Yahoo!ニュース

【新型肺炎】湖北省で感染者数と死者数が一気急増 日本の新型肺炎予防策が見落としていること

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
湖北省では、新たに14850人の感染者と242人の死者が確認された。筆者撮影。

 今、シンガポールに来ているのだが、今朝のニュースが、湖北省で新たに14840人もの感染者が確認され、死者も新たに242人確認されたことを緊急速報として報じていた。感染者数は前日に報告された数の10倍、死者数は前日に確認された数の2倍という一気な急増だ。1日の死者数としてはこれまでで最大の数だという。一気急増の背景は、中国が感染者の診断法やカウント法を改訂したためだと説明されている。改訂された方法により、中国では、さらに感染者数が増えるのではないか。

 2月13日現在、新型肺炎による全感染者数は約6万人で、全死者数は1300人を超えた。

 中国、ダイヤモンド・プリンセス号に次いで、今、感染者数が多いのがシンガポールだ。筆者は、先日、ある仕事のため、福岡国際空港からシンガポールに入った。空港や機内の様子、シンガポールで気づいた予防策などを伝えたい。

中国滞在の有無は自己申告

 出発したのは福岡国際空港。この空港からはアジア方面へ向かう便が多いからか、空港にいた大半の乗客はアジア系。見たところ、空港を歩いている人々は9割ほどがマスク姿だった。

 シンガポール航空のチェックインカウンターでは、過去14日間に中国に滞在したかどうか尋ねられたので「いいえ」と答えた。しかし、実際に、パスポートを開いて中国滞在の有無まではチェックされなかった。あくまで自己申告なのだ。

 出国検査場の出発案内ボードを見ると、上海便は欠航となっていた。

 感染拡大の中、アジア方面に向かう乗客は少ないのではないかと予想していたのだが、機内はほとんど満席に近い状態。修学旅行だと思われる高校生の団体も搭乗していた。筆者の隣の乗客は会社の研修旅行に向かうという若者だった。ハネムーン客も何組もいて、フライトアテンダントからギフトのサービスを受けていた。

 機内ではフライトアテンダントも数人を除いてはみなマスク姿だった。乗客も多くが飲み物のサービスや食事サービスの時以外はマスクを着用していた。食事の際には、どこからかアルコール消毒液の匂いも漂ってきた。

 近くの席の乗客の咳が気になった。見ると、その乗客はその時マスクを外した状態だった。しかし、考えてみると、人は、四六時中マスクをしているわけではない。咳は意に反して思わず出てしまうこともあるだろうし、手で口を塞ぐのが間に合わないこともある。人は完璧ではない。わかりつつも、やはり、筆者の中に、どこから感染するかわからないという恐怖心があるからだろう。飲んでいたオレンジジュースに飛沫が飛んできたのではないかと心配になり、ジュースを飲み終える気をなくしてしまった。

 シンガポールに到着する前にも、14日間以内に中国を訪ねた人や発熱や呼吸困難などの症状がある人は入国審査官に申し出るよう機内アナウンスが行われた。やはり、これも自己申告だ。

検温が重視されている

 シンガポールでは現在までに50人が感染。日々その数は増加している。15人が完全に回復し、8人が集中治療室で治療を受けている。先週、中国や感染者との繋がりが見られない4人の感染例が確認されたことから、警戒レベルは上から2番目の「オレンジ」に引き上げられている。実際、中国渡航歴がなく、感染者とも接触していないローカルの人々の感染が増加していることがシンガポールでは非常に懸念されている。同国には、武漢市が封鎖される前に、同市からシンガポールに避難した人々が多数おり、また、人口密度も高いため、感染も広がりやすいのだろうか。新聞では、感染予防が強く呼びかけられている。

感染予防策をイラスト入りで大きく伝えるシンガポールの新聞。筆者撮影。
感染予防策をイラスト入りで大きく伝えるシンガポールの新聞。筆者撮影。

 例えば、シンガポール紙ザ・ストレイツ・タイムズの日曜版では、イラスト付きで予防策が大きく紹介されていた。

1. 石鹸をつけて、頻繁に手洗いしましょう。

2.1日2回、体温を測りましょう。

3. 手で顔を触るのは止めましょう。

4. 家の中や身の回りの物を清潔に保ち、通気を良くしましょう。

5. くしゃみや咳をする時はティシュペーパーで口を覆いましょう。

6. 気分が悪い時はマスクをし、医者に診てもらいましょう。

7. 気分が悪い時は混雑している場所には行かず、家にいましょう。

8. 自宅隔離命令や休職命令を遵守し、指定された場所にいましょう。

 この中では、2や3はあまり日本では注意喚起されていないように思う。特に、シンガポールでは検温が重視されているように感じる。テレビニュースでは、スクールバスに乗る子供たちの検温を開始したことが報じられていた。また、観光スポットであるマリーナ・ベイ・サンズ・ホテルの展望デッキに上る際も、入り口で額に体温計を当てられて検温された。入り口で検温しているレストランもあった。仕事で訪ねた個人宅でも、検温された。

