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荒れた夏場所、最後に締めたのはやはり横綱・照ノ富士――見せつけた本当の強さ

飯塚さきスポーツライター
八角理事長(右)から優勝賜杯を受け取る照ノ富士(写真:日刊スポーツ/アフロ)

優勝争いが混戦を極め、荒れに荒れた大相撲夏場所は、横綱・照ノ富士の3場所ぶり7回目の優勝で幕を閉じた。初日に大栄翔に黒星を喫し、中日を終えて5勝3敗。その前半戦からは想像もできなかった後半の7連勝。右肩上がりに調子を上げていき、最後には賜杯を手にした。

4人の力士による優勝争い

千秋楽で優勝の可能性を残していたのは、照ノ富士に加え、隆の勝、大栄翔、佐田の海の4人。横綱と同じく3敗で並んでいた隆の勝は、4敗の佐田の海と対戦。勝てば優勝に望みをつなぐ一番だったが、やはり硬くなってしまっていた。

立ち合い。隆の勝はうまく踏み込めずまわしも取れないが、相手を押して一気に寄っていく。押し切れるかどうかという刹那、佐田の海が土俵際のすくい投げで隆の勝をひっくり返した。逆転で4敗をキープした佐田の海。つくづく前日の黒星が悔やまれた。

大栄翔は、勝ち越しをかけた志摩ノ海と対戦。立ち合いから強い圧力で相手を突いていき、思い切って引くと、うまく回り込みながらはたき込みが決まった。これで大栄翔も4敗をキープ。結びで横綱が敗れれば、4人による優勝決定戦の可能性もあったが、後半戦の横綱の取組を見る限り、その望みは限りなくゼロに近いように感じられた。

迎えた結びの一番は、照ノ富士がすでに負け越しが決まっている大関・御嶽海と対戦。立ち合いから強く当たり、横綱が頭をつけて右の前みつを取って左を差した。この時点で勝負は決まったようなもの。横綱が万全の寄りで、最後はしっかり腰を落としながら寄り切った。結末の予想と心の準備はできていたものの、あまりの盤石さに鳥肌が立った。

夏場所を盛り上げた力士たち

こうして、今場所は照ノ富士の優勝で幕を下ろした。しかし、最後まで優勝争いに残った3人には、三賞が贈られた。照ノ富士を破った大栄翔と隆の勝は殊勲賞、佐田の海は敢闘賞をそれぞれ受賞。隆の勝は、千秋楽の黒星の悔しさのほうが大きいかもしれないが、それでも自身初金星・初殊勲賞である。おおいに拍手を送りたい。また、35歳ベテラン佐田の海は、実に8年ぶりの受賞。まだまだこれからも活躍してほしい。

十両の土俵では、照ノ富士と同部屋の錦富士が、大奄美との優勝決定戦を制して初優勝。伊勢ヶ濱部屋での幕内・十両同時優勝が実現した。部屋はいま頃きっと祝福ムードに包まれているだろう。部屋関係者の笑顔が次々に浮かび、こちらまでうれしい気持ちになった。

また、二桁勝利を挙げた霧馬山や、まだまだ元気で勢いの止まらない玉鷲、若隆景に引っ張られるように実力を伸ばしている若元春、残念ながら最後は休んでしまったものの、華のある相撲で魅せてくれた宇良など、今場所を彩った多くの力士たちの活躍も、ここに記しておきたい。あらためて、15日間お疲れ様でした。

次の舞台は名古屋。夏場所の余韻にもう少し浸りながら、来場所に待ち受けているドラマにも、期待に胸を膨らませておく。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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