Yahoo!ニュース

男性は虚偽のセクハラ告発の被害者? 母親が自慢の息子を案じてした、とんでも#HimTooツイートとは

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
#HimTooを支持する母親のツイートが話題に。写真:flipboard.com

 「女性たちの声を聞く必要があるわ。女性たちを支援する必要があるわ。でも女性たちだけではなく男性たちも支援する必要がある。誰かを告発する時は、確かな証拠が必要よ。女性たちを支援しているけど、彼女たちは証拠を見せる必要があるわ。“性的暴行をされた、あなたはこんなことをした”と言うだけではだめよ」

 アフリカ滞在中、ABCの特別番組(米国で10月12日放送予定)のインタビューを受けたメラニア夫人が、#MeTooムーヴメントについて意見を求められた際、こんなコメントをしていることがわかった。

 女性たちは性的暴行を受けたという確かな証拠を見せてほしい。

 メラニア夫人がそう訴えたのは、大統領選挙時、セクハラをされたと多くの女性たちに告発された夫トランプ氏のことが頭にあるからだろう。証拠がないと、夫を含めて男性たちは虚偽の告発の被害者になるかもしれない。メラニア夫人にはそんな危惧があるに違いない。メラニア夫人としては、#MeTooで女性たちを支援すると同時に、今、ツイッターでトレンディングとなっている#HimTooで男性たちも支援したいところなのかもしれない。

保守派が#HimTooを支援

 #HimTooとは、カバノー氏が性的暴行疑惑で告発されるという事件が起きたことをきっかけに、ツイッターを賑わせ始めたハッシュタグで、女性から虚偽の性的暴行の告発をされる男性たちを支援するムーヴメントだ。虚偽の告発を受ける男性も被害者だというのである。告発されたカバノー氏の無実を信じるトランプ氏が「無実かもしれないのに罪を被せられる今は、アメリカの若い男たちにとって、とても恐ろしい時代だ」と言及したことも、#HimTooに拍車をかけた。

 もっとも、性的暴行については、女性が虚偽の告発をすることは殆どない。犯罪学者によると、そもそも、告発する女性の割合は8〜10%と少なく、残りの女性は告発せずに泣き寝入りしている。告発した女性のうち、虚偽の告発をするのは5%ほどだという。つまり、全体的には、10%の5%、つまり、0.005%しか虚偽の告発をしていないことになる。言い換えると、虚偽の告発は殆どないといってもいい。

 それにもかかわらず、#HimTooがトレンドになったのは保守派の支援を受けたからだ。カバノー氏を告発したフォード教授を支援する#IBelieveDrFordキャンペーンに対抗するため、保守派が、カバノー氏を#HimTooで支援したのである。

虚偽の告発という風潮を恐れて

 #HimTooを支援する人々の中には、息子を持つ母親たちもいる。彼女たちが#HimTooを支援しているのは、愛する息子が女性から虚偽の告発を受けるのではないかと案じているからだ。

 2人の息子の母親であるハンソンさんもその一人だったのかもしれない。10月6日、彼女がした以下のツイート(すでに削除されてしまったが)は瞬く間に拡散され、大きな話題になった。ツイートは海兵隊のユニホームを着たイケメンの息子ピーター(32歳)の写真つきだ。

「こちらは私の息子よ。ブートキャンプを1番で卒業したの。賞ももらった。学校でも1番だったわ。女性をリスペクトしている紳士よ。今、過激なフェミニストたちが虚偽の性的暴行の告発をする風潮があるから、息子は、1対1のデートに行こうとしないの。#HimTooを支持」

画像

 息子は虚偽のセクハラ告発を受けるのを恐れて1対1のデートに行かないというハンソンさんのツイートは、一気に拡散。ピーターは瞬く間にツイッター上で“時の人”になってしまった。大学で試験を受けていたピーターの電話も突然鳴り出した。何事かと思い見てみると、母親がしたツイートや自分に対する攻撃的なヘイトメッセージのオンパレードだった。

 傷ついたピーターは、事実とは全く違うツイートをした母に怒りを感じ、しばらく母親とは口をきかなかった。ピーターは虚偽の告発を恐れていないし、1対1のデートにも行ける。何より、#HimTooを支援していないのだ。

 しかし、同時に、母親には悪気がないこともわかっていた。ピーターは思った。息子に早く彼女ができたらなあ。母はそう願ってあんなツイートをしたのだろう。怒っているけど、母もあんなツイートをしてたくさん反発を受けた。こんなことがあっても、母を愛しているし、今も僕の母なんだ。

 ピーターは身に降りかかったネガティブな出来事を、ポジティブに転じる決意をした。そして、10月9日、ツイッターアカウントを作って、以下のツイートをした。

「あのツイートは僕の母がしたんです。愛する人が、知らず知らずのうちに、自分を傷つけてしまうことはあるよね。今の状況を、ポジティブな方向に好転させよう。僕は#BelieveWomenをリスペクトしている。#HimTooは支援していないし、これからも支援するつもりはないよ」

 ピーターは母を許し、#HimTooを支援していないことを明らかにしたのだ。

画像

笑いを誘ったミーム

 ところで、ハンソンさんのツイートからはたくさんのミームが生まれた。ミームとは、あるツイートを、自分バージョンに面白く作り変えて広がっていく投稿のことだ。ツイッター上では、ピーターの写真を別の写真に差し替えて、論調を真似た投稿が多数アップされた。

画像

 例えば、フレアが出ている太陽の画像がつけられているこのミームでは、こんな説明がされている。Son(息子)を、同じ発音のSun(太陽)に変えてパロッているところがユニークだ。

「こちらは私の太陽です。彼は、太陽系を一番で卒業しました。彼は惑星をリスペクトしている星です。彼は重力が強くいつか爆発してしまうため、1対1のデートに行こうとしません」

 ミームは人々の笑いを誘った。自分がしたツイートに恥ずかしさを感じ、ツイートを削除してしまったハンソンさんも、最後は、笑った。ピーターの兄ジョンは、そのことに意味を見出し、こう話している。

「みんな大切な人たちがいるよね。彼らの考え方は自分とは違うかもしれない。でも、一緒に笑おうよ。考え方が違うからといってバラバラにならず、みんな1つになろうよ。今回の出来事で、そんなメッセージが広がるといいな」

 虚偽のセクハラ告発を恐れて息子は1対1のデートをしないのだと考えて#HimTooを支持した母親と、母親のとんでもないツイートに怒りを感じながらも母親を許した#HimTooを支持しない息子。二人の考え方は違うかもしれない。でも、最後には、笑いが生まれたことに意味があるのだ。

 考え方がどんなに違っていても、一緒に笑い合えたら。

 リベラル派と保守派に大きく分断され、殺伐としている今のアメリカに送りたいメッセージである。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事