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大相撲春場所千秋楽 優勝は記録づくめの新入幕・尊富士か、大器・大の里か――混沌とした異例の優勝争い

飯塚さきスポーツライター
新入幕で初優勝の可能性のある尊富士(写真:スポニチ/アフロ)

大きな歴史を目前とした大相撲春場所。明るい結末は、十四日に大きく揺らいで暗雲に飲み込まれた――。

トップを走る尊富士に土、そして右足首の異変――

入門からわずか10場所、新入幕の尊富士の奮闘が、連日取りざたされている。新入幕にして初日からの11連勝は、伝説の横綱・大鵬に並ぶ大記録となった。新入幕での優勝となれば、なんと110年ぶりの快挙とあり、注目が高まっていた。

十四日目は朝乃山戦。後を追う大の里、豊昇龍とは2つの星の差をつけていたため、朝乃山に勝てば優勝が決まる。尊富士の持ち味は立ち合いの馬力と出足。まずは立ち合いで踏み勝ちたい。対する朝乃山は、立ち合いで冷静に組み止めて自分の形になれば勝つだろうと思われた。

立ち合い。尊富士の鋭い当たりを、朝乃山がガッチリと組み止めた。得意の右四つの形になり、そのまま休まず攻めて寄り切り!さすが大関経験者と手をたたいたのも束の間、土俵下の尊富士がなかなか動けない。館内もどよめくなか、付け人の肩を借り、最後は車いすで花道を下がって医務室に向かった。一体、何が起こったのだろうか。

優勝争いは若き2人の平幕力士に

事態が飲み込めないまま、3敗で後を追う大の里が、阿炎を退けて優勝争いにとどまった。結びで琴ノ若と対戦した豊昇龍は一方、右に動いて上手を取りにいくも、土俵際で琴ノ若に寄り倒され無念の黒星。これで、今場所の優勝の可能性は尊富士と大の里という若き平幕の力士に絞られた。

まずは、尊富士のケガの状況が気になるところ。しかし、今回の場合は万が一休場しても、自身の優勝の可能性が残る。ケガを押して勝つ「美学」のようなものはあれど、彼はまだ入門してたったの10場所目。これから先の長い土俵人生を考えると、決して無理はしてほしくない、というのが外から見た率直な思いである。

一方、大の里は勝てば自身の手で賜杯を大きく近づけることになる。目の前の一番に集中し、偉業を成し遂げることができるか。あらゆる記録づくめが期待された今場所は、誰も予想だにしなかった形で千秋楽を迎える。

<参考>優勝争いの行方

▽12勝2敗 尊富士

▽11勝3敗 大の里

・尊富士が〇 → 尊富士の優勝決定

・尊富士が●または休場 大の里が● →尊富士の優勝決定

・尊富士が● 大の里が〇 → 尊富士と大の里による優勝決定戦

・尊富士が休場 大の里が〇 → 尊富士不戦敗で大の里の優勝決定

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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