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この関西ローカル番組がスゴい 『やすとものいたって真剣です』が生む開放的な個室感

飲用てれびテレビウォッチャー
(写真:アフロ)

 芸能人のロケ映像に千鳥の2人がツッコミを入れる。そんな関西のローカル番組『相席食堂』(朝日放送)が、全国で人気になって久しい。その人気を後押しに、先月2日にはゴールデンタイムで全国放送された。

 が、ちょっと待っていただきたい。関西には、それ以外にも面白いバラエティ番組がいくつかある。今回はその中から『やすとものいたって真剣です』(朝日放送)を紹介してみたい。

関西ローカルが生む個室感

 関西を拠点に活動する漫才師、「やすとも」こと海原やすよ・ともこ。そんな彼女たちがMCとなり、2020年4月にスタートしたトークバラエティ番組が『いたって真剣です』だ。番組の主軸はゲストの芸人とやすともとのスタジオトークだが、芸人がカメラを持って別の芸人に密着する企画が放送されることもある。

 同番組の魅力のひとつは、他の番組ではあまり見聞きできない芸人たちの顔や言葉だろう。

 たとえば、ダイアン・津田。全国向けの番組では、東京に進出するもイマイチ売れていない”負け顔”がフィーチャーされがちだ。しかし、この番組では「ゴールデンでバリバリレギュラーやったら売れたって認定してくれるんかさ。俺、今めっちゃ好きなくらいの感じの仕事やねん、東京で」と、むしろ手応えが語られる(2020年9月24日)。

 あるいは、ハリウッドザコシショウ。出演するほぼすべての番組において「誇張モノマネ」など支離滅裂にも見えるネタで場をかき回す彼は、「ホントここだけだから言うよ」と前置きしつつ、「何かのテレビで、ワーッて出てきて、ワーッて適当にネタやって、適当に騒いで、わめいて、はい終わりってサッと去るじゃん。あれ全部考えてるからね俺」とハチャメチャの裏にある冷静な一面をのぞかせる(2021年1月21日)。

 さらには、笑い飯・西田。常にどこか”ふざけた”感じを漂わす彼だが、M-1出場制限の芸歴15年目を迎えた後輩のスリムクラブ・真栄田を前に、「ああいう(M-1みたいな)大会は好みもあるから。赤色、青色、黄色、さあどの色が優勝でしょう、みたいなもんやんか。言うたら自分のベストのやつが、本番でできりゃいいなって思うだけで」と真面目に語る(2020年11月12日)。

 そんな『いたって真剣です』の雰囲気は、例えるなら居酒屋など飲食店の個室での会話だろうか。スタジオの出演者はやすともの他にゲストが1組。密着企画でもカメラを持つ芸人と被写体となる芸人が1対1。芸人同士がほぼサシで向き合う個室的な状況で、タイトルどおりの「真剣」さが出演者の間に生まれている。

 また、絞られた出演者の数は、誰よりも印象的で面白いワードを発して放送に残ろうとする競争的な雰囲気からは縁遠い。そこに他の芸人中心のトークバラエティとの大きな違いがあるだろうか。短いワードではなく、長尺のエピソードが私たちの興味を惹きつける。言葉単体のインパクトではなく、語り口の印象がその芸人の輪郭を浮かび上がらせていく。

 なんだか芸人たちの個室での「真剣」な会話を、末席で聞かせてもらっている感じ。全国ネットではなくローカル番組であることも、大人数が出入りしない個室の雰囲気を一層感じさせる理由だろう。

触媒としての「やすとも」

 そんな『いたって真剣です』だが、他方でそこには個室感とは反対の開放性も感じられる。おそらく、MCを務める海原やすよ・ともこの存在が大きいはずだ。

 祖父母の代から続く芸人一家に生まれ、1992年に姉妹でコンビを結成した彼女たち。全国のテレビではその姿を見る機会があまりないかもしれないが、関西では冠番組を複数持ちながら舞台に立つ現役の漫才師である。ABCお笑い新人グランプリ最優秀新人賞(1995年)、上方漫才大賞受賞(2012年・2017年)などの受賞歴ももつ。

 ゲストの「真剣」さは、そんな漫才師としての彼女たちへのリスペクトを抜きに語れないだろう。彼女たちの漫才師としての「真剣」さが、ゲストの中の「真剣」さを引き出しているとも言えるかもしれない。

 ブラックマヨネーズ・吉田は、彼女たちへの憧れを次のように表現する。

僕は、やすともさん中川家さんの歩み方がすごい憧れますね。テレビ出てるときにタレントじゃない感があるじゃないですか、やすともさんと中川家さんって。漫才師が司会してるって感じ。(2020年6月11日)

 また、女性の漫才師という点も、芸人たちの定番トークを相対化する。

 たとえば、ネタ作りの話。男性芸人が相方との関係を語る際、どちらがネタを作っているかという話題になることがある。そしてその話題が、(バラエティ的にあえて対立構図を作るという意図もおそらくありながら)どちらがコンビで偉いかという話にスライドしていく。

 ある男性芸人をゲストに迎えた際、『いたって真剣です』でもそんな話になりかけた。すると彼女たちは次のように語り始めた。

やすよ「男の人は、ここに座った人はだいたい言う。『ネタは俺が作ってるから、パワーバランスは俺のほうがすごい』って」

ともこ「でも私らは、『ネタ作ってるから何が偉いの?』って思っちゃう。うちらだって、初め私が(ネタを)作ってたけど、絶対的にこっち(=やすよ)のほうが強かったんやんか。文句もめっちゃ言ってくるし。(やすよにも)『ありがとう』っていう気持ちはあるんやろうなと思ってるけど、基本強いのは『だって2人のために書いてるんやろ?』っていうのがあるから

やすよいなくなったらできひんやん」(2020年10月22日)

 また、ある芸人のトークの中で、スタッフと飲みに行くなどして関係を築き仕事を得るといった話題が出たとき、やすよは言った。

男の人ってそれできるからいいよね。スタッフの人と仲良くなって、ホンマに仕事につながることがあるやん。私らはやっぱりそこは女やから。スタッフの人とそんな飲みに行ったりとかってしいひんやん。(2021年2月11日)

 やすともが触媒となって生まれる開放的な個室感。彼女たちのタレントという以上に漫才師としての佇まいの前に、普段のキャラとは違うゲストの「真剣」な顔がにじみ出る。「芸人あるある」はしばしば「男性芸人あるある」であることが会話の中で解きほぐされて、定番トークに別の出口ができていく。

 そんな面白い番組『やすとものいたって真剣です』は、残念なことにほぼ関西でしか放送されていない。けれど、幸いなことにTVerなどの見逃し配信で全国どこでも視聴可能だ。

やすとものいたって真剣です

朝日放送テレビ 毎週木曜日 夜11時17分放送

テレビウォッチャー

関西在住のテレビウォッチャー。文春オンライン、現代ビジネス、日刊サイゾー、日刊大衆、週刊女性PRIME、電子コラム&レビュー誌『読む余熱』などでテレビに関する文章を執筆。

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