み込まれて」しまうのか

(提供:Malaysia Civil Defence Force/ロイター/アフロ)

 年に1回ほど、ヒトがヘビに呑み込まれる事故が起きている。鈍重そうにみえる巨大なヘビによるこうした不幸な事故は、いったいどうやって起きるのだろうか。

ヒトに備えられたヘビ・センサー

 ヘビの仲間は、数センチほどのものから最大10メートルを超えるもの、毒を持つものやヒトの食用や薬用にされるもの、砂漠にいるものや水棲のもの、飛行するものなど多種多様のものがいる。我々ヒトのヘビに対する意識も、好奇心や愛好心、興味、恐怖、嫌悪といろいろだ。

 ヘビのオモチャや単なる長いヒモ状の物体に驚かされるのはいったいなぜだろう。ヒトと同じ霊長類(アカゲザル)を使った実験では、ヘビへの反応は先天的でも後天的でもあるようだが(※1)、ヒトの子どもを使った実験ではヘビに対する反応がほかの生物よりも早いなど特別なものがあるようだ(※2)。

 また、サルの脳には攻撃姿勢を示したヘビに敏感に反応する部位があり(※3)、野生のヒヒの観察では単独行動と群で瞬きの数や瞳孔の大きさなどで天敵への警戒センサーが違ってくるという(※4)。

 このように、我々ヒトを含むサルの仲間は、天敵の一種であるヘビに対し、形状や色、模様などに素早く反応するようなセンサーを持っている。これはサルの祖先から伝えられてきた原始的だが重要な恐怖の情動反応なのだろう。

 ヘビの進化の過程は、いまだに解明されていない。彼らの脅威の一つは、自分のサイズ以上の獲物を顎の関節を伸縮させ、呑み込んでしまうところにあるが、進化の謎もそうした頭部の骨格の構造からわかってくるかもしれないという(※5)。

 ヒトとヘビとの関わりも強く、世界各地で神話に登場し、神の使いなどとする民族も多い。日本にもヤマタノオロチや大蛇伝説、「蛇の道は蛇」「ヘビに睨まれたカエル」など、ヘビにまつわる信仰や慣用句が多数ある。

ヘビに呑み込まれてしまうということ

 日本にはヒトを呑み込むほど大型のヘビはいないが、世界にはアマゾン川流域に生息するオオアナコンダ(Eunectes murinus)や南アジア一帯に生息するアミメニシキヘビ(Python reticulatus)、サハラ砂漠以南のアフリカ大陸に生息するアフリカニシキヘビ(Python sebae)など、数メートルから10メートルを超える巨大ヘビがいて、しばしばヒトを呑み込む事故が報告されている。

 オオアナコンダによる事故はほとんどないが、アミメニシキヘビは生息域の関係でヒトと接触する頻度のせいやペットとしての飼育数の影響か事故も多い。これまでインドネシア、ミャンマー、フィリピン、マレーシア、南アフリカで野生のアミメニシキヘビやアフリカニシキヘビによる死亡事故が報告され、ペットの大型ヘビによる事故も米国や日本などで起きている。2012年には茨城県で、66歳の男性がペットとして飼っていた全長6.5メートルのアミメニシキヘビに締め付けられて死亡したとみられる事故があった。

 ヘビによる絞殺事故は多いが、そのままヒトが呑み込まれてしまうことも少なくない。

 2017年3月と2018年6月には、インドネシアでニシキヘビに呑み込まれてしまう痛ましい事故が起きた。2017年の事故は全長約7メートルのアミメニシキヘビが25歳の男性を、2018年の事故も全長約7メートルのアミメニシキヘビと考えられるヘビが54歳の女性を呑み込んでしまったという。

 こうした巨大な野生のヘビがヒトを襲い、呑み込んでしまう事故は年に1回あるかないかだ。むしろ、ヘビのほうでヒトを恐れ、よほど刺激を与えなければ攻撃されることはないという。これまでの事故では、ネット上に流布する呑み込まれた流出画像も含め、本当にヘビによるものか議論も起きている。

