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横綱・照ノ富士の強さに震えた宇良との結びの一番 国技館でこの目が捉えたもの

飯塚さきスポーツライター
写真:筆者撮影

2022年大相撲初場所。場所の序盤は常に「あっけない相撲が多い」といわれがちであるが、今場所は初日から日々見応えのある相撲が続いている。

脳震とうの懸念も善戦の宇良

二日目の正代戦で、後頭部から土俵下へ落ち、脳震とうの症状が見られていた宇良。脳震とうの場合は、いくら本人が出場の意思を示しても、例えば数日は規定として休場させるなど、協会・親方衆らによる対応がなされたほうがよいと筆者は考えている。しかし、次の日からも出場してきた宇良。心配は多かったが、大関・貴景勝に取り直しの一番で見事快勝した。

四日目となったこの日は、横綱・照ノ富士と対戦。筆者も観戦に訪れ、この結びを国技館で見守った。

宇良は、立ち合いで頭から思い切って低く当たった。土俵中央で、横綱はその圧力を受け止め、応戦する。回り込み、押し込み、止まらずになんとか動き続ける宇良。そして、中に入ると向こう正面側の土俵際に横綱を押しやったではないか! 館内のボルテージは最高潮。土俵際に押し込まれた横綱は大ピンチ…とはならず。のけぞった上体を前傾させて前へ出た。土俵際から抜け出した瞬間、長い手で宇良を突き放したところで宇良が尻もちをついてしまった。

結びで震えた横綱の強さ

黒星は喫してしまったものの、動きを止めずに攻め、横綱を土俵際まで追い詰めた宇良。見せ場を多く作ってくれた業師に、筆者は腕を目一杯伸ばして拍手を送った。と同時に、この目で捉えて驚愕したのは、攻め込まれているときの照ノ富士の冷静沈着な表情だった。見ていて「横綱、危ない!」と思った人も多かったと思うが、筆者の目にはどの場面も危なげなく映ったのだ。

「どうぞ存分に攻めてください」とばかりに、相手に相撲を取らせている横綱。攻め込まれることも、まるで自らが誘い込んで見せ場を作ってくれたのではないかと思うほどだ。

彼は賢い横綱である。自身の強さと、危惧しなければならないひざの状態、相手の出方など、ありとあらゆる要素を考慮して、どこまで取組を面白くできるだろうかと、そこまで考えていてもおかしくない。

場所前に、横綱と安治川親方(元関脇・安美錦)を取材した際の、親方の言葉がいま、胸にしみる。

「(照ノ富士の)状態は万全ですよ。今場所も大丈夫でしょう。安心して見ていてください」

結びで横綱が勝って土俵を締める。本来、結びとはそういうもので、“ハラハラドキドキ”とは無縁であるほうがよい。安治川親方の言葉通り、今場所も「安心して」毎日の結びを見守りたいと思う。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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