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次期大関候補の一人・霧馬山 初場所で初の技能賞にびっくり 「貴景勝関に勝てたのは自信に」

飯塚さきスポーツライター
初場所を「自信になった」と振り返る霧馬山(写真:筆者撮影)

2023年大相撲初場所を彩った力士たち。今回は、11勝を挙げ自身初の技能賞に輝いた小結・霧馬山にインタビューした。師匠は元大関・霧島、部屋付きには元横綱の鶴竜親方がおり、周囲の力士や親方衆からの期待も大きい。大阪場所は自身最高位の関脇で迎える可能性の高い霧馬山に初場所を振り返っていただき、若隆景・豊昇龍らライバルの存在についても話を伺った。

前に攻める相撲が印象的だった初場所

――初場所は11勝4敗で技能賞も獲得。素晴らしい場所だったと思いますが、場所前の調子はいかがでしたか。

「同じ一門の荒汐部屋に出稽古に行って、関取衆と胸を合わせたのがよかったなと。番付の近い人(若隆景、若元春)もいるし、そこで一生懸命稽古した結果が15日間に出たなと思います」

――初日は、玉鷲関と取り直しの熱戦でしたが、いかがでしたか。

「やっぱり初日っていつも緊張するんですけど、2番取ったから緊張がなくなりました。そしたら、一日一番自分の相撲を取れました」

――初日から2番はきつかったのではと思いましたが、いい方向に働いたんですね。

「そうですね。緊張がなくなったし、前に攻める相撲ができたので、負けても体の調子はいいなと自分のなかで思えました。その調子で2日目は高安関に勝てたので、強い力士に勝てて、やっぱり調子がいいなと。でも一日一番は大事」

――そして12日目、大関・貴景勝関に勝って勝ち越しました。そのときの心境は。

「最高でした。その前の九州場所も、12日目に当時大関の正代関に勝って勝ち越しましたから、初場所も同じ状況で勝ち越して、すごくうれしかったです。それに、貴景勝関は優勝争いの先頭にいたので、その人に勝てたのは自信になりました。この相撲が一番印象に残っています」

――振り返れば、不戦勝も含めて最後は6連勝で終わりました。

「貴景勝関に勝って自信をつけた後も、1日も楽な相手はいなかったので、一生懸命相撲に集中していきました」

――14日目に対戦した阿武咲関も、初場所好調だったと思いますが。

「彼も優勝争い先頭だったからね。自分は優勝なんて考えていなかったけど、向こうは優勝がかかっていたから緊張しているなって思いました。でも、そこで自分も一緒に緊張しちゃったら負けるかもしれないので、いつも通りのペースでやろうと思ったのがよかったんだと思いますね」

――ほかに印象的な取組はありますか。

「九州場所で優勝した阿炎関に勝ったこと。強い人にたくさん勝てた場所だったので、このままこの調子でいきたいです」

――相撲内容を振り返っていかがですか。

「初場所は、まわしを取って頭をつけていく相撲があまりなくて、突き押しが多かったんです。珍しかったかなと思います。いつも土俵に上がる前に『まわし取って頭つける』と思っていくし、親方からはそれを基本として教えてもらっているんですけど、突き離していく相撲も取れたのは逆によかったと思いますね。もちろん、いろんな技をやるよりひとつの技をちゃんとやるほうがいいんですが、いろいろできるのもいいことかな」

――今回の技能賞は、そういった相撲の幅の広がりも評価してもらったのではないでしょうか。

「びっくりしたんですよね。千秋楽の日、昼寝から起きて協会のTwitterを開いたら、鶴竜親方が写っている写真に『霧馬山』って書いてあって、え!って」

――SNSで自分の三賞受賞を知るって、いまっぽいですね(笑)。率直な感想は。

「うれしいけど、だからこそもっと頑張らないといけないなと思いました」

力士・親方衆からの大きな期待

――今後の課題についてはどうでしょう。

「土俵際まで攻めているのに、最後に足が前に出ないで倒れてしまうこと。今回も2番くらいそういう相撲があったのでこれから直していきたいし、それ以前に一発で勝負を決められるくらいの力をつけていきたいですね。それが直ればいいところまでいくんじゃないかな。鶴竜親方に『これ以上突っ込んでいくと相手が引いてくるかなと思って、思い切って出られませんでした』と話したら、『それで負けたとしても攻めたほうがいいよ』とアドバイスをもらいました」

――元大関の師匠と、元横綱の鶴竜親方がいる陸奥部屋。素晴らしい環境ですよね。

「本当にそうです。お二人は大関と横綱だし、言っていることがすごく大事なことばっかり。師匠は、自分のよくないところを全部教えてくれます。だからこそ頑張らなきゃいけないです。入ったときから師匠の動画をたくさん見ていたし、目標にしたい人。吊り出しとか筋肉とか本当にすごいんですけど、自分は頑張ってもあそこまで強くならないなあと思っています。でも、やっと近くの番付まで来たので、自分の力をどう伸ばしていくか。自分でも本当に楽しみにしています」

――周囲から期待が大きい関取。以前、高安関が「よく稽古するし、自分の稽古にもとことん付き合ってくれる」と絶賛されていました。

「あ、本当ですか(照)。高安関はよく稽古しますが、本当に力が強いし、どちらが年下かわからないくらい一生懸命稽古するので、高安関に対してちゃんと力を出せれば強くなるなと感じました。高安関は、場所中はしゃべらなくても、稽古場ではよく話してくれますね。元大関ですし、優しいから、たくさんアドバイスしてくれます」

――荒汐親方も、霧馬山関はオーラが出てきたと言っていました。

「稽古を十分できて自信になってきたし、自信がついてくると気持ちも強くなると思います。一番大事なのはやっぱり稽古。これからも出稽古OKなら、バンバン稽古したいですね。まだ若いですから」

若隆景・豊昇龍 刺激的なライバルの存在

――これで6場所連続勝ち越していますよ。

「初めてのことですが、できるだけ(記録を)伸ばしていきたいと思っているし、それをするのは自分なので、どこまで伸ばしていけるかが楽しみです。豊昇龍関と若隆景関が7場所勝ち越しているから、二人に負けたくない。いいライバルです。場所で当たったら絶対に負けない気持ちで戦っているけど、取組が終わったら笑いながら話すのもいい」

――ライバルのお二人はどんな存在ですか。

「二人がいるから頑張れるし、負けたくない気持ちがあります。若隆景関は優勝したから、自分も優勝しないといけない。彼は、話すとどことなく自分と似ている雰囲気があると思います。豊昇龍関は、モンゴルで同じ柔道クラブに通っていたから昔から仲良しで、向こうは自分のことを先輩だと思っています。あと、剛士さん(若元春)も普段から話します。彼は豊昇龍関と一緒でおしゃべりだから(笑)。最近剛士さんが上に上がってきたので、相撲がまた楽しくなってきましたね」

――次は番付最高位(関脇)になりそうです。

「いろんな人から、次の大阪場所で13番勝ったら大関だろうと言われますが、プレッシャーもかかるし、逆にそう考えていたら失敗しちゃうから、自分のペースで臨みたいです。やるのは自分ですから。勝ちたいと思いすぎたら初場所みたいな相撲を取れなくなっちゃうので、負け越してもいいんだからって、それくらいの気持ちでいこうと思っています」

――期待は大きいと思いますが、気負わず焦らず、ですね。2023年の目標はなんでしょうか。

「目標は一日一番、ケガしないように相撲を取ること。今年中には、できれば番付をさらに一つ上げたいです。プレッシャーに負けず、いつも通り頑張ります」

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スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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