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新三役昇進の錦木 名古屋場所で初の殊勲賞、活躍の裏に出稽古とお酒?「1年355日くらい飲んでる」

飯塚さきスポーツライター
伊勢ノ海部屋の稽古場でインタビューに応えていただいた錦木(写真:筆者撮影)

大相撲名古屋場所で一時は単独トップにも立ち、場所を盛り上げた伊勢ノ海部屋の錦木。10勝5敗の好成績で、自身初の殊勲賞にも輝いた。9月場所は新三役として場所に臨む錦木に、名古屋場所の振り返りをしていただいた。

本音は「11勝したい気持ちがあった」

――初日は新大関・霧島関の休場で不戦勝でした。不戦の影響は。

「特にありませんでした。むしろ、中途半端なところじゃなくて初日だからよかったんだと思います。心理的な影響もなかったですね」

――9日目で勝ち越しを決めた心境は。

「自己最高位で、勝ち越せば三役に上がれるかもしれないときに、9日目で勝ち越せたのは大きかったですね。勝ち越した時点で、次の場所の番付が落ちることはないので、少しホッとした部分はありました」

――途中、単独トップの場面もありました。プレッシャーはありましたか。

「なかったと思っているんですけど、心の奥底に何かあったかもしれないし、自分ではわからないんです。ただ、優勝の意識はしていませんでした。10番じゃ絶対無理で、最低でもあと1、2番勝たないと見えてこないなと思っていたので。そしたら残り全部負けてしまったので、欲を出したのがよくなかったのかなと(苦笑)。自分は幕の内で10番が最高だったので、11勝したいっていう気持ちがどうしてもありました」

――しかし、いい相撲がたくさんありました。印象的な一番は。

「若元春戦ですかね。当たってすぐ攻めていけたので。あと、横綱に勝てたのは大きかったですよ。もろ差しまでは予定通りで、その後は予想していませんでしたが、タイミングよく投げられました」

――初の殊勲賞にも輝きました。いかがでしたか。

「今回は受賞した人が多くて(史上最多の7人)、なんか目立たなかったなあ~(笑)。三賞のトロフィーはそのままもらえるんですが、敢闘賞の人は2人くらいトロフィーがなくて、後日発送しますなんて言われていました。あと1、2勝していたら、敢闘賞とのダブル受賞もあったかもしれないですが、なにせ最後の印象が悪かった(苦笑)」

――場所を総括していかがですか。

「後半は疲れが出たのか、だらけてしまいましたが、悪くはなかったと言いたいですね」

目指すのは、どんな形でも自分から攻める相撲

――普段、取り口の研究はしていますか。

「とにかく相手がどういう立ち合いをしてくるかしか考えていないです。自分、不器用なのでね。稽古したことしか本場所の土俵で出ませんから。突然立ち合い変化なんてできないし、したこともないし、したところで悔いが残るだけです」

――どっしりと重い腰で、どんな相撲も取れる関取ですが、理想とするのはどんな相撲ですか。

「いい立ち合いをして、自分から前に攻めていく相撲です。なまくら相撲だからよくないですが、どんな形でも攻めていけたらと思っています」

――長い夏巡業もお疲れ様でした。

「はい、疲れました。北海道とか、北のほうに行くと支度部屋にクーラーがなくて、暑かったです。そんななかでファンサービスもしっかりできたし、名古屋場所で成績がよかったので、いろんな人に声をかけていただきました。巡業の稽古は、番数がたくさん取れなくても、行くことが大事だと思っているので、毎日土俵に上がっていました」

――関取はよく出稽古に行かれている印象です。

「基本は出稽古ですね。いろんな関取衆とできるので、いい稽古になっているんじゃないかなと思います。だいたい行く部屋は決まっていて、荒汐部屋か時津風部屋。あとは仲いいメンバーでLINEグループを作って、みんなで『出稽古どこ行く?』って誘い合って行くこともあるし、特になければ個人的に行っています。特に仲がいい人はいないけど、誰とでも分け隔てなく喋るようにしていますね」

――以前、立浪部屋でもお会いしましたよね。

「あのときは、豊昇龍が誘ってくれたから行きました。『やりましょうよ~!』って。そんなこともあります」

今年の2月、立浪部屋で豊昇龍(写真左)と稽古した錦木(写真:筆者撮影)
今年の2月、立浪部屋で豊昇龍(写真左)と稽古した錦木(写真:筆者撮影)

「大好きなお酒を飲むために日々頑張っています」

――自由な時間は何をしていますか。

「酒飲んでます。酒が趣味なので、毎日飲んでいますよ。一年355日くらい飲んでるんじゃないかなあ。体調を崩したときとか、ワクチン接種や健康診断の前日以外は飲んでいます」

――お酒は何が特に好きですか。

「芋焼酎です。なんでも飲めますけどね。毎日四合瓶、五合瓶、下手したら半升くらい飲んでいる日もあるんですけど、最近次の日に酒が残るようになってきました(苦笑)。でも、大好きなお酒を飲むために日々頑張っているのでね」

――現在33歳。年を重ねてきて、これまで大きなケガもないままですが、その秘訣は。

「無理をしないこと。もともと安全第一です。稽古場だったらいくら負けてもいいので、危ないと思ったら力を抜きます」

――来場所はついに新三役です。率直な感想は。

「入幕してからの目標が三役だったので、遅かったですが、うれしいですね」

――初土俵から所要103場所での新三役は、史上3位のスロー記録とのこと。その分、喜びもひとしおですね。

「三賞受賞も、歴代1位のスロー記録らしいです。でも、長年の目標だったのでうれしいし、これからも番付を上げるために頑張らないといけないですね。30歳を過ぎて、同期生もどんどん辞めて、どこまで体がもつかもわからない。僕、なかなかないと思うんですけど、序ノ口は三番出世だったんです。そんなに弱かったのに、才能がなくても長年やればどうにかなるっていうね。いまは学生上がりのエリートがたくさんいて、すごいなあと思います」

――中学卒業後に入門し、ここまで来ました。いよいよ新三役で迎える9月場所の目標は。

「その地位を楽しむこと。新三役なので、場所を楽しみながら勝ち越しを目指したいです。勝っても負けても気を落とさず、楽しんでいければなと思います」

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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