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「絶対泣きます」 親方になった“平成の猛牛”元豊響が語る断髪式への思い、境川部屋力士たちへのエール

飯塚さきスポーツライター
来年1月29日に断髪式を控える元幕内・豊響の山科親方(写真:日本相撲協会提供)

2021年6月、惜しまれながら引退した元幕内・豊響。現在は山科親方として、所属する境川部屋で弟子の指導に当たる。来年1月29日(日)には断髪式を控え、その準備に奔走中。引退時の心境や、親方としての日々、断髪式への思い、そして境川部屋の現役力士たちについても話を伺った。

来年1月に断髪式「地元への恩返しにしたい」

山口県出身の山科親方。2005年1月場所の初土俵から、実に約16年半現役を務めた。力士としての終盤は、十両から陥落するなどつらい約3年間だったが、「辞めるときは心身ともにボロボロで、やりつくしたなという感じでした。後悔はないです」と清々しい表情。現在も稽古場ではまわしを締め、力士たちに胸を出しているという。

現役時代を振り返り、応援し続けてくれた地元への感謝を口にする。

「故郷にちなんだ四股名がつくこともありますし、地元を挙げて応援してもらえるスポーツって、なかなかほかにないじゃないですか。地元から応援されてよかったなと思っているので、これから恩返ししていきたいです」

そんな山科親方は、断髪式で地元・山口県を盛大にPRしていきたいと考えているそうだ。

「物産展の開催を考えています。山口県のおいしいものを販売できたらなと。代表的なのはふぐですが、僕の地元・川棚は瓦そばが有名なので、お土産で買えるようにしたいです。菊関(元大関・琴奨菊)の断髪式で物産展を見に行って、すごくいいなと思いました。現役時代は地元から応援されて土俵に立っていたので、最後は地元に恩返ししていきたいです」

断髪式では「絶対泣きます。そういうの弱くてダメなんですよ」と笑う親方に、髷への思いも聞いた。

「いざ切るとなったら寂しいのかなと思いますが、早く切って、親方としての区切りにしたいですね。いまはそう思います。(新しい髪形は)短くはすると思うんですけど、想像つかないかな。学生のときは坊主だったので。切ってみてボリュームがなかったら、パーマをかけようかなと思います」

断髪式までおよそ2ヵ月。国技館が豊響色に染まる日はもうすぐそこだ。

平戸海・對馬洋らご当地出身力士へ期待

山科親方に、現在真っ最中の九州場所で奮闘する境川部屋力士たちについても話を伺った。注目は、なんといってもご当地力士の平戸海と對馬洋だ。部屋での二人について、親方は次のように語る。

「平戸海が上がるまで十数年、部屋に関取が出なかったんですけど、平戸海が上がったことによって部屋の若手が『次は俺も』と活性化されていい方向に行っていると思います。自分もそうでしたが、平戸海も、師匠から『引きやはたきといった小細工で勝つんじゃなくて、我慢して前に出て相撲を取れ』と教えられてきてそれを守っています。いまの部屋の若手の手本になっていますね。對馬洋からしたら、平戸海は長崎の後輩でもあるし、先に上がられて燃えたと思います。對馬洋はケガが多いので心配ですが、向上心が強く、体のケアやトレーニングを人一倍頑張っているので、もっと早く上がってもよかった。でも、これで自信がついたらさらに上に行けると思っています」

妙義龍・佐田の海のベテラン二人についても聞いた。山科親方は「基礎をコツコツ大事にしているのが、第一線で長く取れている秘訣」と分析する。

「僕はね、四股とか大っ嫌いだったんです。大っ嫌いだったのに『四股踏め』なんて言うのすごく後ろめたいんですけど(笑)、でももっと四股を踏んだら40歳くらいまで取れたのかなと思うので、後輩力士たちには言っていきたいです。佐田の海関なんか、見ていてすごいなと思います。場所中、取組が終わって帰ってきてもずっと体を動かしていますから。僕は気持ちだけで取っていたので、考えられないです」

親方として、今後は地元でのスカウティングも含め、相撲の普及に尽力していきたいと語る山科親方。これからどんな指導者を目指していくのだろうか。

「境川部屋のために師匠に一生ついていって、部屋をもっと盛り上げていきたい気持ちでいます。大相撲に入って地元から応援してもらえること、周りの支えや感謝の気持ちなど、身をもって体験したことを共有しながら、力士と一緒に生活していきたいですね。20年前の自分は、まさか自分が親方になって国技館で断髪式をするなんて考えられなかったので、誰にだってチャンスがあると思います」

親方になった平成の猛牛はいま、自身のためだけでなく、後輩力士と角界の未来のために、これからも前へと突き進んでいく。

断髪式の詳細(開催日時やチケット情報)

豊響引退相撲事務局

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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