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ジャガイモは野菜?穀類? 米政府の専門家会議で議論 背景に深刻な肥満問題

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:アフロ)

ブロッコリーが1974年のジャガイモ以来、半世紀ぶりに国民生活に重要な「指定野菜」に追加されることがニュースとなったが、米国では「ジャガイモは野菜か、それとも穀類か」という議論が話題になっている。しかも議論されているのは政府の専門家会議。ジャガイモは米国人に最も人気の「野菜」だけに議論の行方に注目が集まっている。

医学や栄養学の専門家らが鳩首協議

ジャガイモは野菜としてのステータスを失うのか?

主要紙ワシントン・ポストの電子版は1月18日、こんな見出しの記事を配信した。報じたのは、米国民の食生活や学校給食のメニューなどに大きな影響を与える「アメリカ人のための食生活指針」(以下、食生活指針)をめぐる、米政府内のホットな議論。

食生活指針は、政策立案者や医療サービス提供者、栄養指導者、連邦栄養プログラム運営者などが栄養政策や献立をつくったり栄養指導を行ったりする際の、いわば教科書。例えば、学校給食法は、学校給食の中身は食生活指針に沿ったものでなければならないと定めている。

食生活指針は5年ごとに見直す決まりで、現在行われている議論は「2025-2030年版」を作成するためのもの。医学や栄養学の専門家からなる「2025食生活指針諮問委員会」が昨年2月から会合を重ねている。

危機的な肥満率

議論の中で関係者の高い関心を集めているのがジャガイモの扱いだ。

現行の食生活指針ではジャガイモは「野菜」に分類されている。一般にもジャガイモは野菜とされている。しかし、複数のメディアの報道によると、諮問委員会はジャガイモを「野菜」からパンやパスタなどと同じ「穀類」に分類し直すことを検討中という。

一見、強引な変更の背景にあるのは米国のアキレス腱とも言える深刻な肥満問題だ。

全国健康栄養調査の2017-18年のデータによると、全成人のうち「肥満」(BMI値30以上)と診断された成人の割合は、なんと42.4%。肥満の一歩手前の「太り過ぎ」(同25以上30未満)も全成人の30.7%いる。つまり国民の3人に2人が太っているのだ。

子どもの肥満も深刻で、2~19歳の肥満率は2017-20年のデータで見ると19.7%にも達している。

肥満は糖尿病や心疾患、がんなど様々な病気を引き起こすため、政府の医療財政を圧迫。米軍のリクルート活動に支障がでるなど国防にも影を落としている。

WHOも推奨野菜からジャガイモを除外

肥満の最大の原因は高カロリーの食生活だが、そこにジャガイモが深く関与しているというのが分類を見直す理由だ。

ジャガイモは米国人に最も人気のある野菜で、農務省の2019年のデータによると、正味の1人当たり年間消費量は22.4キログラム。2位のトマトの14.3キログラムを大きく引き離している。

ジャガイモはビタミンⅭやカリウム、食物繊維を豊富に含む栄養価の高い野菜だが、野菜の中では糖分が多く高カロリーでもある。

世界保健機関(WHO)は健康的な食生活のために大人は野菜や果物を1日400グラム以上とることを推奨しているが「ジャガイモやサツマイモ、キャッサバ、その他でんぷん質の多い根野菜類を除く」と条件を付けている。

加工食品が問題

さらに問題なのは、米国ではジャガイモと言っても、フライドポテトやポテトチップスなど脂肪分や塩分、さらに多くの糖分を多く含む加工食品の形での消費が主流になっていることだ。

農務省の別のデータによると、ジャガイモ市場全体に占める生鮮食品としてのジャガイモのシェアは1980年前後から徐々に低下し、現在は25%程度。それと反比例するように、冷凍ジャガイモのシェアは拡大し続け50%に迫る勢い。その大半はフライドポテトという。

フライドポテトは今や学校給食でも提供されており、子どもの肥満の原因としてやり玉に上がっている。

ハーバード大学の栄養学の専門家はワシントン・ポストの取材に答え、「問題はジャガイモというより加工食品だ」と指摘している。

業界団体は大反対

食生活指針でジャガイモが「野菜」から除外されると、学校給食も見直しが迫られ、ジャガイモが献立に登場する回数は少なくともこれまでよりは減ると考えられている。国民のジャガイモに対する見方が変わり全体の消費量に影響を与える可能性もある。

そうした事態を防ごうと分類の見直しに大反対しているのが、大規模ジャガイモ農家などでつくる「全米ジャガイモ評議会」だ。同評議会のカム・クォーレス会長は昨年9月12日に開かれた諮問委員会で証言し「ジャガイモは野菜だ」などと訴えた。

政治に振り回されてきた歴史

ジャガイモの扱いをめぐっては、これまでも何度も激しい攻防が繰り広げられてきた。

例えば、貧しい家庭の女性や子どもを栄養面から支援する政府のプログラム「WIC」は対象者に食品のクーポン券を支給しているが、ジャガイモは使用できる食品のリストから除外されていた。

だが、当初この方針を支持していた全米医学アカデミーが2010年代半ばに方針を転換してジャガイモの購入を容認したことで、その後、条件つきながらクーポン券でジャガイモが購入できるようになったと、PBS(公共放送サービス)などが伝えている。PBSはこの動きの背後に業界団体のロビー活動があったと示唆した。

オバマ大統領の時代には、子どもの肥満問題に熱心に取り組んでいたミシェル・オバマ大統領夫人が音頭を取り、学校給食のメニューからいわゆるジャンクフードの類を極力排除し、代わりに野菜や果物を増やすなど、学校給食の大幅な見直しが進んだ。

しかし、トランプ大統領の時代に再び見直しが行われ、フライドポテトやピザなど高カロリーのメニューが復活した。

果たしてジャガイモは「野菜」に残留するのか、それとも「穀物」への移籍となるのか。これまでも政治に左右され続けてきただけに、結論は今秋行われる大統領選挙後に持ち越しという可能性もある。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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