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横綱から3場所連続金星“鉄人”玉鷲の躍進と、平幕勢に首位を譲る若隆景ら役力士たちへのエール

飯塚さきスポーツライター
写真:毎日新聞社/アフロ

荒れに荒れる大相撲夏場所は、中日を終えて後半戦。ここに来ての珍事は、幕内で1敗の力士が残っておらず、2敗がトップで5人並んでいること。しかも、5人のなかに役力士(横綱・大関・関脇・小結)が一人もいないのである。こんな場所はなかなか珍しい。

躍進続ける玉鷲と力をつけた若元春

2敗で並ぶうちの一人は、“鉄人”とも呼ばれる37歳の玉鷲だ。先場所優勝した関脇・若隆景や、大関・御嶽海を破り、6日目には横綱・照ノ富士を立ち合いから電車道で土俵外へもっていき、同一横綱から3場所連続の金星を挙げる快挙まで成し遂げた。

その年齢からは考えられないほどの勢いで快進撃を続ける鉄人は、中日に小兵の翔猿と対戦。立ち合いから相手を問題とすることなく一気に押し出した。筆者も中日は観戦に訪れていたが、目の覚めるような相撲に会場のボルテージも急上昇であった。

また、この日1敗の碧山に土をつけた若元春にも注目したい。若隆景の兄であり、“大波三兄弟”の次男として知られる若元春は、入幕後ぐんぐん力をつけてきた力士だ。この日は、体の大きな碧山に対し、立ち合いで頭から当たると、その勢いで相手の巨体をぐいぐい押し込み、圧倒的な圧力で寄り切ってしまった。強くなってきたなと感じさせるのは、この前へ前へ出る力だろう。弟の活躍に影響を受けたか、「次は俺だ」と言わんばかりに躍進を続ける若元春。今場所の彼にも期待したい。

役力士たちの奮起に期待

一方、トップの5人に役力士がいないことは非常に心配な要素でもある。先場所優勝の若隆景は、もちろん今場所の優勝候補としても一番に名乗りを上げていたが、ここまでなかなか星を伸ばせていない。中日は、期待の若手・琴ノ若と対戦。両者互角の戦いに、持ち味の粘りを見せもつれる土俵際であったが、最後の最後で惜敗した。これで5敗に後退。先場所優勝のプレッシャーももちろんあるだろうと想像するが、ケガや不調でないことを祈るばかりだ。

3大関が安泰となった中日だったが、横綱・照ノ富士に土がついてしまった。相手は、直近の対戦成績が6戦全勝であった隆の勝。この日もおそらく照ノ富士が勝つのだろうと思ってしまっていたが、隆の勝が立ち合いから思い切りぶつかり、非常にいい攻めを見せた。土俵際に追い込まれた横綱が、逆転の突き落としを試みるも、後ろに下がった左足が土俵外に出てしまった。見事自身初の金星で隆の勝が2敗を守り、横綱が3敗に後退する結果となった。

今場所もまた、「誰が優勝してもおかしくない」「全員にチャンスがある」場所の兆し。すべての力士たちには、優勝を自分事として捉えて取組に挑んでほしいし、役力士たちには、最後にはその番付の意地を見せてほしい。誰も予想できない後半戦が、今日から始まる。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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