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トランプ氏が激怒した駐米英国大使の極秘公電の中身 3つの「トランプ氏対処法」とは? 安倍氏の課題は?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ワシントンDCにある英国大使館。(写真:ロイター/アフロ)

 英政府に送った極秘公電でトランプ氏を「無能」呼ばわりした駐米英国大使サー・キム・ダロック氏とダロック氏を擁護しているメイ首相への“トランプ氏の口撃”が止まらない。

 昨日の「大使のことは知らないが、アメリカでは好かれていないし、評判も良くない。彼はもう相手にしない」というツイートに続き、トランプ氏は、朝から、“ツイート口撃”を繰り広げた。

「イギリスがアメリカに押しつけてきたいかれた大使は我々が気にいる相手ではない。非常に愚かな男だ。彼は、英国に、そしてメイ首相に“ブレグジット交渉は失敗だ”と言うべきであって、“非常にひどい交渉だった”と私が批判したことに腹を立てるべきではないんだ。私は、テリーザ・メイにどう交渉すべきか指南したが、彼女は自分流の愚かな方法を取り、交渉を成立させることができなかった。最悪だ。大使のことは知らないが、彼は思い上がった愚か者だときいている。彼に言え。アメリカは今世界一の経済と軍隊を有しており、両方とも強くなるばかりだと。ありがとう、Mr.プレジデント!」

 批判には100倍返しすると言われているトランプ氏らしい怒りのツイートだ。

フェイク・ニュースの大半は事実

 しかし、そもそも、この極秘公電にはどんな批判が記されているのか? 極秘公電を入手した英タブロイド紙デイリー・メールによると、ダロック氏は以下のトランプ批判を展開している。

 例えば、“スキャンダル人生”を無視する能力があるトランプ氏について、

「ターミネーターのラスト・シーンのシュワルツェネッガーのように、大統領は炎の中から姿を現し、打ちのめされても傷つかないかもしれない」

と皮肉っている。そんなトランプ氏であるから、ロンドンの政府高官には「彼を見限るな」と警告している。

 また、英国訪問後も、トランプ氏は“アメリカ・ファースト”のままだと指摘。

「トランプと彼のチームは英国訪問の際には感嘆した。英国は今月の話題になっている。(しかし)トランプ政権は“ここはアメリカ・ファーストの国だ”と自国の利益を依然として重視している」

 トランプ氏の再選も予測している。

「トランプが2期目も大統領になるという信頼できる道筋がある。支持者はほとんど白人だけだ」

 フェイク・ニュースの大半は事実であると指摘。

「ホワイト・ハウスで卑劣な内紛や混乱が起きているというメディアの報道をトランプはフェイク・ニュースだとはねつけているが、大半は事実だ」

 トランプ政権とロシアの共謀疑惑については「間違いであることが大半証明されなかったため、最悪の事態が起きる可能性は排除できない」と言及。

 アメリカのイラン政策については「アメリカのイラン政策はすぐにはまとまらないだろう。政権が内部分裂しているからだ」と分析。また、先日、トランプ氏がイランへの報復攻撃を直前に中止したのは、トランプ氏が選挙公約に反することをしたくなかったからだと主張している。トランプ氏は海外で起きている紛争にアメリカを巻き込まないという選挙公約をしていたからだ。

 ブレグジットをめぐっては、米英間に緊張が起きると警告。

「米英がブレグジット後の貿易関係強化のアジェンダを進めようとする中、気候変動や報道の自由、死刑をめぐって、両国のアプローチの相違が表面化するだろう」

 また、「トランプは不安定を拡散しており、演説には嘘の主張や捏造データを盛り込み、国内政策ではほとんど何も達成していない」と非難、「この政権が能力を持つことはないだろう」と明言している。

 そして「この政権が実質的に正常なものになり、機能不全が軽減され、予測不能でなくなり、派閥分裂が改善され、外交下手で無能でなくなることはないだろう」、「トランプ氏のキャリアは不名誉な形で終わるだろう」とトランプ政権の行く末を嘆いている。

 しかし、批判をしながらも、ダロック氏は「アメリカはイギリスにとってナンバー1の安全保障のためのパートナーである」と強調、「イギリスは、輸出、防衛や情報協力、ブレグジット後の貿易交渉のためにアメリカを必要としている」と米英の2国間関係を重視している。

 つまり、ダロック氏は、トランプ政権は無能でしょうがないものの、米英関係は重要だと訴えているのだ。

トランプ氏対処法を3つ指南

 米英関係が重要なら、イギリスは無能なトランプ政権とどうつきあっていけばいいのか?

 ダロック氏は、政権を率いる予測不能なトランプ氏に対する対処法について、英政府に3つの指南をしている。

 

1. できるだけ多くの大統領のアドバイザーたちに影響を与えよう。

トランプ氏は、大統領執務室では政権チームや閣僚にアドバイスを求め、夕方は政権の外にいる友人たちに電話をして意見を聞いている。その多くと、我々はコンタクトできるルートを持っている。そういったルートをたくさん作って、大統領が相談してる人々に影響を与えることが重要。

2. メイ首相はトランプ氏にもっと頻繁に電話せよ。

首相からの個人的な電話は着実に信頼を生み出す。月に、少なくとも2、3度は話すといい。

3. トランプ氏にコンタクトした時は、おだてて、彼のエゴにつけ込め。

トランプ氏が最近達成したことを褒めることから始めよう。要点を簡潔かつ単刀直入に伝えよ。ホワイト・ハウスのアドバイザーによると、トランプ氏に微妙で曖昧な話をしてもいいことは何一つないそうだ。

 トランプ氏のことをよく理解している、的を射た3つの指南だけに、トランプ氏は激怒しているのかしれない。

安倍首相の課題は?

 ところで、この3つの指南、安倍首相はどれだけマスターしているのだろう。「頻繁な電話」と「おだて」という2つをマスターしていることはまず間違いない。

 問題は「ルート作り」だ。安倍首相は、トランプ氏が日頃やりとりしている政権内外の関係者たちにコンタクトするルートを持っているのだろうか? 

 レーガン大統領元側近のクライド・プレストウィッツ氏が、以前、筆者にこう話していた。

「ワシントンDCはよそよそしいところで、日本政府は、少数のシンクタンクやエキスパートとしかネットワークがありません。それでは十分ではないのです。ネットワークをもっと広げていくべきだと思います」

 また、同氏はこうも話した。

「アメリカにとって最も重要な同盟国は、長い間、イギリスでした。しかし、イギリスは今、弱体化しています。アメリカが世界で1カ国だけ同盟国に選ばなければならない国があるとしたら、それは日本だと思います」

 アメリカにとって今、最も重要な同盟国の日本。ルート作りを強化して、それを2国間関係にいかすことは、安倍首相の今後の課題かもしれない。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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