“トランプ氏のかわりに銃弾を受ける”という“狂犬”弁護士、マイケル・コーエン氏とは何者なのか?

FBIの家宅捜査を受けたマイケル・コーエン氏はトランプ氏の“フィクサー”的存在。(写真:ロイター/アフロ)

 独裁者には忠誠心の厚い腹心の部下がいるものだ。トランプ大統領の顧問弁護士を務めるマイケル・コーエン氏はまさにトランプ氏の“腹心の部下”と言える存在だろう。コーエン氏は、元大統領首席戦略官のスティーブン・バノン氏が記者にある情報をリークした時、こう言ったという。

「私がリークを止めさせる。私がトランプ氏や彼の家族を守るんだ。トランプ氏のかわりに銃弾を受けるよ」

ムラー氏解任劇が起きるのか?

 

 コーエン氏は、大統領選挙投票日の11日前、トランプ氏と性的関係を持ったとされるポルノ女優のストーミー・ダニエルズ氏に13万ドルの口止め料を払ったことが発覚して注目されるようになったが、以前から、“トランプ氏の弟分“や”トランプ氏の6番目の子供”と周囲から見られるほど、トランプ家とはビジネスを越えた深い関わりがあった。

 そんなコーエン氏の事務所と滞在先のホテルに、FBIが家宅捜査に入り、ダニエルズ氏への口止め料の支払いに関する書類などを押収した。この家宅捜査は、ロシア疑惑を捜査をしているムラー特別検察官の照会で行われたという。

 FBIの捜査に「魔女狩りだ」と言って激怒したトランプ氏は、ムラー氏の解任まで考えているようだが、そもそも、ムラー氏解任の権限を持っているのはローゼンスタイン司法副長官。そのため、トランプ氏はローゼンスタイン氏の解任まで考えているという情報も出ている。もしこの解任劇が起きると、ウォーターゲート事件でニクソン元大統領が行った“首のすげ替え”と同じ構図になるわけだが、それだけ、トランプ氏は今回のFBIの家宅捜査に動揺していると言えるだろう。

 トランプ氏はダニエルズ氏らと性的関係を持ったことを今も否定し、コーエン氏が支払ったことも知らなかったと主張しているが、押収された書類やeメールの中には、そんな主張とは矛盾するようなトランプ氏とコーエン氏のやり取りも含まれているのだろうか? そもそも、“渦中の人”コーエン氏とは何者なのか?

トランプ氏の“フィクサー”

 コーエン氏は、ユダヤ人強制収容所サバイバーである外科医の父と看護師の母の下に生まれた。人身被害専門の弁護士を務めていたが、トランプ氏の著書に感銘を受け、2001年、トランプ氏所有の不動産を購入し、投資するようになった。トランプ氏とは、2006年、トランプ・ジュニア氏を通じて初めて会い、アドバイザーとして交流を持ち始める。トランプ氏に気に入られたコーエン氏は、その後、トランプ氏の会社の特別顧問兼エグゼクティブ・ヴァイス・プレジデントに就任する。特別顧問という仕事について、コーエン氏はトランプ家の“フィクサー”のような役目だと話している。

 コーエン氏はトランプ氏とよく似ていることも指摘されている。トランプ氏が着ているような少し大きめのスーツを身につけ、“敵”のことを”バカ”呼ばわりするような暴言を吐き、睡眠時間もトランプ氏同様短いからだ。

 しかし、なんといっても似ているのは、超攻撃的なところかもしれない。それが、コーエン氏が“トランプ氏のピットブル”と呼ばれるゆえんだ。このニックネームについて彼は、2011年のABC放送のインタビューでこう説明している。

「ピットブルと言われているのは、トランプ氏が誰かに好ましくないことをされたら、トランプ氏の利益になるように解決するため、あらゆる手を尽くすからです。間違ったことをされたら、その人を追いかけ、首根っこを掴み、解決するまで離さないのです」

 そのニックネーム通り、コーエン氏はトランプ氏を守るべく、ピットブルのような狂犬ぶりを発揮してきた。

 例えば、2012年、ミスUSA候補だった女性がミスUSAコンテスト(トランプ氏が出資)は最初から5人の最終候補者が決まっている出来レースだとSNSで拡散したため、トランプ氏側に名誉棄損で訴えられたことがあった。その女性の父親は、この時のコーエン氏の脅しぶりをこう話している。

「コーエン氏は娘を経済的に滅ぼす、生涯、車一台買えないし、クレジットカードも持てなくなるだろうと言って脅したのです。娘に同調するのはバカなことだ、娘が謝罪しないのならゲームは始まると逆上し、電話をガシャンと切ったのです。彼に関わった人は似たようなことを話すでしょう。彼はいじめて、脅す戦略を使うのです」

 ちなみに、コーエン氏は、後に、この女性をやりこめたことについて“ビューティー・クィーンの人生を破滅させた”と吹いている。

 2015年には、前妻のイヴァナ・トランプ氏がトランプ氏にレイプされたと離婚裁判の際に証言していた件についてトランプ陣営にコメントを求めた新聞記者に「いつか裁判所で会うことになるぞ。これから君が稼ぐお金をみなとってやる。君の知り合いも追いかけるぞ。警告する。とてもひどいことをすることになるから、怒らせるな。わかったか」と脅したことも問題になった。

 また、2015年の大統領候補者討論会の際に、トランプ氏が女性を侮辱してきたことを指摘したフォックスニュースの政治コメンテイター、メーガン・ケリー氏に対するツィート“ハラワタを抜いてやる”をリツィートしたことも非難された。

 ポルノ女優のダニエルズ氏にトランプ氏との性的関係についてインタビューしたインタッチ・マガジンも、コーエン氏に訴えると脅されたので、インタビューをした2011年当時はその掲載を断念した。インタビューを受けたダニエルズ氏の方は、先日の「60ミニッツ」のインタビューで、ラスベガスの駐車場で男に脅されたことを告白したが、その男はコーエン氏の関係者であると示唆しているように見えたことから、コーエン氏の弁護士に謝罪を求められている。

 トランプ氏は周囲を自分と同じ考え方を持つ“似た者同士”で固めているが、コーエン氏の場合も、”暴君”トランプ氏にして“狂犬”コーエン氏あり、といった様相だ。コーエン氏の“脅し”は、対北朝鮮対策でトランプ氏が採用してきた“脅しの戦略”を彷彿させる。また、コーエン氏の超攻撃的なところは、トランプ氏の元顧問弁護士であり、かつて“フィクサー”の役割も果たしていたロイ・コーン氏(1986年、AIDSで他界)を思い出させる。コーン氏は、1950年代、“赤狩り”を扇動した上院議員ジョゼフ・マッカーシー氏の主任弁護士を務めたことで知られるが、若かりし日のトランプ氏を様々な訴訟から守り、彼が”不動産王”になるのをサポートしていた。

 トランプ氏は今、コーン氏のような弁護士を渇望しているようだ。ロシア疑惑の捜査の手が自分にのび始めた今年1月、「私のロイ・コーンはどこにいるんだ?」と言ってコーン氏のような弁護士の不在を嘆いている。コーエン氏は、“トランプ氏のかわりに銃弾を受ける”と言う言葉通り、身を挺してトランプ氏を守り抜くのだろうか?