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「歩き方」によりAIで個人認証

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

 イヌは飼い主の歩く音を聞き分けるなどし、かなり遠方から主人の帰宅を感知する。人それぞれの歩き方はかなり独特で、微弱な違いを極めれば個人の識別が可能ということになるだろう。

歩く画像をどう比較するか

 歩行によって個人を識別することを「歩容鑑定」などと言い、顔がはっきりと識別できないような動画でも個人認証が可能となる。犯罪捜査などでの活用も期待されている技術(※1)だが、大阪大学の産業科学研究所にはこの分野の研究グループ(八木康史教授ら)があり、三菱電機などとの共同研究を行っている。

 先日の大阪大学産業科学研究所のリリースによれば、同研究グループは独自の深層学習モデルの導入により、歩く人物画像から高い精度で本人認証を可能にした。イヌは聴覚で飼い主を同定するが、同研究グループは防犯カメラなどの動画とAIの深層学習(ディープラーニング)を組み合わせて個人を特定している。

 例えば、歩く方向がほぼ同じ場合、歩く方向が大きく違う場合、それぞれ差を比較することができるが、ほぼ同じ場合は画像を重ね合わせるなどして違いを検知し、歩行が大きく違う場合は手や足の振り方などの抽象的な特徴の違いを検知する。ただ、それでも歩く方向が大きく違う場合、従来の技術では約40%が誤答になっていた。また、歩く向きがほぼ同じだったりすると、特徴を比べることがさらに難しくなる。同研究グループは、この二つの歩く方向の違いを分け、AIの深層学習技術で歩容認証を行うことで、それぞれの個人の特徴的な歩行を比較することができるようにした。

 その結果、歩く向きが大きく違う場合、間違えてしまう確率を約4%まで下げることに成功した。同研究グループの研究者によれば、歩く向きが違う歩行者に対し、歩く向きの種別や用途などを考慮し、深層学習の識別モデルにそれぞれどう当てはめるか、その整理と学習モデルの構築が難しかった、と言う。

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歩く向きの違いに応じた深層学習モデルの例。Via:大阪大学産業科学研究所のリリース

 先日、明らかになった神奈川県座間市の死体遺棄事件では、防犯カメラの画像が捜査の重要な決め手になったようだ。ただ、これまで防犯カメラで撮影された個人の歩行動画は、歩く方向がまちまちで従来の画像認識技術では高精度の個人認証が難しかった。

 歩行認証や歩容鑑定の技術は、マーケティング用途以外に犯罪捜査などにも活用できる。今回の研究深化により、歩容鑑定が広く使われることになりそうだ。また、この研究成果は先日、米国のIEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc、電気電子学会)のオンライン版に論文(※2)が発表されている。

※1:岩間晴之、村松大吾、八木康史、「犯罪捜査支援のための歩容に基づく人物鑑定システム」、IPSJ SIG Technical Report、2013

※2:Noriko Takemura, Yasushi Makihara, Daigo Muramatsu, Tomio Echigo and Yasushi Yagi, "On Input/Output Architectures for Convolutional Neural Network-Based Cross-View Gait Recognition." IEEE Transactions on Circuits and Systems for Video Technology, Vol.PP, Issue99, 2017

※:2017/11/12:10:31:タイトルを変更した

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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