イヌやネコは「温室効果ガス」を増やすのか
テレビなどのメディアでは「ネコ」ブームらしく、いつでも何かしらネコに関する番組を流している。「イヌ」好きも多いようで、ちょっと外へ出ると必ずイヌを散歩させている人に出会う。ペットが我々の生活の中へどんどん入ってくるこのような状況は、日本に限らず先進国に共通のものだろう。
筆者は、なんでもかんでも地球温暖化と関連づけることには抵抗があるが、最近このペットたちが「地球温暖化を促進させているのではないか」という論文が出た(※1)。米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)地理学部の学部長が、米国の科学雑誌『PLOS ONE』に出した論文で、米国のイヌとネコに与えられるエサをエネルギー換算した場合、地球環境へ与える影響は約1360万台の自動車と同じくらいの規模になる、と主張している。
イヌとネコの国があれば世界第5位
米国で飼われているイヌとネコに与えられるエサは米国の食肉消費量に換算すると約25%に及び、もし米国のイヌとネコだけの国があったら、ロシア、ブラジル、米国、中国に次いで世界で5番目に多い量になる。同じ数(人口、イヌネコ頭数)の場合、米国人の約19%のカロリーをイヌやネコが消費していることになるが、イヌやネコのエサはタンパク質が多いので摂取カロリーで言えばこれは約33%に上がる、と研究者は言う。予想外に大きな数字で驚く。
米国におけるヒトの男女、イヌとネコ、それぞれの数(人口)と必要エネルギー量。KJはキロジュール、PJはピコジュール(1ジュール=0.239グラムカロリー)。日本ではイヌが多いが米国ではネコのほうが多く、男性のほうが、またイヌのほうがエネルギー量は多い。
もちろん、この研究者は、地球温暖化を進めないためにイヌやネコを飼うな、と主張しているわけではない。ただ、特に最近の傾向では、ペットに栄養価の高い良質のタンパク質でできたエサを与え、健康に気遣って長生きさせようとしている。温室効果ガスを抑制するために、エサのほうを少しだけ改善すればいいのではないか、と提案しているのだ。
これまでも地球温暖化を危惧する研究者たちは、我々人間のエネルギー消費やCO2排出量、食べ物などの総量について勘案してきたが、今度はペットにまでその議論を及ぼそうとしている。もちろん、食糧や地球温暖化などの問題は重要だ。そして、食料を作り出すためのコストを考えれば、肉食はかなり効率が悪いことはよく知られている。
ただ、雑食性のあるイヌはともかく、本来は肉食のネコに肉以外のものを与えることはなかなか難しいだろう。この研究者は、人間が食べないで捨てるような部位でエサを作れないか、と言っているが、ペットフード業界はそうした「非効率」なエサは作らない。人間の残飯を家畜のエサに、という発想は従来からあるが、収集や選別、運搬などのコストを考えれば、最初からエサとして作ったほうが効率的だ。
種を越えた資源分配の問題か
一方、ペットのエサがどのようにして作られているのか、飼い主たちの目利きも向上し、原料や添加物に対しても厳しい目が向けられるようになっている。ペットフード協会によれば、近年の飼育傾向はネコは横ばいだが、イヌの飼育頭数は減少しつつあるようだ。どちらも日本で約980万頭あまりが飼育されている(2016年)。その一方、単価の高いペットフードへのシフトが進み、ペットフード自体の市場規模は拡大傾向にあるらしい。
ペットのエサを人間の食べ物と同列に扱えるのか、という疑問のように、この論文には多くの批判が寄せられている。だが、これまでペットにかけられる「資源」について議論の俎上にはあまり載せられてこなかったのも事実だろう。
愛媛県今治市の獣医学部新設問題が話題だが、獣医師は都市部に偏在し、国家戦略特区での「特例」に対する論理的根拠に疑問が出ているようだ。一方で、飼い主のマナーや無許可火葬場の問題など、ペットにまつわるトラブルも多い。
昔ならイヌやネコは、あくまで飼い犬や飼い猫の範疇であり、人間とは区別して飼育されていた。それが少子化や高齢化などもあり、ペットの「ヒト化」が普通になるようになっている。
限られた地球資源だ。そもそも人間だけが地球資源を独占していいのか、という意見もあるだろう。これは単にイヌやネコのエサというだけではなく、我々のパートナーと地球資源をどう分配すればいいのか、という問題のような気がする。
※1:Gregory S. Okin, "Environmental impacts of food consumption by dogs and cats." PLOS ONE, August, 2, 2017