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「猿みたい」「バナナ」と酷評 金メダルの中国系米国人ネーサン・チェンが繋がり深い中国で批判されるワケ

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 スポーツに政治を持ち込むべきではないとする声は多い。しかし、残念ながら、北京冬季五輪は悪化している米中関係を反映しているようだ。

チェン選手にネガティブなSNS投稿

 米ブルームバーグ通信によると、中国国営の新華社通信は、フィギュアスケート男子シングルフリーを報じる記事のヘッドラインでは日本の羽生結弦選手と中国の金博洋選手のパフォーマンスにスポットライトをあて、金メダルを獲得した中国系アメリカ人のネーサン・チェン選手の勝利については2回短く言及しただけだという。チェン選手の両親は中国出身で、チェン氏は勝利後の記者会見でも「親戚は今も中国にたくさん住んでいて、中国とは密接な繋がりがある」と話していることを考えると、中国メディアの対応はあまりに寂しくないか?

 また、中国版ツイッターのウェイボーでは、チェン選手に対するネガティブな投稿が数多く見られるという。チェン選手のパフォーマスについて、パッとしない、“猿みたい”と酷評する投稿や、同選手のことを“バナナ”(西洋化した中国系の人々を軽蔑的に言うのに使われる言葉)と非難する投稿、2018年のパフォーマンスで、チェン選手が映画“小さな村の小さなダンサー”(米国に逃亡した反体制派の中国人女性の話)の音楽を使ったことを批判する投稿もあるそうだ。

“侮辱発言”視されたチェン選手の政治的発言とは?

 両親が中国からの移民であるチェン選手についてネガティブな投稿が行われているのにはワケがある。昨年10月のこと、チェン選手が、アイスダンスのエヴァン・ベイツ選手がした中国の人権侵害を批判する発言に同意するコメントをしていたからだ。

 ベイツ選手の発言とは、“北京五輪チームUSAメディアサミット”の記者会見で、五輪を開催する中国の人権問題が物議を醸している件について、5人のフィギュアスケート選手が質問された際にした以下の発言。

「全選手の代わりに言うが、人権侵害はひどいことで、僕たちはみな、それが人間の組織を切り裂くと信じている。僕のこの見方は人権全般に当てはまるが、中国でムスリム系の人々に起きていることについて言うなら、それはひどい、恐ろしいことだ。僕は、選手らにかわってひどいことが起きていると言っても問題ない。僕たちも人間だ。そこで起きていることを読んだり聞いたりしたら、絶対にそれを憎む。僕たちはそこで起きていることを憎む」

 このベイツ氏の発言を、チェン氏や同じく中国系アメリカ人のビンセント・ジョウ選手も支持した。

 チェン選手はこう話している。

「エヴァンが言ったことに賛成だ。大きなチェンジが起きるには、オリンピックを超えるパワーがいると思う。それは目覚ましいスケールのチェンジでなければならない。しかし、人々がこの問題について話し、オリンピックが問題を明るみに出していることは、すでに、正しい方向への一歩になっている」

 チェン選手は、オリンピックで人権問題が注目されたことは問題解決に繋がると考えているのだろう。しかし、この発言は、中国を侮辱する発言だと中国では捉えらてしまったようだ。

 また、ジョウ選手は「エヴァンの意見には同意するが、自分がやらなければならないことにフォーカスしたい」と話している。

ネット上の批判についてはコメントを避ける

 前回の投稿“「中国政府は脅迫や誘拐をし、犯罪組織に懸賞金のオファーも」FBI長官 中国の人権侵害が米国でも脅威に”で、アメリカに住む中国系アメリカ人の「言論の自由」も中国政府の脅威に晒されているというFBI長官の指摘について紹介した。中国政府が問題視している中国系アメリカ人学生の親のところに諜報員が脅しに来たり、中国政府が問題視するSNSの投稿に「いいね」をしただけでウェブサイトが閉鎖されたりしている。

 世界王者であるチェン選手の人々への影響力は大きい。それだけにチェン選手がした前述の政治的発言は中国で問題視されたものと思われる。そのことが、チェン選手についての中国での少ないメディア報道やSNSでの同氏に対する批判投稿に繋がったのだろう。

 ちなみに、チェン選手は、五輪での勝利後、中国系アメリカ人選手に対するネット上の批判についてどう思うかと質問されたが、その時は「最近、SNSからは遠ざかっている」とコメントをするのを避けている。

羽生選手は日中関係を改善へと向かわせる

 このように、オリンピックは多かれ少なかれ、その時々の二国間関係を映し出すが、同時に、オリンピックは問題のある二国間関係を改善へと向かわせる可能性も秘めていると思う。

 日中間では緊張が続いている。二国間関係を良好にするには、政府間の会合による外交だけではなく、スポーツや文化、学問などを通じた人々の交流も重要だ。

 今、中国では、羽生結弦選手に多くのスポットライトが当てられている。英BBCによると、ウェイボーでは#YuzuruHanyuFallsが300ミリオンビュー以上となり、投稿のほとんどが、転倒したものの4回転アクセルに挑戦した羽生選手を称賛したり激励したりする内容で、中には「昔も今も、日本の振る舞いの中には不快なものがある。しかし、羽生はそんな振る舞いをしていない。彼は偉大だ」という投稿もあるという。

 羽生選手がした4回転アクセルの挑戦は、日中関係を改善へと向かわせる大きな一歩になったのではないか。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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