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出場停止から這い上がってきた阿炎 十両優勝を目指して周囲に恩返しへ

飯塚さきスポーツライター
写真:日刊スポーツ/アフロ

9日目を終え、今日から終盤戦に入る大相撲秋場所。新横綱・照ノ富士が初の黒星を喫し、結びの一番は大いに沸いた。

横綱については別の記事に譲るとして、本稿では十両の土俵に目を向けてみようと思う。

阿炎が天空海の”得意技”を封じる

毎場所、最後まで優勝争いがもつれ込む十両。今場所は、立浪部屋の天空海が単独で1敗を守っており、7勝のうち実に4勝を、足をかけながら投げる「掛け投げ」という珍技で決めていることも話題となった。

しかし、9日目に対戦したのは、出場停止から這い上がってきた実力者の阿炎。立ち合いから手を出して阿炎が当たると、その長い手で突き押し、圧力をかけて押し倒した。阿炎の前へ出る圧力の強さが光ったといえる。元小結の前に、天空海の新しい得意技は、残念ながら繰り出す機会さえ与えてもらえなかった。

もともと、力の低下で番付を下げたわけではない阿炎。どんなことがあっても応援し続けてきた家族、師匠、部屋の仲間、ファンの皆さんのために、ここで十両優勝を果たして、幕内に帰ってきてほしい。それが、周囲への一番の恩返しとなるはずだ。

十両と幕下の間にそびえ立つ大きな壁

十両昇進への望みをかける、幕下上位の対戦も白熱。この日は、幕下筆頭の寺沢が勝ち越しを決め、新十両へ向けた大きな白星を挙げた。入門直後に椎間板ヘルニアを患い、苦労を乗り越えてここまで来た寺沢。新十両としての躍進が見られることは非常に喜ばしい。

十両と幕下で、天と地ほどの差がある大相撲の世界。上がる者がいれば落ちる者もいるということに、見ているこちらは一喜一憂するが、目の前の勝負に命がけで挑むすべての力士にエールを送り続けたい。

十両優勝は誰の手に?

今場所の十両の土俵は、1敗だった天空海に土がついたことで、2敗の力士がトップで並んだ。その数は5人。阿炎と天空海のほか、幕内経験豊富なベテランの佐田の海や、若さ溢れる琴勝峰、新横綱・照ノ富士らとの稽古で地力をつけてきた錦富士も、さらなる高みを目指す。

残りの5日間で、星はさらに動きを見せるだろう。現在3敗の力士たちにも、十分チャンスはある。十両優勝の行方も、最後まで目が離せない。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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