大栄翔の初優勝は何をもたらしたのか。涙なしには見られない「努力の人」の軌跡

写真:スポーツニッポン/アフロ

開催当初の不安など、まるでなかったかのような高揚感に包まれた。夢心地とはこのことか。平幕の大栄翔が、自身初・埼玉県出身力士初・追手風部屋初の賜杯を抱いたのだ。

文句なしの突き押しで掴んだ初賜杯

24日、ついに迎えた千秋楽。勝てば優勝の大栄翔は、7勝7敗で勝ち越しのかかる隠岐の海との対戦だ。両者譲れぬ展開になることが予想されていた。

立ち合い。大栄翔が頭で当たると同時に、得意の突き押しを繰り出す。力強さと回転力を兼ね備えた強烈な突き押し。隠岐の海を土俵際へ追いやり、左ののど輪が決まると、そのまま力強く突き出した。館内も大きくざわめく、大栄翔が念願の初優勝をもぎ取った瞬間だった。

新型コロナウイルスの影響により、多くの休場者が出るなかで始まった今回の初場所。しかし、大栄翔は初日から磨きのかかった突き押しを遺憾なく発揮し、あれよあれよという間に三役全員を撃破。トップに躍り出た。これまで、「緊張したことはほとんどない」と言う大栄翔だったが、今場所ばかりはそうもいかなかったであろう。それでも、目の前の一番一番に集中し、負けても立て直して結果につなげてきた。突き押しの技術はもちろん、重圧をはねのけた高い精神力にも敬意を表したい。

ひたむきな努力が生んだ「家族孝行」

名門・埼玉栄高校に入学するも、1・2年生では芽が出ず、悔しい思いをした大栄翔。それでも腐ることなく精進し、3年生でレギュラーを勝ち取って活躍。プロ入り後は、わずか2年半で関取に昇進し、人一倍の努力を結果につなげてきた。こうして、人生を懸けて積み重ねてきた努力が、入門して丸9年となるいま、結実のときを迎えたのだ。

これまで支えてくれた母と兄に捧げる、自身最大の「家族孝行」。彼のまっすぐなひたむきさと、相撲人生の軌跡に思いを馳せると、涙なしには見られない千秋楽であった。

初場所が世にもたらした光

緊急事態宣言下の場所の開催を「手放しでは喜べない」と記した筆者が、結局は取組に夢中になり、場所を楽しんでいた。我ながら矛盾を感じずにはいられないが、それはひとえに、「努力の人」大栄翔が悲願の初優勝を果たしたことのみならず、すべての力士が一日一番の取組に集中し、全力を尽くす姿を見せてくれたこと、そして、下支えするすべての協会員が、安全第一で場所を運営し、最後まで走り切ってくれたこと、それらすべてのおかげである。多くの人が不安を抱えながら過ごすなかで、「見る人に元気を届ける」相撲本来の良さを発揮し、世の中を元気づけてくれたことに、深い感謝の意を示したい。

最後に、あらためて、大栄翔関おめでとう! そして、埼玉のみならず、全国に感動を届けてくれてありがとう! せめてこんなときだけは、素直にはしゃいでしまうこともお許しください。今後、さらに上の番付を目指して活躍してほしいと思います。