「受動喫煙」大動脈疾患死亡が約2倍に

一分一秒を争う大動脈疾患の治療(ペイレスイメージズ/アフロ)

 厚生労働大臣が内閣改造で交代し、受動喫煙の対策強化法案の行方が微妙となっている。タバコを吸う能動的な喫煙も、そしてタバコから出たり喫煙者の呼気からの煙による受動的な喫煙も、健康に悪影響を及ぼすことは、広くよく知られた「常識」だ。

 受動喫煙の害について、米国では1990年代の初めごろからその危険性が問題になり(※1~5)、受動喫煙の悪影響はすでに医学的にも科学的にも疑いの余地はない。受動喫煙の健康影響では、胎児乳幼児の発育障害、呼吸器系疾患、発がん、心疾患などがあげられ、タバコを吸わない人でもタバコの煙による病気を発症しやすくなることがわかっている。

受動喫煙と大動脈疾患の関係が初めて明らかに

 これまで受動喫煙の悪影響がはっきりわからなかったものに「大動脈疾患」があったが、これについても「受動喫煙による死亡が約2倍」というショッキングな疫学調査の結果が最近、発表された(※6)。研究者が所属する筑波大学によれば、同大医学医療系の山岸良匡准教授、磯博康客員教授らの研究グループが、受動喫煙により大動脈疾患(大動脈解離・大動脈瘤)による死亡が増加することを世界で初めて明らかにした、と言う。

 大動脈の疾患には、大きく分けて大動脈解離と大動脈瘤がある。大動脈とは、心臓から出た始まりの太い血管のことで、心臓から出てから大脳などの心臓から上の身体へ血液を送るために上に向かい(弓部)、その後、下へ向かって胸部や腹部、腰、足など全身に血液を送るようになっている。大動脈疾患に「解離」と「瘤」という言葉が出てくるが、解離とは大動脈の血管が層状に剥がれること、瘤とは大動脈が袋状または瘤状にふくらみ、大動脈の壁が薄くなることだ。

 日本はイタリアと並んで大動脈疾患の多い国らしいが、その診断と治療はなかなか難しいようだ(※7)。著名人や俳優などでも大動脈疾患にかかったり、それが原因で亡くなる方が多く、ときおり話題になったりする。大動脈疾患でやっかいなのは、予防や診断がしにくく、自覚症状がなかなか出にくいことだ。

 大動脈解離(急性)では胸や背中に疼痛や激痛があるなどする。大動脈瘤のほうも腹痛や腰痛などが出ることなどがある。胸部の大動脈瘤の97%は胸部レントゲン写真で、腹部の大動脈瘤の66%が触診で発見されているようだ。胸部の大動脈瘤では、声がかすれたり、食べ物などを飲み込みにくくなるなどする。また、腹部の大動脈瘤のリスクファクターは「男性・65才以上・喫煙(歴)・高血圧・家族歴」などだ(※7)。

受動喫煙は家庭外のほうが影響大

 この大動脈疾患、年々増えている。十年ほど前に死因のワースト10に入った。また、60代、70代の男性のほうが発症例は多い。自覚症状が少ないこと、発病すれば大動脈が破裂するなどして短時間で死亡するケースが多い(93%が24時間以内に死亡:※7)ことなどから、統計に反映されていない数も含まれると思われる。

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 タバコを吸うこと、喫煙が大動脈疾患に悪影響を与えることは、これまにでも明らかにされてきた。特に、喫煙と腹部の大動脈瘤(abdominal aortic aneurysms、AAA)との関係が強く示唆されている(※8)。

 さて、前述したように、受動喫煙と大動脈疾患との関係について疫学的に明らかになった。筑波大学の研究者は、質問紙に記入してもらう特定住民の集団調査(日本の大規模地域コホート研究、JACC Study:※9)を行った。

 各集団(合計4万8677人)ごと平均16年間にわたり追跡調査し、受動喫煙の頻度によって3つのグループに分けて分析した。3つのグループは「受動喫煙の程度が低いグループ:受動喫煙が家庭内・家庭外ともにほとんどない人:低)」「受動喫煙の程度が高いグループ(受動喫煙が家庭内でほぼ毎日2時間以上、または家庭外でほぼ毎日の人:高)」「受動喫煙の程度が中程度のグループ(その他:中)」となる。

