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貴景勝と志摩ノ海の相撲に熱を帯びた館内 11月場所の優勝争いはどうなる?

飯塚さきスポーツライター
写真:毎日新聞社/アフロ

場所前から取っていたチケットだったが、まさかこんな展開でこの日を迎えるとは、夢にも思っていなかった。

見せたのは大関の意地

1敗を守って優勝争いのトップに立ったのは、大関・貴景勝と幕尻・志摩ノ海。この二人が、十三日目の結びで対戦した。金曜とはいえ平日にもかかわらず、国技館が実に多くの人でにぎわっていることに驚く。時間いっぱいとなった結びの一番。国技館のボルテージは最高潮に達した。

立ち合い。貴景勝が得意の突き押しで志摩ノ海をどんどん前に押していく。志摩ノ海はそれに耐えるが、貴景勝のいなしに翻弄され、そのまま押し出されてしまった。文字にすると呆気ない取組に思えるかもしれないが、手に汗握る非常にいい相撲だった。その証拠に、取組後も熱を帯びてこの一戦について語り合うファンが多く見られた。

背後から狙うは照ノ富士

この取組の2番前、2敗の照ノ富士と3敗の竜電が対戦した。優勝争いにも絡んでくる両者の取組。こちらも注目度は高かった。

立ち合いの瞬間から照ノ富士が左の上手を取った。対する竜電も、狙いに行った前みつを取って、一枚まわしながら離さず食いついていく。しかし、途中で照ノ富士が左上手をがっちりと取り直し、ここからは早かった。あっという間に前への圧力をかけ、その勢いのまま押し倒し。圧巻の強さを見せつけた。

こうして、単独でトップを走る1敗は貴景勝、次ぐ2敗で志摩ノ海と照ノ富士が後を追う形となった。十四日目は志摩ノ海と照ノ富士が、そして千秋楽には貴景勝と照ノ富士が対戦する。もちろん、現時点で単独トップの貴景勝が最も優勝に近いのだが、今場所の勢いを見ると、照ノ富士にも大いに可能性があると、筆者は個人的に感じている。

もし、十四日目に照ノ富士が志摩ノ海に勝ち、貴景勝と照ノ富士が1敗と2敗のまま千秋楽に対戦したら、そして、その対戦を照ノ富士が制したら、優勝決定戦となる。正直、その可能性は大いにあるのではないか――。静かに興奮しながら、この2日間を見守りたい。

混戦の十両で珍手「ずぶねり」

今場所の十両の優勝争いもまた、混戦の予感に満ちている。十二日目までで、8勝4敗でトップに並んだ力士は6人。うち、翠富士と千代の海の二人が勝って、9勝4敗と駒を進めた。

翠富士は、大きな常幸龍を相手に、前半よく動いて相手の横につこうとしたが、相手の胸に頭をつけ、差されかけた右を強くおっつけるような形で動きがストップ。そのまま反り技が繰り出されそうな体勢になりながら、最後は相手の腕をひねって、「ずぶねり」という珍手で勝利。見ごたえたっぷりな相撲で4敗同士の取組を制した翠富士に大きな拍手が送られると同時に、珍しい決まり手に会場がどよめいた。

ちなみに、その前に勝った千代の海も、播磨投げという頻繁には見られない技で勝利を挙げている。珍しい決まり手で一歩リードした二人を中心に、十両の土俵もより楽しみになってきた。

令和2年最後の場所の結末は…

この日も、弓取り式の後に「お楽しみ抽選会」が行われ、エンターテインメント性をもたせた感染予防対策がしっかりとなされて打ち出しとなった。令和2年最後の場所となった11月場所も、あと2日。ここまで安全に場所が開催されたこと、その事実を支えているすべての関係者の皆さんに感謝し、この結末を最後まで見届けたい。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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