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「森氏の謝罪は形だけ。オリンピックの創始者も正真正銘の女性差別主義者だった」米五輪専門家に聞く

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
女性蔑視発言で世界からバッシングされている森喜朗氏。写真:nytimes.com

 問題の“女性蔑視発言”に対して謝罪した、東京五輪組織委員会会長森喜朗氏の記者会見。反省の色が見えないどころか、森氏が見せた傲慢な態度に世界のメディアはあきれかえっている。 

 米紙NYデイリー・ニュースは記事の中で「“深く反省している”代表(森会長のこと)は自身の発言は不適切だったとして撤回した」と、あえてクォーテーションマークで“深く反省している”と囲んで強調し、反省していない様子を皮肉っている。

 フランスのAFP通信は「絶句:東京五輪会長の性差別発言をめぐって怒り高まる」と、小池東京都知事の「絶句した」という発言をタイトルに入れ、辞任を拒否した森氏が「最近は女性の話を聞かないから」と言って自身の問題発言を正当化したことや、人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」が森氏発言を「金メダル級の女性蔑視」と表現して批判したことなどを紹介している。

よくある形だけの謝罪

 ところで、「オリンピック秘史 120年の覇権と利権」の著者で、オリンピック問題に詳しいオレゴン州のパシフィック大学政治学教授のジュールズ・ボイコフ氏は森会長の会見をどう見たのか? ボイコフ教授に話をきいた。

ー森氏の発言についてどう思いますか?

 森氏の発言は恥です。あのような差別的発言は現代社会では受け入れられません。

ー謝罪についてはどう思われましたか?

 森氏の謝罪はよくある形だけの謝罪です。謝罪には普通反省が含まれるものです。森氏は、誰かが彼に女性が長く話すと言ったという弁解をしましたが、説得力がなく、全然真摯さが感じられませんでした。

ー森氏は辞任しませんでしたが、どう思われますか?

 東京組織委員会が、森氏が会長でい続けることを許したら、それは、委員会がジェンダーの平等を真剣に考えていないという明確なメッセージを送っているのと同じです。性差別という愚かな態度を容認し続けると、愚かな態度がもっと生まれることになります。

 ボイコフ教授は森氏の発言を恥と断罪、森氏は組織委員会の会長に値せず、性差別は容認されればもっと起き続けると警告したのである。

 性差別を放置したままではいけない。

 ゲイであることをカミング・アウトしたサッカー選手の下山田志帆氏も同じことが起きると危惧し、「一度外に出てしまった言動を撤回することは限りなく無意味。むしろ、偏見を認めた上で対策を考えなければ同じことが起こると思うんです」とツイートしている。

オリンピック創始者も女性差別主義者だった

 ボイコフ教授に気になっていた質問も投げかけてみた。

ーオリンピックの世界では性差別は起きているのでしょうか?

 オリンピックの創始者ピエール・ド・クーベルタンは正真正銘の性差別主義者でした。彼は、女性は試合に参加すべきではないと考えていました。女性の仕事は子供を産むことだと彼は言ったのです。もちろん男の子です。いつかオリンピックに参加できるかもしれませんからね。要するに、オリンピックでは、長きに渡り、性差別が行れてきたのです。

 1896年にオリンピックを始め、「近代オリンピックの父」とも呼ばれているピエール・ド・クーベルタン氏は「オリンピックは、勝つことではなく参加することにこそ意義がある」と述べたことで知られるが、オリンピックは男性のためにあるべきだと考え、こう話していたという。

「女性をオリンピックに参加させることは、実際的でなく、面白くなく、不快で、間違っている」

 しかし、女性にもオリンピック参加の機会が男性同様与えられるべきだと考えていた女性がいた。フランス人フェミニストのアリス・ミリア氏だ。ミリア氏は1919年、IOCにオリンピックへの女子陸上競技の参加を求めるが拒否される。そのため、1921年、国際女子スポーツ連盟を組織し、モンテカルロで、第1回女性オリンピアードというスポーツ大会を開催した。

 ところが、IOCに名称変更を求められたことから、“ウィメンズ・ワールド・ゲームズ”に大会名を変更、1922年から1934年まで4年ごとに大会を行った。“ウィメンズ・ワールド・ゲームズ”は成功し、多くの国が参加した。ミリア氏はIOCに女性のオリンピック参加を求め続け、遂にその努力は奏功、1928年のアムステルダム・オリンピックで5種目の女子陸上競技が採用された。

 しかし、それでも1981年に行われたIOC総会まで女性がIOC委員に選出されることはなかった。IOCに排除されていた女性のオリンピック参加が可能になり、IOC委員に任命されるまでには長い時間がかかったのだ。やっと勝ち取った男女平等だったわけである。

怒れる女性アスリート

 男女平等を獲得するまでの長い道のりを考えると、今、女性アスリートたちが森氏発言に怒るのは当然だ。

 元レスリング世界女王の吉田沙保里氏は日本テレビの情報番組「ZIP!」で「レスリングも女子が五輪に参加できたのは2004年のアテネ五輪からで、ようやく性別に関係なく五輪の素晴らしさを実感していたので、このような発言は残念だなと思います」と話している。

 前述の下山田志帆選手も「久々に怒っています。日本のスポーツ界は性の多様性を発信するフェーズにまでいけていないということを如実に表していますね」とツイートした。

 ロンドン五輪女子200メートル平泳ぎ銀メダリストの鈴木聡美選手は「一言で言うと、かなり残念。怒りも正直あります」と話している。

 オリンピックでの男女平等に尽力したアリス・ミリア氏は、草場の陰で森氏の発言をどう思うのだろうか?

(参考記事)

Women & the Olympic Games: "uninteresting, unaesthetic, incorrect"

(女性差別関連の記事)

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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