なぜ事故を起こすのは「海兵隊のヘリ」ばかりなのか

米海兵隊のCH-53Eスーパースタリオン(提供:U.S. Marine Corps/ロイター/アフロ)

 米軍による事故(accident、incident、mishap)が増えている。1月23日には、沖縄の渡名喜村に普天間基地の海兵隊所属のAH-1攻撃ヘリコプター(helicopter、以下、ヘリ)が不時着した。今年2018年に入ってから海兵隊のヘリによる同種の事故はすでに3件、すべて沖縄で起きている。本記事では、沖縄の海兵隊に所属するヘリの事故を中心に、なぜ事故が多発しているのか、その背景を科学的な論文も含めて多角的に考えてみたい。

ヘリのパイロットを襲うSDとは

 そもそもヘリという航空機は、操縦が難しい、不安定な飛行物体だ。エンジン、メインローター(回転翼)、テールローター(方向舵)などが連動しつつ適切に駆動し続けなければならない。

 航空機事故の約75%をヘリが占めるといわれ、航空機全体の事故率は10万飛行時間あたり約0.175だが、ヘリの場合は7.5にまでハネ上がる。

 航空機事故に限らずこうした事故やミスの背景には、人的要因、機械的要因、天候環境要因などがある。危機管理のテキストでは人的要因が事故全体の70~80%にもなると説明しているものもあるが、人間は必ずミスを起こす存在であり、機械も必ず故障するという大前提(フェールセーフ)から対策することが多い。

 人的要因でいえば、まずパイロットの問題がある。フライトの長さ、飛行速度、フライト中の離着陸の回数、離着陸する際の地面の環境、飛行時間帯が昼間か夜間かなど、ヘリの事故では、飛行時間という経験のほかに多種多様な原因が見え隠れする(※1)。陸自に長くいた筆者の友人によれば、米軍のヘリの場合、パイロットに不安があり、優秀なパイロットはほとんどが戦闘機や偵察機などへ引き抜かれ、最後に残った者がヘリを操縦するというヒエラルキーのようなものがあるという。

 航空機のパイロットが飛行中に方向感覚を失い、混乱状態に陥ることは以前からよく知られていたが、ヘリコプター・パイロットについても同様の報告がある(※2)。その原因は多種多様であり、高速度で移動することによる感覚異常(※3)、主観的な疲労の影響(※4)、経験の差などがある。

 いくつかの研究によると睡眠不足はあまり影響しないようだ(※4、※5)。その一方、やはり睡眠不足がミスや事故につながるため、パイロットには昼寝を勧めるべき、という研究もある(※6)。

 沖縄の海兵隊は朝鮮半島情勢が緊迫し続けている中、ハードな訓練を繰り返している。米国の国防総省(PDF)によれば、予算削減で海兵隊の人員は2012年の20万2100人から2016年には18万4000人に減らされた。海兵隊員を運ぶヘリのパイロットの疲労も溜まっているのではないだろうか。

 ヘリのパイロットの体調原因では、特に平衡感覚を一時的に失ってしまう空間識失調(spatial disorientation、vertigo、SD)がクローズアップされてきた。米軍では事故をA、B、Cの3段階に分けているが、2002~2011年の10年間に米陸軍で起きたA~Cの事故を調査した研究(※7)によれば、そのうちのヘリの事故100件がSDに関係したものだ。

 これはヘリの全事故の約11%になり、その事故中の約31%で死者が出ている。SDによる死亡率は航空事故でほぼ100%になるという報告もあり、生還者の少なさが危険性が長く放置されてきた原因にもなっているようだ。

 米軍の機関紙『Stars and Stripes』によると、米海兵隊全体では2016年までの5年間で地上での航空機事故が約5倍になっている。ランクCの事故は2012年の12件から2016年に29件になった。

 海兵隊のミッションは、戦場へ地上部隊を迅速に送り込むことにある。北朝鮮有事の際には、まず最初に平壌へ突入する可能性も高い。当然、輸送訓練も夜間の隠密行動と長時間を想定したものとなり、パイロットがSDに陥ることも少なくないだろう。