マスクは症状がある時だけ身につけようと呼びかける掲示板。筆者撮影。
マスクは症状がある時だけ身につけようと呼びかける掲示板。筆者撮影。

 しかし、シンガポールでは、マスク着用は日本ほど強く推奨されていない。実際、市内を歩いても、マスク姿の人を思っていたほど多くは見かけない。ホテルのチェックインカウンターにも「元気ならマスクを着用するな」という掲示板が置かれているほどだ。そして、3つのイラストが示す症状(くしゃみや鼻水、発熱、咳)がある時だけマスクをつけようと呼びかけていた。

筆者が宿泊したホテルは、チェックインする際に、宿泊客に質問票への記入を求めている。筆者撮影。
筆者が宿泊したホテルは、チェックインする際に、宿泊客に質問票への記入を求めている。筆者撮影。

 滞在先のホテルでは、チェックインの際に、新型コロナウイルスに関する質問票への記入を求められた。聞くと、今、多くのホテルがチェックインの際に同様の記入を宿泊客に求めているという。感染者が出た場合、感染源を辿ることができるようにするためだという。質問票には以下の4つの質問が記載されている。

1. 37.5度以上の熱があるか?

2. 空咳、息切れ、呼吸困難、筋肉痛、風邪や鼻水の症状があるか?

3. 過去2週間に、WHO(世界保健機関)や地元の健康機関が警告している新型コロナウイルスの影響を受けている地域に滞在したか? 

4. 過去7日間に、新型コロナウイルスの感染が疑われる人や感染している可能性がある人と接触したか? 

マリーナ・ベイ・サンズ・ホテル内にある告知板。感染の症状のある人はスタッフにすぐに知らせるよう伝えている。筆者撮影。
マリーナ・ベイ・サンズ・ホテル内にある告知板。感染の症状のある人はスタッフにすぐに知らせるよう伝えている。筆者撮影。

ホテルやショッピングモールでも「発熱や咳、息切れなどの呼吸器症状で気分が悪くなった客、休職命令が出されている客、過去14日間に中国本土を訪ねた客は、すぐにスタッフに知らせて下さい」という告知がされている。

テレビのニュースは、感染者について詳しく報じている。筆者撮影。
テレビのニュースは、感染者について詳しく報じている。筆者撮影。

 テレビニュースは新しく感染者が出ると、その感染者について詳細な情報を報じている。年齢、職業(会社名も含む)、居住地、最近の中国訪問の有無、入院する前にどこに行ったか、いつ新型コロナウイルスの症状が現れ、いつ治療に行ったか、隔離されているかなど現在の状況を伝えている。

 また、シンガポールにある日本企業の中には、感染予防のために、駐在員に在宅勤務させているところもあり、そういった企業は増えているという。

生ものにも注意か

 ところで、感染予防という点で、WHO(世界保健機関)は、以下の予防策を推奨している。

1. 定期的に手洗いし、アルコールベースのサニタイザーを使う。

2. 人混みではマスクを着用すること。

3. 生あるいは十分に火が通っていない動物性食品(例えば、ミルクや肉、卵)は避けること。

4. 発熱や咳、くしゃみ、呼吸困難のような症状をみせている人々との濃厚接触は避けること。

5. 発熱や咳、くしゃみ、呼吸困難などの症状が起きたら、すぐに病院に行き、最近の旅行歴を伝えること。

6. 新型コロナウイルスが発生した地域の動物との接触は避けること。

 宿泊先のホテルのチェックインカウンターでは、以下の注意喚起もされていた。

1. 鶏や鳥を含めて動物には近寄らないこと。

2. 生の肉や十分に火が通っていない肉は食べないこと。

3. 混雑した場所や体調の悪い人の近くにはいないこと。

シンガポール政府は生の肉や十分に火が通っていない肉は食べないことなども注意喚起している。筆者撮影。
シンガポール政府は生の肉や十分に火が通っていない肉は食べないことなども注意喚起している。筆者撮影。

 この中では、「生あるいは十分に火が通っていない動物性食品は避けること」については、日本ではあまり注意喚起されていないように思うのだが、どうだろう?

 日本の感染予防に関する報道を見る限り、手洗いやアルコール消毒、マスク着用にフォーカスしたものが目につく。これらの予防策はもちろん重要だが、感染拡大の終息が見えない今、シンガポールやWHOが推奨している予防策も見落とすことなく、もっと注意喚起されるべきではないか。

(関連記事)

【新型肺炎】「41%が院内感染、院内致死率は4.3% 急速なヒトヒト感染を示唆」新研究報告

【新型肺炎】「パンデミックになるのはほぼ確実」「封じ込められなくなりそうだ」米専門家が悲観発言

「日本の最低な態度にゾッとしたわ」 人種差別発言「#中国人は日本に来るな」米紙報道 【新型肺炎】 

「感染者数は何万も少なく見積もられている」前アメリカ食品医薬品局長官 新型肺炎が世界に拡大したワケ

新型肺炎「武漢だけで、2月4日までに最大35万人超が感染」英米研究チーム

「新型コロナウイルスは容易に感染する」米専門家が警告 ウイルスの宿主はフルーツコウモリか?

【新型肺炎】米紙も報じた「#中国人は日本に来るな」が見落としているもの

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事