 だが、もしヘビによるものとすれば、なぜこうした不幸な事故が起きてしまうのだろう。インドネシアで呑み込まれた女性の場合、住居がヘビの生息域に隣接していたことが事故の原因のようだ。

不幸な出会いはごく希だ

 ニシキヘビの若い個体を使った実験では秒速2.52メートルという速度で移動するが(※6)、数メートルの成長したニシキヘビがどれくらい素早いのかわかっていない。ただ、脚のない変温動物のヘビは移動にエネルギーを使うため、採餌行動と移動のトレードオフにより、よほどの空腹時以外の速度は遅いのではないかと考えられる(※7)。

 ヘビが獲物を捕食する際には、全身に巻き付いて強い力で締め付けて窒息させてから丸呑みにする。その過程で骨折させて呑み込みやすくなるようだが、ヒトの場合は肩の骨が折られていなければ丸呑みにはされないのではないかという。

 そもそも前述したようにヒトやサルにはヘビに対する先天的後天的なセンサーが備わっているため、よほど警戒を解いていなければ双方が不幸な接近遭遇をすることはない。

 テレビ番組の余興でヘビを巻き付けたキャスターが絞め殺されそうになって救出されたり、環境保護のためにアナコンダに呑み込まれる番組プログラムを計画したが、強い締め付けにより骨折の危機を感じて急遽、中止されたりといった事故も起きている。

 ニシキヘビの全種はワシントン条約の付属書IIであり(インドニシキヘビは付属書I)、輸出入には輸出国の政府発行の許可書が必要となる絶滅危惧種だ。アミメニシキヘビ、アフリカニシキヘビ、インドニシキヘビなどは環境省が定める飼養または保管の許可が必要な特定動物になっている。

 ハブやヤマカガシなど毒蛇や毒を持つヘビ以外のヘビがヒトの天敵だった頃とは違い、すでにヒトがヘビの天敵になっているというわけだ。サルから伝えられ備えられたセンサーを使い、不幸な出会いがないようにしたい。

※1-1:Susan Mineka, et al., "Observational conditioning of fear to fear-relevant versus fear-irrelevant stimuli in rhesus monkeys." Journal of Abnormal Psychology, Vol.98(4), 448-459, 1989

※1-2:Stephanie F. Etting, et al., "Factors increasing snake detection and perceived threat in captive rhesus macaques (Macaca mulatta)." American Journal of Primatology, Vol.76, Issue2, 135-145, 2014

※2-1:Nobuo Masataka, et al., "Human Young Children as well as Adults Demonstrate ‘Superior’ Rapid Snake Detection When Typical Striking Posture Is Displayed by the Snake." PLOS ONE, Vol.5, Issue11, 2010

※2-2:S Hayakawa, et al., "The influence of color on snake detection in visual search in human children." Scientific Reports, DoiI: 10.1038/srep00080, 2011

※2-3:Vanessa LoBue, :Deconstructing the snake: The relative roles of perception, cognition, and emotion on threat detection." Emotion, Vol.14(4), 701-711, 2014

※3:Quan Van Le, et al., "Monkey Pulvinar Neurons Fire Differentially to Snake Postures." PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0114258, 2014

※4:Akiko Matsumoto-Oda, et al., "Group size effects on inter-blink interval as an indicator of antipredator vigilance in wild baboons." Scientific Reports, Doi:10.1038/s41598-018-28174-7, 2018

※5:「『ヘビの祖先』の謎に迫る」Yahoo!ニュース:2018/01/26

※6:William G. Ryerson, et al., "Strike kinematics and performance in juvenile ball pythons (Python regius)." JEZ-A, Doi: 10.1002/jez.2131, 2017

※7:Tracy L. Crotty, et al., "Trade-offs between eating and moving: what happens to the locomotion of slender arboreal snakes when they eat big prey?" Biological Journal of the Linnean Society, Vol.114, Issue2, 446-458, 2015