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2015年以降、国内で起きた米軍関係の主な事故。色づけされた枠は日本駐留の海兵隊によるもの。表作成:筆者

修理部品を使い回す海兵隊

 ヘリの事故につながる人的要因には、メンテナンスや修理、オーバーホール(Maintenance、Repair、Overhaul、以下、MRO)などでのミスも入る。2008年を境にメンテナンス規準が変化したため一概には比べられないが、1982~2013年までの30年間に起きたヘリの事故を調べた研究(※8)によれば、約10%(590/5857件)がMRO原因によるものだった。

 前述した陸自にいた友人によれば、今はどうかわからないが米軍のヘリはどこかが壊れて初めて修理にまわす。陸自の場合、壊れていなくても飛行1000時間で完全分解のオーバーホールし、3000時間で用廃機となるという。

 海兵隊ヘリの事故原因について、一部から大韓航空(Korean Air Lines、KAL)のMRO軍向け事業(KAL ASD)のクォリティによるものではないか、という声も聞こえてくる。

 KAL ASDが韓国国内の韓国軍と日本を含むアジア太平洋地域での米空軍と米陸軍、米海兵隊の業務委託を請け負っているのは確かだ。普天間の米海兵隊のヘリ(CH-53)もその中に入り、これらの業務委託は1989年から行っている。

 もっとも米国防総省によれば、2015年度の軍事関連のメンテナンス作業に約4万5000人の民間人が関与している。KAL ASDのMRO委託業務について言えば、それほど珍しいことではない。KALの米海兵隊ヘリのMRO業務委託の経験は長く、このことからKALを含めた民間への整備委託が海兵隊の事故増加に影響しているかどうかは疑問だ。

 普天間に展開する米海兵隊は、ヘリの輸送を第36海兵隊航空兵団の262部隊(VMM-262、マナタイガー)265部隊(VMM-265、ドラゴン)にゆだねている。当然、同兵団のMROもこれら部隊が主体的にやっているが、米国政府のアカウンタビリティ機関のレポート(PDF)によると、陸上兵器を含んだMROに対する海兵隊の直接労働時間、仕事量は2012年から2015年の間に約6%減っている。

 これは海兵隊に限ったことではないが、米海軍のある将官は、予算削減により訓練不足と機材不足、機体の衰朽化が進んでいる、と訴えた。前述の米軍の機関紙『Stars and Stripes』によると、予算削減でメンテナンスや修理に必要なパーツが不足し、パーツを使い回した結果、不具合が出たらしい。

 筆者は何冊か航空会社の整備士の著作で構成と企画をやり、著者からいろいろな話をうかがったことがある。民間航空機の整備では、油を拭き取る布1枚ないだけで、その整備班の全員が機体の隅から隅まで探し回るそうだ。

 一方、装備や機材の衰朽化も進んでいる。2017年10月11日に北部訓練場付近に不時着し、12月13日に普天間第二小学校の校庭に窓を落としたCH53スーパースタリオンは旧型のEタイプだ。

 この機体はここ数年でも、2013年4月16日に韓国での演習中に墜落(負傷者21人)、2015年9月2日に米国ノースカロライナ州の海兵隊基地での訓練中に墜落(死者1人、負傷者11人)、2016年1月14日に米国ハワイ州オアフ島沖での訓練中に2機が衝突墜落(死者12人)というように事故が多発している。

 CH-53型の輸送ヘリは搭載量や揚力が大きく、その点で見劣りするMV-22オスプレイでは代替できそうもない。Eタイプは以前から頻繁なオーバーホールの必要性が危惧され、新型のCH-53Kキングスタリオンへ置換されることになっていた。早急な置換が検討されてきた機体が起こした事故といえるが、Eタイプのスーパースタリオンはその揚力の大きさや航続距離などの機能から、遅れているKタイプへの置換が完了する2029年までの現役続行が予定されている。

