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暴漢に殴られて反撃! ヒーローとなった76歳中国系女性に集まった寄付は83万ドル超 米ヘイトクライム

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
アジア系への憎悪犯罪多発により、米国各地で人種差別に反対する集会が開かれている。(写真:ロイター/アフロ)

 アジア系住民に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が急増しているアメリカ。

 人権団体「ストップ・AAPI・ヘイト」には、昨年3月から今年2月末までの間に、アジア系の人々に対する3,795件のヘイトクライムや差別的な出来事が報告された。中でも、カリフォルニア州では多発しており、1,600件以上が同州で報告されている。

 特に、ターゲットにされているのがアジア系の高齢者だ。

 1月28日には、サンフランシスコで、散歩中の84歳のタイ人男性が19歳の男に押し倒され、路上に頭を打ちつけ、2日後病院で死亡した。

 3月9日には、オークランドで、散歩中の75歳のアジア系男性が殴られて脳死状態に陥り、その後亡くなった。男性は窃盗被害にもあった。逮捕された26歳の男は、これまでも、アジア系高齢者をターゲットにした暴力事件を起こしていたという。

80万ドル超の寄付が集まる

 中国系の高齢の女性が襲撃してきた暴漢を撃退する出来事も起き、注目を集めた。

 3月17日、サンフランシスコのマーケット通りで信号待ちをしていた中国系のXiao Zhen Xieさん(76歳)が、見知らぬ白人男性(39歳)から突然顔面を殴打されたものの、勇敢にも、近くにあった棒を取って反撃したのだ。しかし、Xiaoさんは左目から出血、左目で物を見ることができない状態となり、トラウマにも陥っている。

木の棒で暴漢を撃退したXiaoさん(右)とXiaoさんを殴打した暴漢(左)。写真:crimeonline.com
木の棒で暴漢を撃退したXiaoさん(右)とXiaoさんを殴打した暴漢(左)。写真:crimeonline.com

 そんなXiaoさんを助けようと立ち上がったのが孫のジョン・チェンさん。チェンさんが設けた「祖母がトラウマから回復するのを助けて」というクラウド・ファンディングのページでは、現在までに2万8,000人を超える人々が寄付を行い、この記事を投稿する時点で、目標額の5万ドルを大幅に上回る83万ドル超(約9,000万円超)が集まっている。寄付は今も増え続けており、100万ドルに達するのは時間の問題かもしれない。

 チェンさんはXiaoさんの現在の状態について、こう説明している。

「祖母は殴られてできた両目の青あざに苦しんでいて、片方の目からは出血が止まらずに続いている。手首も腫れ上がっている。彼女は精神的、肉体的、感情的に重大な影響を受けている。家から出るのも怖いと言っているんだ。この衝撃的な出来事で彼女はPTSD(心的外傷後ストレス障害)を負ってしまった」 

 Xiaoさんは癌サバイバーで10年以上糖尿病を患っており、集まった寄付金は医療費やセラピー治療に使われる予定だという。

Xiaoさんは、目からの出血が続き、PTSDにも苦しんでいるという。写真:news.yahoo.com
Xiaoさんは、目からの出血が続き、PTSDにも苦しんでいるという。写真:news.yahoo.com

アジア系の人々をインスパイアするヒーロー

 Xiaoさんはなぜ、たくさんの支援を集めているのか?

 クラウド・ファンディングのページには、Xiaoさんをヒーローやチャンピオンと讃える声が寄せられている。

「君の祖母はヒーローだ。彼女が反撃したことを誇りに感じている。彼女は私たちを立ち上がらせ、憎悪や私たちを傷つけようとしている人々と闘うようインスパイアするタフな女性だ」

「勇敢に闘ってくれたから、今度から、暴漢は無実の人を襲撃する前に考え直すことでしょう。あなたは暴漢に、恐ろしい行為には結果がつきものだということを思い出させたのです」

「アジア系アメリカ人たちはみなあなたにインスパイアされています。あなたは私たちのヒーローです。私たちは立ち上がって闘えば、勝てるわ!」

「あなたはチャンピオンだ。悪を前に、勇気を出すことを多くの人に教えてくれた。我々はレイシズムと闘い、勝つのだ」

 Xiaoさんもアジア系の人々が立ち上がることを願っており、広東語でこう話している。

「若い世代のアジア系アメリカ人たちが互いに立ち上がり、高齢者を助けてくれることを願っています」

 アジア系の人々はヘイトクライムにあっても泣き寝入りし、報告しないケースが多い。英語がままならない高齢者の場合は特にそうだろう。Xiaoさんの“勇気ある反撃”は、アジア系の人々はもちろん、マイノリティーの人々がレイシズムに対して立ち上がり、行動するようインスパイアしたのだ。

沈黙は加担と同じだから声をあげよう

 急増するヘイトクライムを根絶すべく、議会も動き出した。

 カリフォルニア州では、アジア系の州議会議員たちがヘイトクライムや差別を報告するホットラインを設けるための議案を提出した。

 3月11日には、アジア系の連邦議会議員たちも、パンデミック下で起きている新型コロナ関連のレイシズムやヘイトクライムを軽減するための法案を提出した。この法案では、アジア系住民に対するヘイトクライムの報告システムを設けたり、市民の教育キャンペーンを行ったりすることが提案されており、バイデン大統領もこの法案を支持している。

 19日には、バイデン大統領がマッサージ店で白人男性が発砲してアジア系女性6人を含む8人が死亡する事件が発生したジョージア州アトランタを訪問、「アジア系の住民が襲撃され、責められ、スケープゴートにされ、ハラスメントされている。暴言を吐かれたり、肉体的暴行を受けたり、殺されたりもしている。沈黙は加担と同じだ。加担はできない。我々は声をあげなければならない。我々は行動しなければならない」と訴えた。

 ヘイトクライムの被害を受けているアジア系の人々の気持ちを理解しているのはアフリカ系アメリカ人やヒスパニック系アメリカ人など、同じマイノリティーの人々だ。彼らもまた白人優越主義と闘うべく声をあげ始めている。マイノリティーの人々が一丸となってレイシズムと闘う機運が今、高まっているのだ。

 アメリカは、トランプ氏が深めたレイシズムという闇から抜け出すことができるのか?

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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