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コーヒーを購入しなくてもトイレ使用OKにしたスターバックス その後どうなったのか? 米大学が研究報告

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
「トイレ開放宣言」後、ホームレスが多数居住する都市部のスタバでは客数が激減。(写真:ロイター/アフロ)

 約1年半前、フィラデルフィア州にあるスターバックス・コーヒーで、何も注文することなく、ビジネス・パートナーが来るのを待っていた黒人男性が、トイレを使用させてもらえなかった上に、警察に通報されて逮捕される事件が発生、スタバの対応は人種差別だと大きな批判を浴びたことを覚えているだろうか?

 この事件を機に、スタバは、2018年5月、コーヒーを購入せずともトイレを使用することができる方針へと転換する「トイレ開放宣言」を行ない、大きな話題となった。

 従業員には新たなガイダンスが与えられた。従業員は、客が喫煙、睡眠、暴言などの破壊的態度を見せた場合は客にそれをやめるようにリクエストすること、また、客が泥棒、強盗、暴力の脅し、不法ドラッグの使用、肉体的暴行を行なった場合は警察に通報することが指導されたのだ。

近隣の店と比べて客数が減少

 その後、スタバはどうなったのか? 

 このほど、テキサス大学ダラス校のビジネススクールとボストン・カレッジが、セーフグラフ社のデータをもとに共同で行なった研究報告が発表された。それによると、「トイレ開放宣言」以降、スタバの月間客数が、近隣にあるカフェやレストランと比較した場合、6.8%ダウンしていることがわかった。

 セーフグラフ社は、2017年1月から2018年10月の間、スマホや携帯電話など1000万個以上のディバイスのロケーション・データをもとに、アメリカにある10800店のスタバの月間客数を、近隣のカフェやレストランの月間客数と比較した。その結果、スタバの客数が大きく、有意に減少していることがわかったのだ。

 特に、ホームレス・シェルターから近いスタバと遠いスタバを比較した場合、ホームレス・シェルターに近いスタバでは遠いスタバより、客数が2倍の率で減少していた。

 また、スタバに来店する客の平均収入も近隣のカフェより低くなっていることがわかった。つまり、「トイレ開放宣言」以前と比べると、富裕な客が来店しなくなったことになる。

 さらに、客の滞店時間も、近隣のカフェより約4.2%短い。ホームレス・シェルターに近いスタバでは滞店時間がもっと短くなっているという。

ホームレス居住地域では客数が激減

 研究を行なったボストン・カレッジの准教授デビッド・ソロモン氏は、客数が減少した原因についてこう話している。

「コーヒーを買わない人々がテーブルやトイレを使うようになったため、コーヒーを飲みに来た客は席に座れなくなったり、トイレが汚くなっていることに気づいたりし、来店するのをやめてしまったのかもしれません。特に、トイレやテーブルなどのアメニティーが多く使われている地域では客数の大きな減少がみられます。また、ホームレスの人々が数多く来店する、都市部のスタバでは客数が大きく減少しているのです」

 スターバックス側はこの研究報告に対して、

「最新の収益報告書が示すように、来客数は記録的数字を出している。この研究は携帯電話のデータを調査したものだが、31000の店には、毎日リアルな客が来ている」

と説明したが、ソロモン准教授は、

「スタバは自社のデータは持っているだろうが、近隣のカフェの情報までは必ずしも持ってはいないと思う。それを知るには、携帯電話などのデータが必要になるからだ」

と言って、近隣のカフェの客入りと比較した自身の研究結果に自信を見せている。

潜在的偏見という問題

 スタバが「トイレ開放宣言」を行なった際、知覚研究所エグゼクティブ・ディレクターのアレクシス・ジョンソン氏が、人々の中にある“潜在的偏見”について、こう指摘していた。

「脳の中には“潜在的偏見”というものがあるため、人はある特定の人々を無意識のうちに否定的に捉えてしまう」

 この“潜在的偏見”が、スタバの客数の減少に影響を与えていると思う。つまり、人は、コーヒーを買わずにスタバに居座る人々やホームレスの人々に対して、“潜在的偏見”を持っているのだ。

 同じことは、先日、台風19号が日本を襲った際、避難所から受け入れを拒否されたホームレスに対してもあてはまると思う。受け入れを反対した人々は、その理由として衛生上の問題や税金を払っていないという問題、自己責任という問題をあげていたが、最大の理由は何より、彼らの中に、ホームレスの人々に対する“潜在的偏見”やスティグマがあるからではないか。

 ジョンソン氏は「自分の中にある“潜在的偏見”を知り、脳に偏見の対象に対する見方を変えさせることは可能ではあるが、短期間でできるものではない」と、“潜在的偏見”を取り除くのには時間がかかると話している。

 スタバは来店する人々はみな受け入れるという「サード・プレイス・ポリシー」の下、購入しない人も受け入れているわけだが、人がそれぞれ抱える“潜在的偏見”という問題にどう対処するのか。

 

 11月15日には、シカゴに、広さ35000スクエア・フィート(約3250平方メートル)という世界最大のスタバがオープンする。

 また、この秋には、ニューヨークはマンハッタンのペン・プラザに新業態店のオープンも予定されている。アプリで注文し、店では注文したアイテムをピックアップするだけというピックアップ専門のスタバだ。これに先立つように、北京では7月から「スターバックス・ナウ」という、ピックアップ専門の新業態店のテストが始まっている。

 新業態店で新たな成長戦略に乗り出す中、スタバが今度どんな動きに出るのか注目したい。

参考:How Starbucks' open bathroom policy is impacting foot trafficStarbucks’ Open Bathroom Policy Comes With Heavy Cost, Study Finds

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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