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「諦めない」海外から角界入りの夢を追い続ける若者たち 彼らが気づかせてくれる相撲の魅力

飯塚さきスポーツライター
話を聞いたヤルデンさん(左)とアミランさん(写真:本人提供)

いまや世界中に存在する大相撲ファン。単なるスポーツだけでなく、日本の古き良き伝統文化のひとつとして継承される大相撲は、その様式美も相まって多くの海外ファンを魅了し続ける。

そんななか、自らが力士になることを切望する人々がいる。外国出身の力士が多く活躍する昨今ではあるが、「外国出身者は一部屋一人まで」という制約もあり、海外からの角界入りは非常に狭き門になっていると言わざるを得ない。厳しい状況下ではあるが、相撲への情熱にあふれ、いまなおそのチャンスをものにしようと奮闘する若き青年たちを紹介したい。

熱い相撲愛で角界入り目指す

一人目は、イスラエル出身のヤルデン・ヤトコヴィスキーさん。現在24歳。新弟子検査を受けられるのは23歳未満だが、格闘技で一定の成績を残していれば25歳未満まで受けられることになっており、残り少ない期間でそのチャンスをうかがっている。

ヤルデン・ヤトコヴィスキーさん(写真:本人提供)
ヤルデン・ヤトコヴィスキーさん(写真:本人提供)

力士を目指したのは、朝青龍の相撲に魅了された4歳の頃。しかし、イスラエルには相撲の道場などはないため、幼少期は柔道や柔術、そして15歳からはハンドボールに親しんだ。「イスラエル柔道協会カップ」で優勝など、実績は十分。2019年10月に兵役を終え、入門を目指して2020年3月に来日予定だった。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大がそれを阻んだ。渡航がままならないまま、23歳を過ぎて現在に至る。

しかし、ヤルデンさんの相撲への情熱はとどまるところを知らない。独学で稽古を積み続け、現在は四つ相撲を磨くためモンゴルに滞在し、モンゴル相撲を習う日々。「私は相撲のすべてを愛しています。好きな力士はたくさんいますが、一番は横綱・照国。でも玉錦、北の湖、千代の富士、大鵬も好きだし、現役では御嶽海と宇良が好き」と、その愛はあふれて止まらない。

そんなヤルデンさんは、相撲愛が大きすぎるあまり、一部屋に外国出身力士は一人までという制約に理解を示しているところも感慨深い。

「残念ながら私は外国人ですが、でもそのルールがあることで、相撲という世界が日本のものであり続けることができているんだと思います。相撲は今日まで存在する日本の伝統文化です。それをこれからも守り抜いてほしい」

誰よりも相撲を愛してやまないヤルデンさん。彼はいまも、来日と入門を心から希望している。

実績十分 ジョージアからの刺客

二人目は、ジョージア出身のアミラン・ツィコリゼさん。現在23歳で、新弟子検査を受けられる基準の「23歳未満」は過ぎてしまったが、彼も柔道経験があり、欧州相撲選手権で優勝など高い実績を誇る。実は、先日断髪式を行ったばかりの元小結臥牙丸とは親戚で、彼のアテンドのもとで、この5~6月に相撲部屋に稽古にも来ていたそうだ。

アミラン・ツィコリゼさん(写真:本人提供)
アミラン・ツィコリゼさん(写真:本人提供)

「昔は柔道に打ち込んでいたけど、体重が増えるにつれて、相撲のほうが自分に合っているなと思うようになりました。それに、相撲の歴史を知ったら、これはただのスポーツじゃない、日本の文化なんだと思い、日本人や力士の皆さんへの尊敬の念が生まれたんです。相撲のプロは日本にしかないというところにも惹かれましたね」

アミランさんは、柔道選手としても含めて4度の来日経験がある。本格的に来日して部屋を探そうとしたのが2020年。ここでまたコロナが若者の夢を奪う。来日の機会がないまま、時だけが無情に過ぎていった。

そうでなくても、海外出身者にとっての入門のハードルが高いことは身に染みて感じていた。いくつか部屋にも掛け合ったが、受け入れてくれるところはなかったという。それでも彼も、夢を諦めない。

「私は柔道と相撲の大会での実績があるので、角界入りを諦めたくはありません。日本語の勉強もしています。いつかどこかの部屋が私を受け入れてくれたらと願っています。私も臥牙丸関や栃ノ心関のようになりたいし、ここまで助けてくれている彼らには本当に感謝しています」

二人に共通しているのは、新型コロナウイルスという誰も予想だにしなかったものがその道を阻んだこと。身動きができないまま、貴重な数年間が過ぎてしまった。こういった状況を鑑みて、コロナ禍における海外からの挑戦者には特例的な処置を施してはもらえないだろうかと、個人的には思ってしまう。

もちろん、彼ら二人だけが特別ではないこと、世界中には、私たち日本人が想像するより多くの子どもたちや若者が角界入りを熱望しており、そのほとんどが夢を諦めなければならない状況であろうことも強調しておきたい。しかし、世界中にこんなにも志願者がいることは、大相撲への高い注目度の表れであり、我々も日本人として誇りに思えるのではないだろうか。日本で暮らしているとつい見落としてしまいがちな自国のよさ。私たちに大切なものを認識させてくれている彼らの夢が、ここ日本で実現することを願ってやまない。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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