受動喫煙防止強化は飲食店に悪影響を及ぼすか

(写真:アフロ)

政府と厚生労働省が今国会での成立を目指す健康増進法の改正、いわゆる受動喫煙防止対策の強化だが、自民党内の反発が強く、会期中(6月18日まで)での改正が難しい状況だ。塩崎厚労相は、自民党案への歩み寄りの姿勢をみせているが、3月1日に出した厚生労働省案をどこまで譲歩するか、予断を許さない。

自民党の規制強化反対派は、飲食店業界の売上げが減るのでは、という懸念を表明している。タバコや受動喫煙の健康への害はここで改めて述べるまでもない。では、禁煙や完全分煙化することで、飲食店の売上げは減るのだろうか。

総じて規制強化の影響は少ない

これについては各州で「Smoke-Free法」や「Clean indoor air法」など、屋内禁煙についての受動喫煙防止条例が実施されている米国でも長く議論が起きてきた。調査研究も多いが、そのほとんどは規制強化しても来客数や売上げ、雇用などにネガティブな影響はない、というものだ(※1)。

もちろん、タバコ規制強化の経済活動への悪影響を示した調査研究もある(※2)。

この論文は喫煙率の高い地域(州や群など)にあるレストランやバーなどの飲食店では、規制の強弱で雇用に影響が起き、規制が緩やかな地域より厳しい地域のほうが雇用の減少がみられる、としたものだ。一方、寒い季節になると米国では労働人口の移動が南北間で起きるが、逆に地域の寒暖によって規制強化が雇用を増やす地域もある。また、この論文は屋外席での喫煙許容の政策提案の可能性も示唆している。

厚生労働省によれば「利益相反などの影響がある論文や調査を除外すれば、屋内禁煙などのタバコ対策強化をした場合の飲食店などに対する営業への影響は変化なし、もしくはプラスになる報告が多いと認識している」ようだ。

アルコールを提供する飲食店はどうか

日本でも同様の調査研究がなされているが、愛知県健康福祉部などが2009年に愛知県内の飲食店を対象とした訪問調査によれば、禁煙店舗の約95%で禁煙した前後で来客数と売上げに「変化なし」と回答した(※3)。結論として、禁煙化による顧客数や売上げ減少などの影響は少ない、としている。

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愛知県で7080店舗が回答した2009年の調査。単位は%、小数点二ケタ以下四捨五入。禁煙店舗16.4%、分煙店舗20.2%。ただ、そもそも禁煙化した店がなかったであろうバーは1店も入っておらず、同様に居酒屋も3店舗のみ、という内容だ。最も多いのは235店の喫茶・カフェ、和食156店、ファストフード141店など。売上げが減少した、と回答した業種では寿司6.3%、カレー専門店6.1%とやや高い。カレーが好きな人に喫煙者が多いのだろうか。

また、日本で全国展開するファミリーレストランのグループ(名前は「某」となっている)の「全席禁煙化」による営業への影響を調査研究した論文では、禁煙化前後で売上げが約4%増加した、というものもある(※4)。

ちなみに、この調査も主にアルコールを出すバーに対するものではない。バーやスナックといった業種は規制強化に抵抗があるようだ。

一方、今年(2017年)3月3日の日本経済新聞に、民間調査機関「富士経済」による調査結果として「飲食店などの屋内の全面禁煙や罰則が実際に施行された場合、外食市場での売上げに8401億円のマイナスの影響が及ぶ」という記事が出た。また「『居酒屋、バー、スナック』への影響が6554億円」になると同調査の内容を紹介している。

この記事について厚労省は「この調査結果がなぜかどこからも入手できず、論評は差し控える」とのことだった。ちなみに、この報告書を記事にしたのは日経だけだ。

飲食店業界は複雑

全国飲食業生活衛生同業組合連合会が2012年に行った調査からは、自民党の反対派が根拠としている当事者の飲食業界からの貴重な意見が垣間見える。

● 完全禁煙の飲食店が2012年までの10年間で約10倍に増えている

● レストランで分煙対策が7割弱になるなど「食事時に禁煙」が主流になりつつある

● 最も集客効果が高いと思われる完全分煙は費用などの面で対応が難しい

● 来客数が減り売上げ減少が心配という危機感もある

この調査では、公的な助成金の利用で分煙対策費用を捻出することが大切、としている。完全分煙を実施している飲食店の約12%が、助成金制度を活用しているようだ。厚生労働省には「受動喫煙防止対策助成金」があり、各自治体にも同様の財政支援制度がある(※5)。また、JTなどのタバコ会社にも、分煙化へのアドバイス制度があるようだ。ただ、完全禁煙にすればこうした費用はかからない。

