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伊勢ヶ濱部屋から独立の安治川親方 角界の未来担う若隆景・錦富士らに大きな期待寄せる

飯塚さきスポーツライター
部屋を興したばかりの元関脇・安美錦の安治川親方(写真:日本相撲協会提供)

豊昇龍、若隆景、霧馬山、阿炎、琴ノ若…「次期大関候補」が連日土俵を沸かせている大相撲初場所。横綱不在、大関が貴景勝ただ一人という状況下ながら土俵が充実しているのは、まさしく彼らの活躍によるものである。

一方、館内の相撲博物館で毎日行われている「親方トークイベント」も盛況。今回は2日目に登壇した元関脇・安美錦の安治川親方に話を聞いた。昨年伊勢ヶ濱部屋から独立。2人の弟子と共に、この初場所から新生安治川部屋として本場所に臨んでいる。現在の部屋の様子や今場所の土俵について伺った。

明るく軽快なトークが光る

2日目の1月9日は成人の日。祝日とあって多くのお客さんが足を運んだ。イベントに登壇した親方は、司会の音羽山親方(元幕内・天鎧鵬)と共にいつも以上にキレのあるトークを展開。随所に笑いを交えながら、現在の弟子のことや6月に完成予定の部屋の様子、はたまた現役時代の思い出まで幅広く語った。

特に現役時代のエピソードは興味深く、対戦相手の細かい動きを察知し、立ち位置を横にずらしたり、立ち合いで右手を先につくと見せかけて左手からついて相手を翻弄させたりと、技巧派力士ならではの策略を披露。また、「やりにくかった相手は?」の質問に元大関・千代大海(現・九重親方)や元幕内・若孜の名を挙げたが、「やっぱりいま隣にいる天鎧鵬ですかね」。それを受け、音羽山親方がすかさず「皆さん。僕たち対戦ないですからね!」と元気な声で放つと、会場は笑いの渦に包まれた。笑いのパスの出し方までも、まさに業師といったところか。

約23年間の土俵人生。40歳で引退するまで長く現役を務め上げた。その秘訣は「新しいことを楽しんでやってみること」と言い、いくつになっても柔軟性をもつことの大切さを語った。そして最後に、「今年は部屋の足場を固め、気負わずいい1年にしたい。皆さんに応援してもらえる力士を育てたい」とさわやかに前を向いた。

笑いの絶えないトークイベントとなった(写真:筆者撮影)
笑いの絶えないトークイベントとなった(写真:筆者撮影)

錦富士が横綱の次に伊勢ヶ濱をけん引と期待

――トークイベントお疲れさまでした。今回はいかがでしたか。

「部屋に関する質問がたくさんあったので、気にしてもらえているんだなと思えてありがたかったです。早く皆さんが稽古を見に来られるようになればいいなと思いました」

――2人のお弟子さんたちにとっては初めての本場所です。

「兄弟子もいませんし、朝ちゃんと来られるかな、反対の電車に乗っていないかななんてところから心配していました。いままで自分が当たり前にしていたことも、その子にとっては初めてのことですから、一から丁寧に教えていきたいなと思っています」

――ラグビー経験者で岐阜県出身、ご両親がブラジル人の飯間さんは今場所が前相撲です。出会いはどちらで?

「ラグビー場です。ラグビーの知り合いが何人かいまして、お母さんが昔力士にさせたかったと言うのと、本人にやる気が出てきたので誘いました。体は立派なので、相撲の筋肉をつけていけば面白いと思います。経歴や育ちにストーリーのある子に惹かれるので、頑張ってほしいと言いました。もう四股名も考えていて、安治川の『安』をつけようかなと。“あ”から始まるポルトガル語を言ってもらったら、そのなかでいいのがあったので、来場所楽しみにしていてください」

――イベントでは、親方の注目力士は若隆景関とおっしゃっていました。

「体の大きい力士と戦うときの理想の相撲を取る力士だと私は思うので、わんぱく相撲の子たちには若隆景を手本にしなさいと言っています。角度や構えがすごくいい。その若隆景が大関・横綱に上がっていけばいいなと、期待を込めて注目しています」

――横綱・照ノ富士関の不在は残念ですが、しっかり休んで万全の状態で戻ってきてくれると思っていていいでしょうか。

「そうですね。膝の状態的には今場所も出られる可能性があったかもしれないけど、リハビリや体づくりに関してはもう何年もやってきているので、少し時間をかければ大丈夫だろうと思っています。焦らないことですね」

――伊勢ヶ濱部屋のほかの力士への期待もお聞かせください。

「錦富士がようやく力をつけてきました。稽古場でもずっと一人で動いているので、錦富士を稽古場の手本にしろといつも言っています。横綱の次に伊勢ヶ濱を引っ張っていくのは錦富士だと思えたので、私も安心して独立できたかな。(勇み足で負けてしまった)初日の相撲も、内容的には問題ありません。腰寄せがよすぎて足が出ちゃっただけなので、あれを見て余計にああ大丈夫だなと思いました。左四つにこだわらず、攻め方の幅が広がってきましたし、このままの勢いで駆け上がってほしいですね」

――安心して独立されたとのこと。安治川部屋はすでにホームページ公式LINEを立ち上げています。今後の展望は。

「応援してもらえることも大事ですが、まずはしっかり弟子のことを考えながら指導すること。新米部屋ですから、うまく弟子とコミュニケーションを取って、風通しのいい部屋にしたい。小さな部屋でみんな家族みたいなものですから、一人一人をよく見てよく話し、よく笑ってよく泣いて、そういうことを共有しながらいい相撲部屋になっていけたらいいですね。私も試行錯誤しながらなんとか頑張ります」

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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