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「日本に9万人の五輪関係者を送り込む意味などない」米五輪専門家に緊急取材 米・日本への渡航中止を勧告

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
IOCのコーツ氏は緊急事態宣言下でも五輪を開催すると発言し批判を受けている。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 米国務省が日本への渡航中止勧告を出した。渡航中止勧告は、4段階の渡航警戒レベルの中では最も厳格なレベルに相当する。

 ついに、出されるべきものが出されてしまった感が否めない。渡航中止勧告に先立ち、米国務省は4月、CDC(米疾病対策センター)の疫学的評価をより反映させるべく、海外渡航警戒レベルの評価基準を見直すことで、世界の約8割の国がレベル4の対象になる可能性を示していたからだ。

 CDCの評価基準の見直しにより、日本は“非常に高い感染レベル”という最悪の感染段階にあると評価された。その結果、CDCは、

「日本の現在の状況では、接種を完了した旅行者でも新型コロナウイルスの変異株に感染し、感染を拡散するリスクがあるため、日本へのすべての渡航を避けるべきである。日本に旅行しなければならない場合は、旅行の前にワクチン接種を完了すること」

という新たな指針を出したのである。

勧告の東京五輪への影響は?

 気になるのは、この勧告が、東京五輪にどんな影響を与えるかだ。

 米国務省は勧告の中では、東京五輪については具体的に言及していないが、五輪開催2ヶ月前というタイミングで、しかも、五輪開催の是非が問われている時に日本には行かないよう警告した意味は大きいのではないか。

 米メディアも、五輪開催の2ヶ月前というタイミングで勧告が出されたことを指摘している。

「アメリカの警告は、7月23日のオリンピック開催を控えて、先週、オリンピックのトップメンバーが緊急事態宣言下でも五輪を行うと発言した後に出た」(ロイター通信)

 また、アメリカのアスリートの五輪参加に与える影響を懸念する報道もある。

「アメリカは、2ヶ月後に五輪を開催する日本に、渡航中止勧告を出した。この勧告が五輪不参加を意味するのかどうかについて、チームUSAは言及しなかった」(CNET)

 米国で五輪放映権を握っているNBCは「日本国外のオリンピックファンの入場はすでに禁じられているため、渡航中止勧告が五輪にどんな影響を与えるかは不明だ」としているものの、5月31日まで出されている緊急事態宣言が延長される予定であること、五輪開催が近づく中で日本で五輪反対デモが起きていること、日本のワクチン接種率が2〜4%であることなど日本の窮状にも言及している。

五輪関係者を日本に送り込む意味などない

 確かに、NBCが指摘するように、日本国外の観客の五輪入場はすでに禁じられているが、参加を予定しているアスリートや五輪スタッフ、IOCやJOC、日本政府に与える影響はあるのではないか? 

 オリンピック専門家で、4月に著書『オリンピック 反対する側の倫理』(作品社)が日本で出版された、元五輪選手であり、パシフィック大学教授のジュールズ・ボイコフ氏に緊急取材した。

ーー日本への渡航中止勧告はどんな意味を持つとお考えですか?

 東京五輪については、我々は、災難を次々と目撃し続けています。米国務省の渡航中止勧告もまた別の複雑な問題と言えます。日本は前から、アメリカ人旅行者の入国を禁止していたし、日本国外の観衆の五輪入場も禁止したので、実際的なインパクトはあまりないかもしれません。

 しかし、この勧告は非常に象徴的です。結局のところ、米国の公衆衛生のエキスパートたちが日本の新型コロナウイルス感染の拡大を鑑みて、東京に行くのは安全ではないとみなしているとしたら、世界中から日本に9万人ものオリンピック関係者を送り込む意味があるでしょうか? 送り込む意味などないのです。

ーー勧告はアスリートや五輪のスタッフにはどんな影響を与えるでしょうか?

 どんな影響を与えるかはわかりません。日本では、入国できる米国市民は限定されていますが、アスリートや五輪のスタッフの入国は許可されるでしょう。

 また、勧告で、アスリートが五輪参加を思い止まるとは思いません。エリート・アスリートというものは、どんなことにも負けないという信念を持っているからです。それに、アメリカのアスリートは、望めば、ワクチンを接種することができます。

ーーIOCやJOC、日本政府の開催中止判断に影響を与えるのではないでしょうか?

 IOCの最古参メンバーである、カナダのリチャード・パウンド氏のいうことを信じるなら、五輪が中止されるかどうかは6月末までにはわかるはずです。その時まで、IOCやJOC、日本政府は「五輪を開催しなければならない、開催する」と言い続けると思います。

勧告は取り下げられるのか?

 この勧告がいつまで出され続けるのかというのも気になるところだ。

 米紙ロサンゼルス・タイムズのスポーツ・コラムニストのディラン・ヘルナンデス氏はそれについて、筆者にこう話した。

「アスリートが日本に行くまでには、勧告は取り下げられるでしょう。もし、取り下げられないとしたら、それは、日本の感染者が非常に多いために五輪が開催できないということを意味すると思います」

 勧告に対し、ツイッターでは「バイバイ、オリンピック」という声も上がっているが、果たして、東京五輪の行く末やいかに?

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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