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照ノ富士だけじゃない「大関候補」たちが1敗キープ 春場所の優勝争いは読めない?

飯塚さきスポーツライター
写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

照ノ富士が豪快に決めた吊り出し

昨日から中盤戦に入った大相撲春場所。横綱・白鵬の途中休場は非常に残念ではあったが、その分、多くの力士たちにチャンスが巡り、活躍を見せている。

六日目が終わり、五日目まで単独の全勝だった妙義龍が破れ、1敗の力士たち6人が上位に並んだ。この日特に目を見張ったのは、大関復帰を目指す関脇・照ノ富士の一番。相手は同じくモンゴル出身で、足腰の強い霧馬山だ。立ち合いから霧馬山が善戦していたように思われたが、照ノ富士が下手を華麗に切ると、なんと右の上手は一枚まわしのまま、霧馬山を豪快に吊り上げて土俵外に落としてしまった。まるで大きな荷物を抱えて運んだかのような、あまりの力技に会場もどよめいた。

現時点で、照ノ富士の大関復帰はかなり現実的といっていいだろう。昨日の取組は、それほどまでに、圧倒的な力量を見せつける一番だった。

次の大関候補はほかにも…?

西関脇の隆の勝も、押し相撲の阿武咲に対し、圧力で攻め勝って5勝目を挙げた。先日、パパになったばかりの小結・高安は、同じく小結の御嶽海に対し、取った左のまわしを決して離さず攻め続け、最後は素早い出し投げを打って下した。

腰の低さ、前への圧力と安定感を武器に、めきめきと力をつけてきた隆の勝。元大関の矜持と実力をもって、再度奮起する高安。この二人にも、「大関」の二文字が近づいているように感じる。まだ前半戦だが、今場所の優勝候補にも、二人の顔が浮かぶ。照ノ富士の大関取りだけがクローズアップされがちだが、個人的には隆の勝・高安の今後にも、大いに注目していきたいところである。

大関には不安の影も

一方、横綱不在のいま、場所を引っ張っていってほしい3人の大関陣は、ここまでで明暗が分かれている。1敗を守っているのは、朝乃山ただ一人。二日目に、絶好調の高安戦で星を落としたが、五日目・六日目と、徐々に本来のどっしりとした相撲を取り戻しつつある。エンジンがかかったところで、このまま場所を引っ張っていってくれるだろうか。

17キロもの減量で注目された貴景勝は、五日目に北勝富士に押し倒されてしまったものの、六日目は腰の低い志摩ノ海相手に立ち合いから強く当たり、一気の出足で押し出し。まったく問題にしなかった。普段から「負けは引きずらない。落ち込んでも仕方ない」と話すように、ここまでで連敗はない。すでに2敗を喫しているが、ここから巻き返していけるか。

心配なのは、正代だ。攻め込まれてからの逆転の突き落としも出せず、あっけなく土俵を割ってしまう姿が目に焼き付く。六日目の明生戦は、途中むしろ攻め込む場面があったにもかかわらず、残られた際に右の上手を巻き返され、形勢逆転の末に敗れた。これで早くも4敗。不安が拭えぬまま、七日目を迎える。

もう一人1敗で前線に立つのは、新型コロナウイルスの影響で休場明けとなった千代の国だ。一場所空いたことを微塵も感じさせないような元気いっぱいの相撲を連日見せてくれている。春場所もまた、優勝争いが最後まで読めぬ展開となるのか。結末を急ぐにはまだ早い中盤戦ではあるが、いまからすでに、一番も目が離せないことは確実である。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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