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夏場所初日。4大関安泰も、やはり寂しい無観客の国技館でコロナを恨んだ場面とは

飯塚さきスポーツライター
写真:アフロ

またも緊急事態宣言下で、大相撲夏場所が始まった。昨年は、新型コロナウイルスの影響で中止となった夏場所。2年ぶりの開催だ。中止になるよりはいいのだろうが、初日から3日間は無観客ということで、拍手もない寂しい雰囲気。やはりお客さんの力の大きさを感じる。

先場所で鶴竜が引退したことで一人横綱となった白鵬は、今場所も休場。次の名古屋場所で進退をかけるという。これによって、今場所の優勝争いもまた、混戦必至となった。横綱不在だからこそ、復活を遂げた照ノ富士を含めた4大関に場所を牽引してもらいたいものだが、果たして。

4大関が白星発進 隆の勝も好調

どの場所も、「初日は緊張する」という力士は少なくない。動きが硬く、あっけない相撲が多いのは初日ならではといえるが、無観客ということも相まってか、今回は普段にも増して、一番一番があっという間に終わる印象だった。

そんななか、上位陣の相撲が光った。新三役に燃える若隆景と対戦したのは、大関・貴景勝。立ち合いは頭で当たると、回転の速い突き押しとぶちかましを駆使し、相手に何もさせることなく一気に押し出した。足も前に出ており、大関にとって最高の内容だったと言っていいだろう。先場所は賜杯を譲り、悔しい思いをしているだけに、雪辱を果たすことができるか。この日のような、胸の高鳴る相撲を毎日期待したい。

そして、今場所の本命は、なんといっても先場所優勝して大関へ返り咲いた照ノ富士だろう。初日の相手は、先場所10勝5敗の好成績で敢闘賞を受賞した、同期生でもある明生。思い切りぶつかり、中に入ろうとした明生だったが、照ノ富士が休まず前へ出て、最後は力技のきめ出し。大関として、力の差を見せつけた。先場所の勢いそのままに、最終的には“最後の番付”をも目指してほしい。

正代・朝乃山も白星を挙げ、4大関が白星発進となるなか、安定感を見せたのは、4場所目の関脇で今場所を迎えた隆の勝だ。きっぷのいい相撲を取る千代の国を相手に、立ち合いから一気の出足で、何もさせずに押し出した。この調子で好成績を残し、大関への足掛かりとなるか。大関陣に加えて、隆の勝にも大いに注目したい。

母の日の新序出世披露も…

この日は、前相撲を終え、晴れて序ノ口の番付に四股名が載る力士をお披露目する儀式「新序出世披露」が行われた。通常、新弟子検査に合格すると、前相撲を取った場所で出世披露が行われるが、多くが卒業式に参加する先場所は、感染症対策で前相撲が行われなかったため、今場所での披露となったのだ。

関取から借りた化粧まわしをつけ、初々しい姿で土俵上に並んだのは、なんと31人。偶然にも「母の日」に行われ、この上ない親孝行の場になるはずだった新序出世披露だが、残念ながら無観客開催のため、彼らの雄姿を家族や友人が直接見ることはかなわなかった。やはり、私たちはコロナ禍という異常事態に“慣れて”などいない。改めて、ウイルスの脅威を恨む一場面であった。

無観客はあと2日。なんとか乗り切って、お客さんが見守るなかで、のびのびと相撲を取ってもらいたいと、切に願っている。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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