デジタル化と兵器の進化

 ヘリの事故の場合、機体や装備に原因がある可能性も大きい。米陸軍の事例になるが、1985~2005年までに起きた人的要因以外の207件の事故を調べた研究(※9)によると事故原因は、エンジン、天候、燃料システム、テールローター、機体、フライトコントロールの6項目で82%を占め、その中ではエンジントラブルと天候不順の影響が大きかった。

 米軍ヘリでは多機能ディスプレイ(MFDs)などコクピットの電子化に応じ、コックピットをデジタル的に「グラス化(glass cockpit)」する機体が増えている。従来のアナログメーターを1つの液晶画面に集約化し、パイロットへの情報を管理するというわけだ。

 米陸軍ヘリの4つのグラスコックピットモデル(OH-58D、UH-60K、CH-47E、AH-64D)の事故率調査(※10)によれば、アナログ計器を基準にした場合のそれぞれの事故率は、OH-58Dで4.37対20.30、UH-60Kで8.81対17.06、AH-64Dで18.36対23.00となり、3機種でグラスコックピットのほうが高く、唯一CH-47Eが6.97対3.94でグラスコックピットのほうが低かった。

 この調査はA~C3段階の事故区分の合計であり、事故率の算定は10万時間あたりだった。ちなみに、UH-60Kは「ブラックホーク・ダウン」としてフィクションや映画で有名になった機体で、AH-64Dは「アパッチ・ロングボウ」というニックネームで知られる対地対戦車用ヘリだ。

 こうした結果になった原因について調査グループは、武装や装備などがグラスコックピットとまだ調和できていない、パイロットが操作に習熟できていない、グラスコックピットが軍用ヘリに向いていない、液晶画面への集中が求められるために外界への注意が散漫になる、高度化したヘリの性能に適応しようとしたパイロットが危険な行動をとりがちになる、といった点を挙げている。もちろん、海兵隊もMV-22オスプレイやフルデジタルグラスコックピットのAH-1Zヴァイパーを含め、最新型ヘリのグラスコックピット化を進めている。

 ヘリのパイロットがかぶるヘルメットには、こうしたデジタル化とともに多くのディスプレイ機器(Helmet-mouted display、HMD)が加えられるようになった。地上兵士のための暗視ゴーグルは両眼で見るが、パイロットの場合、片眼を裸眼にし、もう一方に単眼のディスプレイを投影して多種多様な情報を伝えるようになっている。

 単眼ディスプレイタイプのヘルメットをかぶるAH-1アパッチの英国空軍パイロットの健康状態を4年間、追跡調査した研究(※11)によれば、片眼の疲れはもちろんだが、頭痛を起こすようになったようだ。サンプルサイズが小さいので一概に言えないが、片眼を使ったディスプレイも事故の遠因となった可能性がある。

脆弱なヘリという兵器

 戦闘時におけるヘリというのは、地上からの攻撃に脆弱で損耗率が高いといわれている。米軍は、小型火器やロケット弾(RPG)などでヘリが容易に撃墜されることをベトナム戦争や湾岸戦争、イラク戦争、ソマリア、アフガニスタンなどで思い知らされてきた。

 ヘリは戦場でけっこうなウィークポイントだが、その可搬性能や機動力、対地上攻撃能力、地上部隊の支援能力などの高さから固定翼機では代替できない戦術的な存在になる。一方、パイロットにとって、その脆弱性は強いストレスになっているはずだ。

 軽量な防護体についていろいろな技術研究が行われているが、その中でも粉粒体のダイラタンシー(dilatancy)性を利用した「液状装甲(Liquid Armor、※12)」が軽量でヘリに利用できるのではないかと言われている。このダイラタンシーというのは、浜辺の砂のように急激で速い衝撃には固体のように強いが、柔らかく緩やかな衝撃には液体のように振る舞う性質のことだ。

 こうした技術による防御装甲がヘリに施されれば、パイロットの心理的な負担も軽減されるだろう。また、回転翼式ではない新たな俊敏性の高い浮上技術が開発されれば、機動性も上がって地上からの攻撃をかわすことができるようになるかもしれない。ヘリのパイロットがさらされているストレス軽減は、事故のリスクを低くすることにもつながるはずだ(※13)。

