大相撲の決まり手はどう決まる? 間違えたときは? 決まり手係・大山親方に聞いた
「ただいまの、決まり手は、吊り落とし――吊り落して、炎鵬の勝ち」
各取組の最後にアナウンスされる「決まり手」。珍しい決まり手が出ると、場内も盛り上がる。大相撲の決まり手は、どのように判定され、アナウンスされているのか。角界で30年以上「決まり手係」という役職を務めている、元幕内・大飛の大山親方に話を伺った。
決まり手はどう決まっている?
大相撲では、西側の土俵近くにアナウンス係の行司が座っており、対戦する力士の名前や懸賞の紹介、そして決まり手などを場内にアナウンスしている。座っている行司は2名。そのうち、マイクで話していないほうの行司の手元には、電話が置かれている。この電話のつながる先が、別室で取組を見守っている決まり手係の親方である。
決まり手係の親方は、NHKで放送されている正面からの映像だけでなく、画角の異なる6つほどのモニターを見ながら、決まり手を判断している。アナウンス係の行司が目で見て決まり手を瞬時に判断できないときは、手元の電話を取れば、すぐに親方につながって教えてもらえるのだ。
「私は、電話が来たら取ってすぐに『上手投げ』『下手ひねり』などと言います。取組が終わって10秒以内には言わないと、アナウンスが間に合いませんから」
決まり手係の親方は、全部で5人。幕内は甲山親方(元幕内・大碇)が、十両を大山親方が担当しており、残りの3人は時間ごとに交代しながら幕下以下の土俵を担当している。
「決まり手係は必ず一人で行います。隣にほかの親方がいると、そこで討論会が始まってしまって、決まらないからです。行司さんとの相談も、なし。私も最初は不安でしたが、決まり手係で大事なのは、自信をもってやることです。度胸をもって決めていくしかない。間違ったっていいとは言わないけれど、思い切って判断することが大切ですね」
瞬発力が問われる決まり手係だが、もちろん判断が難しい場合もある。そんなとき、親方は電話で行司に“待った”を入れ、決して焦らずモニターを凝視し続ける。「先ほどの取組の決まり手は――」とアナウンスが遅れてやってくるときは、親方がじっくり悩んでいる証拠。「発表が遅れているときは、”きっと決まり手係が悩んでいるんだな、何と何で迷っているのかなあ”と、我々の気持ちを想像してもらうと楽しいと思います」と、大山親方は話す。
正解はない。だからこそ面白い
さらにまれに、決まり手「訂正」のアナウンスが入ることもある。その場合の理由は2パターン。単純に、行司の判断が間違っていて親方が訂正する場合と、親方自身が自分の決定に訂正を入れる場合だ。
「上手投げと行司に伝えた後に、別角度で見たら、まわしを取っておらず抱えているだけだから、やっぱり小手投げだ、なんてことがあるんです。自分が間違えたときは、もう一度電話をかけなおして、素直に『ごめんなさい、間違えました』と言います(苦笑)」
大相撲は生き物。すべての取組がお手本通りとはいかない。複雑にもつれ合う取組では、多いときには5つくらいの決まり手のなかで、どれを取るか悩むこともあるのだそう。
「私の場合、迷ったときに見るひとつのポイントは、転び方です。ひねりと投げでは転び方が違います。ひねられていれば、体からではなく膝からついて転びますから。あとは、人によって相撲の取り方が違うので、ある程度展開を予想すること。例えば舞の海だったら、左下手が入った瞬間に、これで膝が入れば下手投げにいくな、あるいは切り返しだなと、次の手を予想しておくことで、判断が早まります」
大山親方いわく、「決まり手に正解はない」。だからこそ、自分の判断にきちんと説明がつけられるようにすること。そして何より、自信をもって判断することが重要だと繰り返す。取組を見る際は、どうしても「勝負」にばかり気を取られがちだが、ぜひ力士がどう勝ったか、その「決まり手」にも着目してご覧いただきたい。
(後編へ続く)