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 その結果、受動喫煙の「高」と「低」を比べると大動脈疾患の死亡率で2.35倍、「高」のほうが高かった(※10)。さらに、受動喫煙を受けている場所を「家庭内」「家庭外」で分けた場合、「家庭外」のほうがより受動喫煙の影響を強く受けていることがわかった。研究者は、主に職場や飲食店などで受ける受動喫煙の違いが家庭内との間にあるのではないか、と考えている。

※1:1991年、米国心臓学会(AHA)は受動喫煙が心臓病を引き起こすという関係を示した(※2)。また、米国環境保護庁(EPA)は、1992年に出した報告書「受動喫煙の呼吸器への健康影響:肺ガンおよび他の呼吸器疾患」で、世界中で行われた30件の疫学調査をレビューし、米国では受動喫煙が非喫煙者の肺ガンのリスクを20%高めている、とした(※3)。米国心臓学会は1991年の論文から「環境タバコ煙と心疾患」と題した声明を発表(※4)、非喫煙者の心筋梗塞死のリスクを30%高める受動喫煙は、虚血性心疾患の重大な危険因子であると断言した。また、米国カリフォルニア環境保護庁(CalEPA)は1997年、受動喫煙によって非喫煙者の心筋梗塞の死亡率は1.3倍に高まること、受動喫煙を受ける人のうち1~3%が受動喫煙を原因とする心筋梗塞で死亡するとした(※5)。

※2:S A Glanz, W W Parmley, "Passive smoking and heart disease : epidemiology, physiology, and biochemistry." Circulation, 83, 1-12, 1991

※3:U.S.Environmental Protection Agency, "Respiratory Health Effects of Passive Smoking:Lung Cancer and Other Disorders." Office of Health and Environmental Assessment, Office of Research and Development,U.S.Environmental Protection Agency, Washington,DC. 1992

※4:A E Taylor, D C Johnson, H Kazemi, "Environmental tobacco smoke and cardiovascular disease." A position paper from the Council on Cardiopulmonary and Critical Care, American Heart Association. Circulation, 86, 699-702, 1992

※5:California Environmental Protection Agency, "Health Effects of Exposure to Environmental Tobacco Smoke:Final Draft for Scientfic,Public,and SRP Review." Office of Environmental Health Hazard Assessment, California Environmental Protection Agency, 1997:※:10万人あたりの受動喫煙による死亡確率は1000~3000人となる。

※6:Kihara Tomomi, Yamagishi Kazumasa, Iso Hiroyasu, Tamakoshi Akiko; JACC Study Group. "Passive smoking and mortality from aortic dissection or aneurysm." Atherosclerosis. 263:145-150. 2017

※7:「大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2011年改訂版)」循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告)合同研究班参加学会:日本循環器学会、日本医学放射線学会、日本胸部外科学会、日本血管外科学会、日本心臓血管外科学会、日本心臓病学会、日本脈管学会

※8:Ian M. Nordon, Robert J. Hinchliffe, Ian M. Loftus & Matt M. Thompson, "Pathophysiology and epidemiology of abdominal aortic aneurysms." Nature Reviews Cardiology 8, 92-102, 2011

※9:The Japan Collaborative Cohort Study for Evaluation of Cancer Risk sponsored by the Ministry of Education, Culture, Sport, Science and Technology of Japan:1988年から全国45地区の住民を対象にして質問紙により生活習慣を把握し、その後の追跡を行った大規模地域コホート研究。文科省(旧文部省)科学研究費から助成。コホート研究とは、特定の人間集団を観察する疫学研究のこと。

※10:多変量調整ハザード比による。「受動喫煙」の影響だけを考えるため、性別・年齢・BMI・高血圧・飲酒・ストレス・運動など、そのほかの要因による影響を考慮に入れて「受動喫煙」の統計学的な有意さを見積もる手法。