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日韓で海洋調査摩擦、調査船「isabu」が火種か

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 管義偉官房長官は2018年8月3日の記者会見で、韓国が行っている可能性のある竹島周辺の海洋調査について日本政府が抗議をしたと発表した。海洋調査船の航行と日本の同意のない同島周辺の調査活動は認められないとの主張だ。海洋調査については以前から両国に摩擦があった。

船名の何が問題なのか

 8月1日、2日、韓国の海洋調査船が日本の領海である島根県沖の島町の竹島の周辺を航行した。両国には領土問題があり、韓国は竹島(韓国名は独島)を自国領土と主張している。

 英国の科学雑誌『nature』は、2017年9月に出たコラムで韓国調査船の船名が日韓両国のトラブルになっていると報じた(※1)。これによると、韓国が新たに建造した5900トンの海洋調査船に「Isabu(異斯夫)」という名前が問題のようだ。

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韓国の海洋調査船「Isabu」。Via:KIOSTのブログ(2018/08/04アクセス)

 日本の海洋研究開発機構(JAMSTEC)のスタッフが匿名で同誌とメールのやり取りをしたところによれば、日本政府の一部から「Isabu」という船名についてクレームがつき、一時、両国を含むアジア太平洋地域16カ国が共同で進めようとしている海洋調査研究の障害になったという。

 筆者が2017年9月21日にJAMSTECの広報へ「韓国調査船の船名に抗議し、同船上における日韓の共同作業を中止した」ことの事実関係について質問したところ、「当機構は、KIOST(韓国海洋科学技術院)との間でMOUを締結しており、今後も研究協力していきたいという考えであり、それ以外についてはコメントを差し控えさせていただきます」との回答を得ている。

 MOUとはMemorandum of Understanding、つまり覚書のことで、JAMSTEC(当時・海洋科学技術センター)は2002年9月18日に韓国海洋研究所(Korea Ocean Research & Development Institute、現・KIOST)と深海生物、深海微生物、海溝弧縁辺海の研究に関する情報交換のための覚書を締結している。

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2002年9月18日、JAMSTECはKORDI(現・KIOST)と横浜で研究協力に関する覚書を交わした。Via:2002年10月発行の海洋科学技術センターニュース「なつしま」

 それから10数年が経ち、両国の共同海洋調査研究に政治的な暗雲が立ちこめたということなのだろうか。もし日本政府の一部が韓国調査船「Isabu」の名前にこだわっているとすれば、その理由は何だろう。

 船名になった「Isabu」とは、6世紀に活躍した新羅の海将の名前だ。朝鮮半島の覇権を争った百済を破り、倭国の出先機関もしくは領土の一部とも考えられている任那を含む伽耶を滅ぼしたという。朝鮮半島における日本の影響を排除したとされる人物で、その過程で竹島を含む朝鮮半島南部周辺の島々をも占領し、韓国が竹島を自国領と主張する根拠の一つにもなっている。

 韓国のKIOSTが調査船に極めて政治的な人物の名前を付けたことで、日本政府の一部を刺激し、上記のような反応になったということになるのかもしれない。

 当然だが、科学的な調査研究に政治的な勢力が介入すべきではない。竹島周辺を海洋調査船が航行し、何らかの調査を行ったとすれば、船名をめぐる摩擦から再び火がつく危険性もある。

※1:Mark Zastrow, "Ship name stirs up trouble." nature, Vol.549, 318-319, 2017

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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