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アメリカ人はいくらの純資産を持っている人をお金持ちとみなしているのか? 日本とはどれだけ違う?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
米国では、ガソリン価格がガロン9ドルを超えたところも。写真:nypost.com

 インフレが続き、リセッションも懸念されている世界経済。米カリフォルニア州では、ガソリン価格がガロン(約3.8リットル)9ドル超えのガソリンスタンドも登場し、2桁代に入るのも見えてきたという声もある。今、どれくらいのお金を保有していれば経済的に安心していられるのだろう?

 そんな気になるお金の話について、アメリカのネット証券会社の大手チャールズ・シュワブが5月、興味深いレポートを出している。今年2月、同社が21〜75歳のアメリカ人1,000人を対象に行ったモダン・ウエルス・サーベイ2022によると、アメリカ人は、220万ドル=約2億8,600万円(1ドル=130円換算)の純資産(キャッシュ、預貯金、不動産、株式、投資信託などの総資産から住宅ローンや自動車ローン、クレジットカードの未払い分などの負債を差し引いた額)を保有していればお金持ちであり、77万4,000ドル=約1億620万円の純資産を保有していれば経済的に安心であるとみなしていることがわかった。

 比較までに、野村総合研究所は、日本では純金融資産(預貯金、株式、債券、投資信託、一時払い生命保険や年金保険など世帯として保有する金融資産総額から負債を差し引いた金額。ただし、土地や建物などの不動産は含んでいない)が1億円以上あれば富裕層だと定義づけている。

実際、どれだけの純資産を保有しているのか

 しかし、実際のところ、アメリカでは、世帯当たりどれだけの純資産を保有しているのだろうか? 2020年9月にFRB(米連邦準備理事会)が発表したデータによると、アメリカの世帯の純資産額の平均値は2019年で74万8,800ドル=約2億2,500万円。この金額は、アメリカ人が経済的に安心と考えている保有額に近い。

 しかし、経済格差が大きいアメリカでは、平均値は超富裕層に大きく引き上げられていることから、現実を反映している数字とは言えない。実際、アメリカで純資産のトップ1%に入るには11ミリオンドル超=約14.3億円超、トップ0.5%に入るには17ミリオンドル超=約22億円超、トップ0.1%に入るには43ミリオンドル超=約56億円が必要なのだ。

 反対に、貯金が殆どない世帯も多い。Bankrateが2021年7月に行った世論調査によると、緊急用の貯金額(普通預金口座、当座預金口座、短期金融勘定にあるお金)は3ヶ月分の生活費未満かゼロと回答した人々が51%もいた。

 このように格差が大きいことから、純資産額の中央値を見てみると、それは12万1,700ドル=約1,580万円。つまり、アメリカ人は、純資産額の中央値の18倍持っていればお金持ちとみなし、6倍超があれば経済的に安心と考えているわけである。

 日本の場合はどうだろう?

 総務省統計局が2021年5月に発表した「2019年全国家計構造調査」によると、2019年10月末の家計純資産の平均値は2,834万円とアメリカの約8分の1しかないものの、中央値は1,422万円で、アメリカよりは低いものの平均値ほどの大きな差はない。

アメリカ人の約53%が株式に投資

 日米で大きく異なってるのは、家計の金融資産の内訳だ。日本銀行調査統計局の調査によると、日本では現金・貯金が54.4%を占め、株式と投資信託の占める割合はそれぞれ10%、4.3%、アメリカでは、現金・貯金が13.3%で、株式と投資信託が占める割合はそれぞれ37.8%と13.2%と、日米では現金・貯金と投資の割合がほぼ逆となっている。

 実際、前述のFRBのデータによると、2019年のアメリカの世帯の預貯金の中央値は5,300ドル(約69万円)だが、株式の中央値は2万5,000ドル(約320万円超)と預貯金の約5倍もある。

 また、アメリカでは、直接投資や間接投資で株式を保有している人々の割合も約53%と高い。所得分布別で見た場合、アッパーミドル層では約70%(保有額の中央値は約4万ドル=約520万円)が、トップ10%層では90%以上(保有額の中央値は約43万9,000ドル=約5,700万円)が株式を保有しているが、ボトム50%に当たる所得者世帯でも約31%(保有額の中央値は約1万ドル=約130万円)が株式を保有している。

 一方、野村総合研究所の調査では、日本の場合、投資を行っている人は約21%とアメリカの半分以下だ。

 FRBによると、アメリカの個人の金融資産は20年間で約3倍に増えている。一方、日本は1.4倍の増加。アメリカ人は株式や投資信託などの投資により資産を増やしていることがわかる。

 預貯金は少ないものの投資で資産を築きあげているアメリカ人と、預貯金をしっ放しにしている日本人。

 岸田首相は「資産所得倍増プラン」を掲げて投資を促そうとしているが、JNNの世論調査では、資産を貯蓄から投資へ回そうと考えている人が23%しかいなかった。純資産額の中央値はアメリカの世帯とは大きくは変わらない日本の世帯をいかに投資へと誘うのか、岸田首相の課題は大きい。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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