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春場所でただ一人中日勝ち越しを決めた翠富士の強さ 2023年の大相撲は「戦国時代」に突入

飯塚さきスポーツライター
碧山を破って勝ち越しを決めた翠富士(写真:日刊スポーツ/アフロ)

群雄割拠の2023年大相撲春場所。綱取りだった大関・貴景勝のケガと休場が残念で、筆者は寝込んでしまいそうであったが(横綱大関不在の場所はなんと125年ぶりだという)、その穴を埋めてくれたのは、やはり土俵に立ち続ける力士たちの奮闘だった。

翠富士が自身初の中日勝ち越し

まず言及したいのは、なんといってもただ一人全勝街道をひた走る翠富士である。この日は自身より72キロも重い碧山と対戦。体格を生かした破壊力のある突き押しを武器とする碧山に、小兵・翠富士が向かっていった。

立ち合いで強烈なかち上げを繰り出した碧山。しかし、驚いたのはそれにひるまず食らいついていった翠富士の強さだ。碧山の突き押しをしのぎながら左からいなし、素早い横の動きで左の下手を取り、頭をつける。そして碧山が出てくるところを右に動いて横につき、最後まで止まることなく攻め続け、最後は正面側に寄り切った。前に出続けた素晴らしい相撲。自身初となる中日勝ち越しを決めた。

インタビューで見せた無邪気な笑顔と気さくな語り口調も、きっと多くのファンを惹きつけたであろう。「(優勝も)あるぞ、でもなんだかんだいって無理だろうけど」という同部屋の横綱・照ノ富士からの愛ある“いじり”も力に変えて、好調の波をさらに押し広げていってほしい。

見えない優勝争い 誰にでもチャンス

見応えのある相撲が多かった大阪場所中日。突き押し同士の対戦となった大栄翔-阿炎戦は、大栄翔が見せた両手でのあてがいの技術が光った。あてがわれて突きにくかったと阿炎が語ったようだが、それもそのはず。あのスピードのなかで両腕をあてがう技術はすでに技能賞に値すると思うほどであった。ぜひ贈ってほしい。

正代は、かつて大関へ駆けあがっていった頃の本来の強さを取り戻しており、勢いのある若元春を相手にしなかった。立ち合いから左の腕(かいな)を返し、そのままの勢いで土俵外までもっていってしまったその強さは目を見張るものがあった。

霧馬山-翔猿も熱戦の展開。翔猿は持ち味を生かしてとにかく動き回るが、霧馬山が冷静に対処し組み止める。霧馬山がまわしを取れない状態でしばらく両者硬直状態が続くも、霧馬山が左の上手を一枚まわしでつかみ、翔猿が左を巻き返しに来たところをすかさず前に出た。土俵際まで追い込み、そのまま左から執念の上手投げ。翔猿は敗れはしたものの健闘、両者疲労困憊の大熱戦であった。

優勝争いの星勘定をするのがまだもったいないほど、白熱した取組が多かった中日。まさに「戦国時代」といえる今場所の行方は誰にもわからない。ここ数場所と同じように、誰にでもチャンスがあるといえる。今場所もいよいよ今日から後半戦に入るが、いまはまだ、数々の熱戦の余韻に浸っていることをお許しいただきたい。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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