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「リンチされて右目が飛び出した」「靴を踏んだだけで殺された」“殺人工場”の米刑務所で起きていること

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ショービン受刑者は22回刺されたという。countylocalnews.com

 黒人男性ジョージ・フロイドさんを暴行死させて、アリゾナ州の刑務所で服役中のショービン受刑者を刺したジョン・ターサック受刑者が殺人未遂、殺害目的の暴行、凶器による暴行、傷害などの罪で訴追された。

 ショービン受刑者はターサック受刑者により“あり合わせの材料”で作ったナイフで22回前後刺されたという。

 “あり合わせの材料”が武器になるアメリカの刑務所。実際、刑務所内では様々な物が武器として使われているようだ。

窓ガラスや椅子や素手が武器に

 先日の投稿「“生き地獄”の米刑務所で起きている「ヤバすぎる性虐待」 黒人を暴行死させた元警官は収容中に刺される」では、拙著『銃弾の向こう側ー日本人留学生はなぜ殺されたかー』(草思社刊)を執筆するにあたって取材した、ギャングのロンが刑務所で体験したり目撃したりした性虐待について書いたが、ロンは、刑務所内で使われている武器についても話してくれた。

 例えば、それは椅子やウォークマンのヘッドフォンだった。

「スチール製の椅子を力づくで叩き壊せば、壊れたところは尖っているだろ? それをナイフ代わりにして刺すという方法がよく使われていたな。ウォークマンのヘッドフォンのメタル部分を研いで、ナイフ代わりにする者もいたよ」

 窓ガラスも武器になったという。

「刑務所では、窓ガラスが割れる音もよく聞こえてきた。壊れた窓ガラスの破片を靴下の中に入れて、それで刺す奴がいたからね。刺した後は、証拠隠滅のために、ガラスを粉々にして捨てていた」

 素手も武器になった。

「両手を首に回し、体全体を持ち上げるようにして締め上げるんだ」

靴を誤って踏んだだけで殺された受刑者も

 武器を使ったリンチも横行していた。

「“10人の受刑者たちにリンチされ、20回も刺された。右目が飛び出して、今は右目がない”という受刑者もいた」

 看守が受刑者に殺人行為をけしかけることもあったという。

「看守にも気に入らない受刑者というのがいてね。コカインやヘロインやマリファナをやるから、彼が気に入らない受刑者を殺れと他の受刑者に命令することもあった。殺る時には看守もやってきて、グロテスクなライブショーでも観るかのように酷薄な笑みをたたえていた。あの不気味な顔が忘れられない。看守はそうやって受刑者が殺されたとしても、何か別の理由をこじつけて取り繕っていたよ」

 刑務所の中では、“強い戦士”にならなくては殺される。ロンはそう確信したという。

 元ギャングで、取材当時はギャングたちのカウンセラーをしていたテリーは、服役中、些細なことで殺された受刑者がいたことを話してくれた。

「ある受刑者が別の受刑者の靴の先を踏んづけたんだ。わざとではないよ。誤って、うっかり踏んだだけだった。しかし、踏んだ受刑者はそのことを謝罪しなかった。彼は靴を踏まれた受刑者から『おい、おまえ、ノー・リスペクトだな』と怒鳴られ、あっけなく殺された」

「ロス疑惑」の三浦氏は自殺

 「ロス疑惑」で知られる三浦和義氏は、2008年2月、サイパン島で再逮捕された後、移送先のロサンゼルスの留置所で自殺をした。当時、この件について取材していた筆者は、こんな声を耳にした。

「三浦氏は恐ろしいアメリカの刑務所に入れられたくないから自殺したのではないか」

 また、三浦氏は自殺したのではなく、留置所内で殺されたのではないかとの見方を示す報道も当時あった。

 ショービン受刑者を刺したターサック受刑者も「すぐに止められなかったら、殺していただろう」と供述しているという。

アメリカの州刑務所では、自殺、他殺、ドラッグやアルコール中毒による死者が増加している。出典:PRISON POLICT INITIATIVE
アメリカの州刑務所では、自殺、他殺、ドラッグやアルコール中毒による死者が増加している。出典:PRISON POLICT INITIATIVE

“殺人工場”と呼ばれることも

 アメリカの刑務所では、上のグラフが示すように、近年、自殺や殺人の件数が増加している。そのため、刑務所は“死を生み出す施設”や “殺人工場”と表現されることさえある。また、刑務所でリンチを受けたり、殺人を目撃したりした受刑者の中には、出所後もPTSD(心的外傷後ストレス障害)に襲われ続けている者もいるという。受刑者を矯正して社会復帰させるという目的を持つ刑務所がその役割を果たしておらず、逆に、受刑者を肉体的にも精神的にも痛めつけている状況がある。

 そのため、プリゾン・ポリシー・イニシアティブは「刑務所は受刑者たちを肉体的にも精神的にも耐え難い状況に晒す危険な場所であり続けている。刑務所は受刑者の健康管理体制を改善し、仮釈放委員会と協力して釈放プロセスを加速する必要がある。そうすれば、禁錮刑は多くの受刑者にとって死刑のようなものにはならなくなるだろう」と述べている。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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