新型コロナ武漢研究所起源説 ポンペオ氏が「発生源は不明」と主張を翻したワケ 大量の証拠はデタラメ?

「発生源はわからない」とこれまでの主張を翻したポンペオ国務長官。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 「新型コロナウイルスは武漢研究所起源」と主張してきた米ポンペオ国務長官が態度を一転させた。“発生源は不明”とこれまでの主張を大きく翻したのである。ポンペオ氏は、米ニュースサイト「ブライトバート」のインタビューでこう言及した。

「(新型コロナウイルスが)武漢から始まったことはわかっているが、どこや誰に由来するかはわからない」

 ポンペオ氏は5月初めには武漢研究所起源を裏付ける「大量の証拠」があると豪語していたが、その後「確信はない」とトーンダウンしていた。

事故で閉鎖された可能性?

 ポンペオ氏が発生源不明と態度を変えた背景には何があるのか?

 なるほどこれが理由かと思わせるある報告書の分析が、米国時間5月17日付の米ニュースサイト「デイリー・ビースト」に掲載されている。

 もっとも、先に、5月9日の米NBCニュースが「昨年10月、武漢研究所で何らかの事故が起き、一時閉鎖された可能性がある」と報道していたことから伝えた方がいいかもしれない。

 NBCニュースはアメリカの情報機関で広まっていた報告書を入手したが、その報告書は武漢研究所で新型コロナの流出事故が起きた可能性を示唆していたのだ。

 報告書は「昨年10月7~24日まで、武漢研究所の高セキュリティ区域で携帯電話の活動が起きておらず、10月6~11日までの間に危険な事故が起きた可能性がある」「10月11日以降、武漢研究所とその周辺地域の通信端末のトラフィックが減少し、10月14~19日の間はトラフィックがゼロとなったことから、この間、何らかの理由で道路を封鎖したと考えられる」と武漢研究所で危険な出来事が起きたと推定している。

 これについて、米上院議員(共和党)のトム・コットン氏は「武漢研究所で新型コロナの流出事故が発生した証拠かもしれない」との見方を示していた。

デタラメな報告書

 新型コロナ流出を示唆する報告書は信頼できるものなのか?

 報告書の真偽を確かめるべく、前述の「デイリー・ビースト」は専門家に分析を依頼、報告書は“デタラメ”という見解を出した。

 30ページにわたる報告書は、米国防総省の主要コントラクター、シエラ・ネバダ社の一部であるマルチ・エージェンシー・コラボレーション・エンバイロンメント(MACE)が作ったものだが、分析家はそもそも、報告書の情報源自体を問題視した。報告書が、SNSの投稿や商業衛星画像、携帯端末の位置データをベースにしているからだ。

 また、分析家は、様々な理由から、報告書の主張では新型コロナの流出事故が起きたことは立証できないと訴えている。

 第1に、報告書は、最大7つの携帯端末の位置データがなくなっているのはおかしいと訴えている(事故により位置データがなくなったと推定している)が、分析家は最大7つという数はサンプル数としては少なすぎるため、事故が起きた証明にはならないという。

 第2に、報告書は、昨年11月の1週目に武漢研究所で開催予定だった会議が中止になったのは事故のためだと推測しているが、実際には、その会議は開催されていたことがわかった。会議に出席したパキスタンの科学者が、会場で撮ったセルフィーをフェイスブックに投稿していたのだ。

 第3に、報告書は、研究所の周囲にバリケードが設置されたり、道路が閉鎖されたりしたとしていると指摘しており、その指摘は事故が起きて通行人を感染させないためだという印象を報告書の読み手に与えているが、分析家は、バリケードの設置や道路の閉鎖は研究所近くの高速道路で道路工事が行われていたからだと推測している。

 第4に、報告書は、事故が起きたと推定される後、研究所付近で交通の動きがなかったとしているが、分析家は研究所付近での車やバスの動きは通常と変わりがなかったとしている。

 報告書の書き手は武漢研究所周辺で通常とは違う異変が起きていることを示すことで流出事故と関連づけたいのだろうが、「デイリー・ビースト」の分析では、事故が起きたことを示唆するような特別な異変は観測されなかったわけである。

 ちなみにこの報告書は、ポンペオ氏が5月3日に武漢研究所起源を裏付ける「大量の証拠がある」と言った数日後に、政権内で広まったものだという。推測の域を出ないが、ポンペオ氏は、「デイリー・ビースト」が“デタラメ”と主張するこの報告書を「大量の証拠」と考えていたのではないか? しかし「デイリー・ビースト」の分析が指摘しているように、結局、報告書は流出事故を証明する決定的な証拠を提示していないとわかったために、“発生源は不明”と態度を一転させたのではないだろうか?

 新型コロナはどこからどう発生したのか。中国の透明性ある情報提供と独立機関による検証が待たれる。

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