また、外食産業界からは、厚生労働省案が規制適用除外を想定する「30平米以下の店」(バー、スナックなど)などはほとんどない、という反発がある。上記の調査では、10坪(約33平米)以下の店舗は18.1%あり、この面積の飲食店の7.7%が完全禁煙だった。10坪以下の飲食店では、完全分煙・不完全分煙と合わせた16.3%の店舗が、何らかの受動喫煙防止対策をしている。

規制強化でも店数は減らない

神奈川県では2010(平成22)年4月から受動喫煙防止条例が施行されている。飲食店への影響はあったのだろうか。厚生労働省の資料をもとにしたグラフを下に紹介する。

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関東と山梨・静岡各県と比べてみても、神奈川県の店舗数の変化に大きな違いはない。各グラフの縦の青線が条例施行年。神奈川県に限らず、各都県で喫茶店が大きく減っている。日本禁煙学会・日本禁煙推進意志歯科医師連盟「富士経済(株)による「『受動喫煙防止法案(たたき台)』施行による外食市場への影響を調査」と題するプレスリリースに関する共同声明」より引用改変。

米国では各州でタバコ規制の強弱は様々だ。そうした環境の中、タバコ規制と飲食店の営業について多種多様な調査研究がなされている。多くは悪影響は少ない、といったものだ。

日本の事情と違う、という意見もあるが、日本での調査研究も少しずつエビデンスが蓄積されつつある。その結果は米国とほぼ同じだ。

ようするに、受動喫煙防止対策強化、タバコ規制強化しても、飲食店の経営を圧迫する可能性は低い、ということになる。30平米以下のアルコールを出すようなバーやスナックは、厚労省案では規制の枠外だ。

筆者は地元の横浜でよく飲むが、行きつけの店はオーナー1人か従業員がせいぜいもう1人程度のバーが多い。オーナーの約8割は自分が喫煙者で従業員の喫煙率も高い。

こうした小さなバーがタバコ規制強化に反発する理由は、オーナーや従業員自身が吸えなくなるのは嫌だ、というものかもしれない。

前述した飲食業界団体の調査によれば、飲食店の側も時代の趨勢は理解している。主に食事を提供する種類の飲食店は特にそうだろう。

自民党の反対派が心配するまでもなく、多くのレストランではとっくに禁煙化が進み、そうでない店も時間分煙などがなされている。アルコールを出す小規模店に対しては、厚労省案でもかなり考慮されている。

いったい規制強化反対派は、何を心配しているのだろうか。健康増進法の改正が「骨抜き」にされてしまえば、非喫煙者の客や従業員は、飲食店などで望まないタバコ煙にさらされ続けることになる。

※1:See, e.g., ANR, "Economic Impact of Clean Indoor Air Policies." January 15, 2000.

※1:Glantz, S, “Smoke-Free Restaurant Ordinances Do Not Affect Restaurant Business. Period.” Journal of Public Health Management and Practice 5:1, January 1999.

※1:Scollo M, et al., “Review of the quality of studies on the economic effects of smoke-free policies on the hospitality industry,” Tobacco Control 12:13-20, 2003.

※2:S Adams, C Cotti, "The Effect of Smoking Bans on Bars and Restaurants: An Analysis of Changes in Employment." The B.E. Journal of Economic Analysis & Policy, Vol.7, 2007.

※3:宇佐美毅ら、「飲食店における受動喫煙防止対策の実態と禁煙化による経営への影響についての考察」日本公衆衛生雑誌、第59巻第7号、2012年

※4:大和浩ら、「某ファミリーレストラングループにおける客席禁煙化前後の営業収入の相対変化」日本公衆衛生雑誌、2014年

※5:東京都産業労働局「宿泊・飲食施設の分煙化を支援します!外国人旅行者の受入れに向けた宿泊・飲食施設の分煙環境整備補助金」。