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貴景勝撃破で「恐ろしい」の予感が本物に 阿炎が14日目に横綱・照ノ富士と対決へ

飯塚さきスポーツライター
写真:日刊スポーツ/アフロ

筆者は、今場所の阿炎を「恐ろしい」と感じていた。絶対王者の横綱・照ノ富士の存在があるものの、このままの勢いで本当に優勝候補に名乗りを上げるのではないか。はたして、その予感は本物になりつつある。

阿炎が好調の貴景勝を下して1敗キープ

番付は15枚目ながら、好成績が買われ、大関・貴景勝戦が組まれた阿炎。高身長である阿炎のほうがリーチは長いが、突き押し相撲一本で磨いてきた貴景勝に、どう立ち向かうのか。取組内容が注目された。

立ち合いは、一度不成立になった。気を取り直して、2度目の立ち合い。阿炎が手を出して当たる。長い手を十分に伸ばして攻め続ける。一方の貴景勝も負けじと押し返すものの、圧力に負けて回り込みながらいなす。そして、いなしに足を前に出してついていく阿炎。そのまま突いて出ていくと、大関の体は向こう正面側の土俵を割ってしまった。阿炎が堂々の相撲で貴景勝を下して1敗を守り、優勝戦線に残ったのだった。

「新たな一歩」心身の成長で優勝なるか

筆者は、場所前に電話で阿炎に取材をし、これまでの天真爛漫な彼との変わりように面食らっていた。

「先場所は、一喜一憂せずに自分の相撲を取り切ろうと思っていました」

「調子がよかったので、いつか星がついてくると信じて、思い切りよくいこうと思っていたんです」

…一体誰がしゃべっているのだろうか。そもそも彼は、筆者に対して敬語など使ったためしがなかったのだから。

「勝ち越しや二桁などは特に気にしていません。まずはこの場所を大事に、自分の相撲を取り切ること、自分を出し切ることを一番に考えたいです」

「成長するために相撲に集中することが目標なので、それを大切にしていきます」

インタビューのなかで、「本当に、これは新たな一歩だと思っているので」、そう繰り返した阿炎。

「大関の胸を借りるつもりで臨みました。うれしいですけど、まだ取組は終わっていないので」

昨日の取組後にそう話す彼は、やはり筆者の知るかわいい阿炎ではない。本人が語った「新しい一歩」を着実に踏み出した、新生・阿炎なのだ。心身共に大きく成長し、帰ってきてくれた。

そんな阿炎を、無傷の横綱が今日、迎え撃つ。横綱としては、元気な阿炎との対戦は「楽しみ」であり「受けて立つよ」といったところだろうか。照ノ富士が勝てば、今日にも優勝が決まる。逆に阿炎が大金星を取ると、自身の優勝への道はもちろん、貴景勝にも可能性が回ってくる。堂々と構える照ノ富士に、阿炎は勢いこのままに、思い切って向かっていってほしいものだ。今日の結びは、歴史に残る一番となるだろうか。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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