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トランプ氏に落とされた“二つの爆弾” “腹心の部下”、遂に裏切る 大統領弾劾に至るのか?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
コーエン氏は、結局、トランプ氏のかわりに銃弾を受けることはできなかった。(写真:ロイター/アフロ)

 「候補に指示された」

 “トランプ氏のかわりに銃弾を受ける”とまで豪語していたトランプ氏の元顧問弁護士で、選挙資金法違反や脱税の罪で起訴されたマイケル・コーエン氏は、21日、ニューヨーク・マンハッタンの連邦地裁で、遂に“口を割った”。ここで、彼が言及している候補とは、言うまでもなく、当時大統領候補だったトランプ氏のことである。(コーエン氏については、“トランプ氏のかわりに銃弾を受ける”という“狂犬”弁護士、マイケル・コーエン氏とは何者なのか?をお読み下さい)

 コーエン氏は、トランプ氏の指示で、彼と連携して、選挙を有利にするために、トランプ氏の不倫相手と言われている元ポルノ女優のストーミー・ダニエルズ氏と元プレイボーイモデルのカレン・マクドゥーガル氏に口止め料を払ったことを認めたのである。事実なら、現職の大統領は、当選するために、選挙資金法に違反していたことになる。

 それだけではない。トランプ氏は嘘もついてきたことが証明された。トランプ氏はコーエン氏の口止め料の支払いについて、当初、知らぬ存ぜぬを通してきたからだ。5月、ジュリアーニ氏の失言で、口止め料をコーエン氏に返済したことがばれたものの、それでも、それが何のための返済であるかは知らなかったとシラを切っていた。

 コーエン氏は結局、トランプ氏のかわりに銃弾を受けることはできなかった。トランプ氏は“腹心の部下”に裏切られた形となった。

鍋の中から火の中へ

 折しも、同日、時を同じくして、大統領選時にトランプ陣営の選対本部長を務めたポール・マナフォート氏が、バージニア州の連邦地裁から、詐欺などで有罪評決を言い渡された。

 トランプ氏は、同時に、“二つの爆弾”が落とされてしまったようなものだ。しかし、“コーエン爆弾”の方がはるかに大きく、アメリカのメディアは、以下のように報じている。

CNN: 大ごとだ。政況が大きく変わるだろう。共和党はトランプ氏を支持し続けるのか?

ボストン・グローブ:コーエン氏の説明は、トランプ氏自身にも罪があることをほのめかしている。

ニューヨーク・タイムズ:マイケル・コーエン氏は、驚くべきことを認めた。彼の申し立ては、大統領を捜査するにあたって極めて重要だ。コーエン氏は、セックス・スキャンダルにより大統領候補である身が危うくなることを恐れたトランプ氏と協力して、セックス・スキャンダルを隠蔽したと説明したのだ。

ワシントン・ポスト:トランプ氏が最も恐れていることが現実のものとなった。コーエン氏の申し立ては痛打だ。彼は、トランプ氏が、女性問題と選挙資金、ビジネス交渉、ロシア疑惑の3つに直接関与していることを示せる第一の証人だからだ。トランプ氏は鍋の中から火の中に飛び込むような、さらに最悪な状況に陥った。

 コーエン氏の弁護士はこうツィートしている。

「口止め料がコーエン氏の犯罪であるなら、それはトランプの犯罪でもあるだろ?」

弾劾される可能性も

 識者たちは、現職の大統領は訴追されないと言いつつも、弾劾の可能性はあると指摘している。

「現職の大統領は守られているが、コーエン氏の言っていることが事実で、トランプ氏が選挙に影響を与えようとしていたのなら、それは連邦重犯罪となる。これは彼にとっては大きな一撃となる」(司法省元検事のダニエル・ペタラス氏)

「現職の大統領なので起訴はされないが、民主党が下院の議席を取り戻したら、弾劾の手続きが始まるかもしれない」(ビル・クリントン元大統領の弾劾裁判の際、大陪審質問を行ったホワイトカラー犯罪の弁護士ソル・ワイゼンバーグ氏)

 コーエン氏は、最長65年の禁固刑に直面しているが、司法取引により、刑期が4〜5年に減刑される可能性がある。判決は12月12日に出る予定だ。

 また、コーエン氏が、今後、ムラー氏のロシア疑惑の捜査に多大な協力をすれば、刑期はさらに減刑される可能性もあるという。実際、コーエン氏の弁護士は「コーエン氏は、ムラー氏に、知っているすべてを喜んで話す」と言っている。コーエン氏がムラー氏に多くの情報を提供したら、トランプ氏にとってはさらなる痛打になるかもしれない。コーエン氏は、大統領選中の2016年6月、トランプ氏の長男がロシア人弁護士と密会したことをトランプ氏は事前に知っていたと主張しているからだ。

 

 コーエン氏が罪を認めたことで、トランプ氏を訴えているストーミー・ダニエルズ氏の訴訟も動き出すことになるかもしれない。ダニエルズ氏の弁護を務めているアベナッティ氏は「トランプ氏を証言台に立たせ、知っていることを話させる」と鼻息を荒くしている。

 トランプ氏から距離を置かれていたコーエン氏だ。“腹心の部下”を見放したトランプ氏よりも家族や我が身を守ることを優先させた今回の“裏切り”は当然の選択と言える。

 11月の中間選挙まで80日を切った。追い詰められていくトランプ氏に打つ手はあるのか?

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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