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「売れなかった商品はない」三保ヶ関親方が語る、相撲グッズがつなげる思い

飯塚さきスポーツライター
日本相撲協会公式グッズの開発に携わる三保ヶ関親方(筆者撮影)

「日本相撲協会公式グッズ」舞台裏ストーリー後編。企画・開発・販売に携わる社会貢献部の三保ヶ関親方(元前頭筆頭・栃栄)に、これまでの人気商品や近年の取り組み、さらには今後の展望について、話を伺った。

(前編の記事はこちら

コロナ禍で活路見出す通販

これまで「売れなかった商品はない」と胸を張る三保ヶ関親方。大相撲ファンにはリピーターが多く、同じ商品を売っているだけでは、“もう全部持っている”状態になってしまうため、毎場所のように新商品を出すようになった。それが功を奏し、新しく出せばまたどんどん売れるという好循環が生まれている。

しかし、ここ1年ほどは、新型コロナウイルスの影響で大打撃を受けた。昨年の3月場所は無観客開催、5月は中止、そして7月以降は東京・両国国技館での開催が続いているため、地方のファンを中心に、観戦に出向けない人が増えているのだ。

そこで乗り出したのが、通信販売だった。今年1月から、協会独自の通販サイトを作り、グッズの販売を始めたところ、在庫管理を務める三保ヶ関親方がうれしい悲鳴を上げるほど、飛ぶように売れているという。

「通販では、いろんなグッズの詰め合わせを売っています。協会公式YouTube『親方ちゃんねる』でおなじみの音羽山親方(元幕内・天鎧鵬)が描いた絵をつけた『画伯セット』は、発売と同時に即売り切れ。500セット用意したんですが、530件くらい申し込みをいただき、びっくりしました」

音羽山親方の「画伯セット」通販バナー(写真提供:日本相撲協会)
音羽山親方の「画伯セット」通販バナー(写真提供:日本相撲協会)

ほかにも、レトルトの国技館カレー・国技館ハヤシのセットや、1月場所詰め合わせセットなど、さまざまな親方衆が考案して次々と販売。さらに、梱包・発送作業まで、音羽山親方をはじめとする若い親方衆が梱包・発送作業を行っている。「現役のときは、土俵上で険しい顔しかしませんが、髷を落としたらみんな気のいいおじちゃんなんです。売店に立っていても笑いが絶えません。梱包作業も、みんな楽しそうに詰めていましたよ」と、三保ヶ関親方。他競技において、監督・コーチがこうした作業を行うことは、ほとんどありえないだろう。ファンとの距離が近いことも、大相撲の魅力の一つといえる。

親方衆が手分けしてグッズを梱包している様子(写真提供:日本相撲協会)
親方衆が手分けしてグッズを梱包している様子(写真提供:日本相撲協会)

グッズ販売がつながる先は社会貢献

三保ヶ関親方の所属する「社会貢献部」は、天災などの有事が起こった際に、角界、地域、国といったさまざまな「社会」に何かを届けられるようにと編成された部署である。これまで、墨田区の小学1年生に対し、交通安全のランドセルカバーの寄付や、公式グッズデザインにおいて産学連携(実践女子大学とのコラボグッズ企画販売)などを行ってきた。

各部署には「部長」の親方が必ず存在するが、社会貢献部だけは八角理事長(元横綱・北勝海)の直轄部署。つまり、理事長の思いが直接反映されていると三保ヶ関親方は話す。

「理事長は本当に柔軟な方で、執行部の親方だけの意見ではなく、若い親方の話も、食事に連れ出してでも聞いてくれます。いろんな人の意見を聞いてバランスをとっているので、本当に柔軟でありがたい。トップが下を信じて任せてくれるからこそ、我々もいろんなことに挑戦できるんです」

現在、同部署において大きな存在となっているのが、協会公式グッズである。その意義について、三保ヶ関親方は次のように語る。

「僕らのミッションは、相撲の文化の発展・継承であり、ファンの皆さんが普段の生活から相撲に触れられる最たるものが、グッズだと思っています。食事のときに食器があり、寒いときにはブランケット、部屋の飾りにはカレンダーなど、本場所や巡業の有無にかかわらず、相撲に触れていただきたい。だからこそ、グッズ制作に妥協は一切したくないんです」

春場所開催に向けて販売した「得得セット」通販バナー(写真提供:日本相撲協会)
春場所開催に向けて販売した「得得セット」通販バナー(写真提供:日本相撲協会)

今後の展望について、親方は「もっと販売手段を増やしたい」と話す。売店が稼働しているのは、場所中の午後1~4時までで、年間にして270時間のみである。徐々に通販が始まってはいるものの、まだまだ世の中に出せるものがあるという。

「現在の稼働時間以上に売れるなら、もっとロット数が増やせるし、ロット数が増えれば単価が下がるので、さらにクオリティの高いものを作れます。だからこそ、販売チャネルを増やすことが大事なんです。コロナが収束したら、本場所がなくても地方や外国の方が国技館訪問のお土産としてグッズを買って帰れるように、常設で売店を出したい。それが収益になれば、有事が起こったときに地域に寄付もできる。そうなるとつまり、社会貢献部発足からの思いにつながるんです」

協会公式グッズの裏側を深掘りしたところ、八角理事長と社会貢献部を筆頭に、日本相撲協会が一体となって抱く、大相撲が成し得る社会貢献に対する強い思いへと導かれた。伝統を「守る」一方で、新たな挑戦を模索し「攻める」。その両輪を見事に実現している様は、まるで大相撲という競技そのもののようだ。日本相撲協会を牽引する親方衆や、周囲でそれを支えるスタッフの奮闘が、本稿を通じて少しでも垣間見ることができたのであれば幸いである。

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スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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