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高リスク「友人の少ない痩せ型の喫煙男性」〜東北大の研究

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
禁煙啓発でも有名な東京・巣鴨のとげぬき地蔵尊(高岩寺)(写真:Fujifotos/アフロ)

 家族との結びつき、友人の数、交友範囲など、社会的な関係は健康に強く影響する(※1)。先日、東北大学が発表した研究(※2)によれば、タバコを吸い、痩せ型で友人とのつながりが希薄な高齢の日本人男性は、英国人に比べて寿命が短くなるリスクが高いことがわかった。

大事な社会的な結びつき

 もうすぐ東日本大震災から7年だが、震災後の被災者、被災地などの報告から人々の社会的な結びつきや絆(ソーシャル・キャピタル)についての重要性が再認識されている。地域の人間的な関係やネットワークが豊かか貧しいかで健康格差が生まれ、それは喫煙や飲酒に匹敵するくらいのリスク要因になるようだ。

 2010年に発表されたメタ・アナリシス研究(※3)によると、社会的な結びつきがより強い人は生存率が約50%も増加したという。この研究は、総数約31万人が参加した世界各国の148論文を比較したもので、社会的なサポートを受けているか、配偶者がいるか、一人暮らしで食事も一人が多いか、地域のコミュニティに参加しているかといった要素を規準にした。

 すると148論文の中で社会的な結びつきと健康や寿命などとの関係が否定されたものはほとんどなく、社会的な結びつきが強い人はタバコを止めるのに匹敵するほど死亡率を低くする効果があった。研究者は母数を大きくして精査すれば、この要因はさらに大きくなる可能性があるという。

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※3のメタ・アナリシス研究による死亡要因ごとのリスク評価。バーが長いほど死亡率が高く、社会的サポートの強弱(上から2番目)や社会的な関係が複合するしない(上から3番目)という効果は、1日15本の紙巻きタバコを吸うリスク(上から4番目)よりも高くなる。Via:Julianne Holt-Lunstad, et al., "Social Relationships and Mortality Risk: A Meta-analytic Review." PLOS ONE, 2010

 こうした研究では「ロゼト効果(Roseto effect)」というものが有名だ。1955年から10年間、米国ペンシルベニア州にあるイタリア系移民が中心のロゼト(Roseto)という小さな町で、55歳から64歳という心筋梗塞のリスクが高くなる年齢層の男性で周辺の町と心筋梗塞による死亡率を比べてみたところ、異常に死亡率が低かった。ロゼトの男性は心臓発作がほとんどみられず、65歳以上の全米平均死亡率が約2%のところ、ロゼトの男性は約1%だったという(※4)。

 ロゼトの男性の心筋梗塞リスクがなぜ低いのかといえば、社会的な結びつきや絆の強さによる影響と推測された。この町の住人のほとんどは、イタリアのある同じ地域から集団で米国へ移民し、結びつきの強い共同体となってきたからと考えられている。

死亡率を高める要因を日英で比較

 死亡率や健康寿命などについて同様の調査研究は多いが、先日、東北大学が65歳以上の日本人1万3176人とイングランドの英国人5551人を9.4年間、追跡したデータの分析により、高齢者の長寿に影響する要因がわかったと発表した。東北大学大学院歯学研究科の相田潤准教授ら日英共同研究グループによるものだ(※2)。

女性の場合

  • 喫煙習慣の少ない日本人が、英国人より198日長生き。
  • 低体重が少ない英国人が、日本人より129日長生き。

男性の場合

  • 家族とのつながりが多い日本人が、英国人より105日長生き。
  • 友人とのつながりが多い英国人が、日本人より45日長生き。
  • 喫煙習慣の少ない英国人が、日本人より47.6日長生き。
  • 低体重が少ない英国人が、日本人より212日長生き。

 東北大学のリリースによれば上記の要因がわかったが、日本人は男女ともに「痩せ過ぎ(低体重)」が悪い影響を与え、日本人の男性では友人とのつながりを増やし、タバコを止めること、日本人の女性でも友人とのつながりを増やし、痩せ過ぎに注意することで寿命を伸ばすことが期待できる。

 肥満よりも痩せ過ぎが健康リスクというのは、これまでも日本人について指摘されてきた(※5)。今回の調査によれば、日本人は英国人に比べて女性で129日、男性で212日間生存期間が短いことにつながっていたようだ。研究者は、一概にいえないとしつつ、人とのつながりは社会的なサポートを増やしたり、生活習慣を改善する可能性もあり、健康への良好な影響が期待できるという。

 今回の研究は日英の比較だが、国別の疫学的比較研究の中で長寿国の日本人はこれまであまり対象にならなかった。主に欧米各国での比較研究が多かったが、これまで集団的なデータの蓄積がある英国人と比較してみたというわけだ。

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日英で要因ごとの生存期間の差を比較した。これをみると、日本人女性の喫煙率の低さは長寿につながっている可能性がある。Via:東北大学のリリースより

 BMI値18.5未満の高齢者の割合は、日本人女性8.8%、男性7.5%、英国人女性1.7%、男性0.8%だった。高齢者の低体重は、体力不足、抵抗力不足などに影響する。BMI値が18.5未満の高齢者では男女ともに死亡率が高くなる可能性があると研究者は警告する。

 また、今回の参加対象者が死亡した最初の15%だけをみても、喫煙は約2年、寿命を縮めることがわかった。特に喫煙率の高い英国人女性より喫煙率の低い日本人女性のほうが197.7日も寿命が長い。英国は近年の禁煙政策の成果が出て喫煙率が下がってきているが、男女ともに同じくらい(女性喫煙率13.1%、男性12%)だ。女性喫煙率の低さ(7.9%、2015年)が全体の喫煙率を押し下げている日本とは違う。

 日英を比較すると全体として日本人女性で319日、男性で132日、英国人よりも生存期間が長いことがわかった。日本人は、男女ともに痩せ過ぎを改善し、男性では友人とのつながりを増やし、タバコを止めることが重要と研究者は指摘している。

※1:「交友範囲で『2型糖尿病リスク』がわかる」2018/03/07、Yahoo!ニュース個人

※2:Jun Aida, et al., "Social and Behavioural Determinants of the Difference in Survival among Older Adults in Japan and England." Gerontology, DOI: 10.1159/000485797, 2018

※3:Julianne Holt-Lunstad, et al., "Social Relationships and Mortality Risk: A Meta-analytic Review." PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pmed.1000316, 2010

※4-1:Brenda Egolif, et al., "The Roseto Effect: A 50-Year Comparison of Mortality Rates." American Journal of Public Health, Vol.82, No.8, 1992

※4-2:Nicholas A. Christakis, James H. Fowler, "The Spread of Obesity in a Large Social Network over 32 Years." The New England Journal of Medicine, Vol.357、370-379、2007

※5:「世界は肥満傾向、日本人は『痩せ型国民』か」2017/07/07、Yahoo!ニュース個人

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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