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照ノ富士連覇か、逸ノ城が悲願の初賜杯か――コロナの影響で170人超が休場、異例の名古屋場所

飯塚さきスポーツライター
(写真:筆者撮影)

コロナに翻弄される名古屋場所

大相撲名古屋場所は、新型コロナウイルスの影響により、なんとも異例の場所になってしまった。休場者は、場所前から休場となっていた田子ノ浦部屋や、途中から休場になった出羽海部屋に加え、伊勢ノ海や追手風など、計12部屋・172人(7番取り終えた幕下以下の力士5人は除く)にまで上った。

ゆえに、全体の取組数が激減し、序盤は朝9時半頃だった開始時間が、昨日十四日目はなんと12時45分。13時からのBS大相撲中継では、普段はテレビでなかなか見られない序二段の取組から始まる事態となった。コアな相撲ファンにとっては“うれしい誤算”だが、なかなか大っぴらには喜べない複雑な状況であった。

追手風ら計4部屋が休場となった十三日目は、幕内の取組が7番消滅。5番連続で「不戦勝」の垂れ幕が掲げられるなど、極めて異様な光景が見られた。これには館内がため息とどよめきに淀んだ。コロナという不可抗力とはいえ、こういった異常事態には、ほかのサービスでの補填やチケット代の一部返金に応じるなど、柔軟に対応してほしいと、個人的には思ってしまった。

今場所好調で三賞候補ともいえた錦木、翔猿、琴ノ若らの離脱は特に悔やまれる。とにもかくにも、感染者の少しでも早い回復と、関係者全員の無事を祈るほかない。

最後までわからない優勝の行方

では、十四日目の土俵を振り返ろう。

2敗でトップに立つのは、横綱・照ノ富士と平幕・逸ノ城。逸ノ城は、前日コロナ関連で休場となった錦木との対戦が組まれており、不戦勝となっていた。これに、解説の武隈親方は「調子のいいときの不戦勝は、リズムが崩れることがある」とコメント。十四日目は、勝ち越しのかかった明生と対戦した。

立ち合い、張って左上手を取った逸ノ城。しかし、すぐに上手が切れ、巻き返そうとしたところを、明生が思い切り寄って寄り切り。明生の気迫が勝った一番だった。逸ノ城はこれで3敗に後退。

五日目に照ノ富士(左)を寄り切りで破る逸ノ城(写真:日刊スポーツ/アフロ)
五日目に照ノ富士(左)を寄り切りで破る逸ノ城(写真:日刊スポーツ/アフロ)

3敗で追いかける大関・貴景勝は、結び前に若隆景と対戦。特に後半から力強い相撲を見せていた大関には、取組前から大きな期待がかかっていた。筆者としても、この勢いのまま貴景勝が優勢かと見ていた。

しかし、立ち合いから若隆景が力強さを見せる。貴景勝の必死の小手投げにも食らいついて残ると、まわしを取って大関を一気に送り出した。勝ち越しのかかった若隆景が意地を見せ、これで貴景勝が4敗となり、一気に横綱・照ノ富士が有利になった――かと思われた。

横綱は、カド番脱出を決めた正代との一番。取組前から少々不気味だった正代に対し、横綱は立ち合いから勢いよくぶつかっていった。その刹那、正代が右に動くと、なんと横綱がそのままバランスを崩して前につんのめってしまったではないか! なんとも珍しい負け方をした横綱だったが、正代が大関の意地を見せた瞬間だった。

優勝争いに絡む3人が全員負けたことによって、優勝争いは俄然面白くなった。照ノ富士、逸ノ城は再びトップで並び、勝てば優勝に大きく近づく。両者負ければ4敗で追いかける貴景勝にもまだ可能性が残る。個人的には、優勝経験のない逸ノ城が賜杯を抱く姿を見たいが、貴景勝にも踏ん張ってもらって、巴戦が見たい思いもある。それともやはり、「終わってみれば照ノ富士」になるのだろうか――。

今日この後、戦いの幕が切って落とされる。荒れに荒れた名古屋場所。最後に笑うのは誰だ。

<参考>優勝争いの行方

▽11勝3敗 照ノ富士 逸ノ城

▽10勝4敗 貴景勝

・照ノ富士が貴景勝に〇 逸ノ城が宇良に〇 → 照ノ富士、逸ノ城による優勝決定戦

・照ノ富士が貴景勝に〇 逸ノ城が宇良に● → 照ノ富士の優勝決定

・照ノ富士が貴景勝に● 逸ノ城が宇良に〇 → 逸ノ城の優勝決定

・照ノ富士が貴景勝に● 逸ノ城が宇良に● → 照ノ富士、貴景勝、逸ノ城による優勝決定戦

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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