 北朝鮮と対峙し続けている沖縄の海兵隊の場合、長く緊張とストレスを受ける状態に置かれている。トランプ大統領という、どう行動するか予想つきかねる最高指揮官の存在も大きいだろう。事故が起きる背景は、こうした環境要因も無視できない。

 もちろん、原因は多岐にわたり一言ではのべられないが、沖縄の海兵隊ヘリの事故について以上を簡単にまとめれば、パイロットや整備士などにヘリ特有の人的要因があり、メンテナンス環境や新機種転換などで予算削減の影響が大きく、緊張が続く極東という前線にいるストレスも少なくない、ということになる。

 沖縄に米軍の基地が集中していることがそもそもの直接の原因だが、軍事用ヘリという特殊な兵器も多く存在し、海兵隊に限らず沖縄の米軍兵士はかなり極限状態にいるわけで今後も事故のリスクはかなり高い。日本政府は米国に対し、演習や訓練の頻度や飛行ルートの変更、パイロットの休養とメンテナンス環境の整備を強く求めていくべきだろう。

※1:Franklin R. Taylor, et al., "Investigation of Hazards of Helicopter Operations and Root Causes of Helicopter Accidents." the National Technical Information Service, nopublish report, 1986

※2:Tormes R. Felix, et al., "Disorientation Phenomena in Naval Helicopter Pilots." US Navy, Bureau of Medicine and Surgery,1974

※3:Aasef G.Shaikh, et al., "Sensory Convergence Solves a Motion Ambiguity Problem." Cell, Current Biology, Vol.15, Issue18, 1657-1662, 2005

※4:Fred H. Previc, et al., "The Effects of Sleep Deprivation on Flight Performance, Instrument Scanning, and Physiological Arousal in Pilots." The International Journal of Aviation Psychology, Vol.19, Issue4, 2009

※5:Fred H. Previc, et al., "Simulator-Induced Spatial Disorientation: Effects of Age, Sleep Deprivation, and Type of Conflict." Aviation, Space, and Environmental Medicine, Vol.78, No.5, 470-477, 2007

※6-1:J A. Caldwell, et al., "Fatigue Countermeasures in Aviation." Aviation, Space, and Environmental Medicine, Vol.80(1), 29-59, 2009

※6-2:Beth M. Hartzler, "Fatigue on the flight deck: The consequences of sleep loss and the benefits of napping." Accident Analysis & Prevention, vol.62, 309-318, 2014

※7:Steven J. Gaydos, et al., "Ten Years of Spatial Disorientation in U.S. Army Rotary-Wing Operations (Reprint)." Aviation, Space, and Environmental Medicine, Vol.83(8), 739-745, 2012

※8:Arjun H. Rao, et al., "Analysis of Helicopter Maintenance Risk from Accident Data." AIAA SciTech, 2015

※9:Robert Kent, "US Army Non-Human Factor Helicopter Mishap Findings and Recommendations." Defense Technical Information Center, 2010

※10:Suggs C. Rash, et al., "Accident Rates in Glass Cockpit Model U.S. Army Rotary-Wing Aircraft." USAARL Report, No.2001-12, 2001

※11:Clarence E. Rash, et al., "The Effect of a Monocular Helmet-Mouted Display on Aircrew Health: A Cohort Study of Apache AH Mk 1 Pilots Four-Year Review." USAARL Report No.2010-09, 2010

※12-1:Young S. Lee, E D. Wetzel, N J. Wagner, "The ballistic impact characteristics of Kevlar<R> woven fabrics impregnated with a colloidal shear thickening fluid." Journal of Materials Science, Vol.38, Issue13, 2825-2833, 2003

※12-2:Ankita Srivastava, et al., "Improving the Impact Resistance of Textile Structures by using Shear Thickening Fluids: A Review." Critical Reviews in Solid State and Material Sciences, DOI: 10.1080/10408436.2011.613493, 2012

※13:Victor I. Maduka, "Considerations for Employment of Marine Helicopters in Future Conflicts: How Much Risk is Acceptable?" Command and Staff College, Marine Corps Combat Development Command, Marine Corps University, 2008