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「殺されると感じた。50回超殴られた」日系の父娘がヘイトクライムに 日本人差別発言も 米ポートランド

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
米国で続くアジア系に対する差別。声を上げ報告することが憎悪犯罪の防止に繋がる。(写真:ロイター/アフロ)

 アメリカが独立記念日の連休に入った7月2日、米オレゴン州ポートランドで看過できないヘイトクライム(憎悪犯罪)が起きた。被害者は日系の家族だ。カリフォルニア州から同地に旅行に訪れていた家族が、ウォーターフロント沿いのサイクリングロードでサイクリング中、白人の男から日本人に関する人種差別発言を吐かれ、さらには、父親と5歳の娘が暴力を振るわれたのだ。

 男は父親を何度も殴った後、娘の頭も殴った。娘は、幸い、ヘルメットを装着していたため、負傷はしなかったものの、トラウマに襲われていると報じられている。娘の母親は暴行を加えられなかった。

 「彼は私の頭を50回以上殴りました。ポートランドはいい街だから訪問するようみなが勧めました。しかし、もはや、訪ねるのは難しい」と事件後カリフォルニア州に戻ったその父親は、ポートランドのKGWテレビに対してコメントしている。

 日系の父娘に暴力を振るったのはディラン・ケスターソン容疑者(34歳)。近くで事件を目撃していた人たちが介入し、ケスターソン容疑者は現場近くで拘束されたが、同日、裁判官命令により釈放された。

 5日に行われた罪状認否の法廷審問では、被害を受けた父親が「殺されるかもしれないと感じました。とても恐ろしい体験です。もし、彼が釈放されたら、たくさんの日本人やアジア人が負傷すると思います」と訴え、ケスターソン容疑者は第4級暴行罪、第2級暴行未遂罪、第3級暴行未遂罪、第1級バイアスクライム(ヘイトクライムのこと)、第2級バイアスクライム、ハラスメントの罪で告訴されたが、同氏はすべてに対して無罪を申し立てた。しかし、6日午前に裁判所で予定されていた法廷審問に姿を現さなかったため、逮捕状が出され、午後3時過ぎに街にいるところを逮捕された。

肉体的暴力を加えるヘイトクライムは16%超

 アメリカではコロナ禍、アジア系の人々に対するヘイトクライムが増加し、問題となってきた。今年3月には、ニューヨークで、67歳のアジア系の女性が頭と顔を125回以上も殴打され、踏みつけられ、唾を吐かれた。5月には、ダラスにあるアジア系のヘアサロンで、3人の女性が銃撃された。

 アジア系アメリカ人やアジア太平洋諸島系アメリカ人(略して、AAPI)に対するヘイトに反対する非営利団体“Stop AAPI Hate”に寄せられた報告によると、2020年3月19日から2021年12月31日までの間に起きたAAPIに対するヘイトクライムの件数は10,905件。うち、4,632件(42.5%)が2020年に、6,273件(57.5%)が2021年に起きている。

 ヘイトクライムの内訳を見ると、63%が口頭でのハラスメントだが、肉体的暴力も16.2%と少なくない。また、約半数が、この日系の家族のように、公共の場所、特に、公道で被害にあっている。

 また、ヘイトクライムにあった人々の42.8%が中国系、16.1%が韓国系、8.2%が日系だ。

泣き寝入りせずに報告を

 今回事件が起きたオレゴン州でも、アジア系の人々が被害にあう事件が増加している。オレゴン刑事司法委員会が出している最新のレポートによると、昨年、同州では、反アジア系とされる事件が約200%も増加している。

 また、オレゴン州でAAPIを支援している団体“アジアン・パシフィック・アメリカン・ネットワーク・オブ・オレゴン(APANO)”がAAPIの権利擁護団体と4月に発表した調査レポートによると、オレゴン州に住むAAPIの約半数がマイクロアグレッション(相手を傷つけているという自覚がない、人種偏見に基づいた発言や言動)や偏見、ヘイトクライムにあった経験があるという。APANOのオフィスも数週間前、器物損壊を被っていた。

 アジア系の人々はヘイトクライムの被害にあっても、報告せずに泣き寝入りするケースが多いと言われている。そのため、数字には反映されていない被害も多数潜在しているとみられる。APANOは、ヘイトを受けたら、立ち上がって報告することが、ヘイトクライムの防止に繋がると訴えている。

(参考)

ポートランド警察の発表

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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