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トランプ大統領のシリア攻撃 背後にはモーニングショーの存在があったのか?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
空爆を受けるシリア。(提供:SANA/ロイター/アフロ)

 トランプ氏はテレビのモーニングショーからヒントを得て、シリア攻撃を決断したのかもしれない。

 攻撃直後、えっ?と思わせるようなそんな報道がアメリカで流れた。そのモーニングショーとは、トランプ氏が毎朝見ては、ショーが流す内容をツィートすることもある“フォックス&フレンズ”だ。

 13日の朝、このモーニングショーの女性司会者がこんな問いかけをしていたのだ。

「大統領とフランスとイギリスがシリアを攻撃すると決断したら、その話題の方が発売されるコミー氏の本よりも大きな話題になると思いませんか?」

 この発言が流された日の夜、トランプ氏はシリア攻撃に踏み切った。偶然だろうか?

モーニングショー、フォックス&フレンズがトランプ氏にシリア爆撃を促したのか?
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攻撃により、スキャンダルから目をそらさせる

 シリア攻撃を警告していたとはいえ、どのタイミングで攻撃をするのがトランプ政権にとって効果的なのか、トランプ氏も考えていたことだろう。

 折しも、先週、アメリカでは、トランプ氏を悩ませる様々なスキャンダルが起き、人々の耳目を集めていた。

 一つは、トランプ氏が解任したFBI元長官ジェームズ・コミー氏が書いた暴露本『A Higher Loyalty: Truth, Lies, and Leadership(高い忠誠心:真実とうそとリーダーシップ)』が巻き起こしたスキャンダルだ。同著について、メディアが面白おかしく取り上げたのは“トランプ氏がロシア滞在中、売春婦たちに、オバマ夫妻が使ったホテルのプレジデンシャル・スウィートルームのベッドの上に放尿させた“という“ハレンチな疑惑”だった。この疑惑について、トランプ氏自身は「私は黴菌恐怖症だ」といって反論し、コミー氏を「ゲス野郎」と批判。しかし、トランプ氏に近い場所にいたコミー氏が書いた暴露本は、年始に発売された『炎と怒り』よりも信憑性が高く、人々に与える影響力も大きいと言われている。トランプ氏は同著の発売に、内心、戦々恐々としていたことだろう。

 もう一つは、ポルノ女優のストーミー・ダニエルズ氏絡みのスキャンダルだ。トランプ氏と性的関係を持ったと主張している彼女に“口止め料”を支払ったトランプ氏の顧問弁護士マイケル・コーエン氏はFBIの家宅捜査を受けたが(コーエン氏については、“トランプ氏のかわりに銃弾を受ける”という“狂犬”弁護士、マイケル・コーエン氏とは何者なのか?をお読み下さい)、先週は、このコーエン氏が私的な商取引の件で、前から刑事捜査を受けていたことが発覚したのだ。コーエン氏のクライアントはトランプ氏だけである。メディアは「大統領一人しかクライアントがいない弁護士が、刑事捜査を受けていることは大問題だ」と批判した。また、ニューヨーク・タイムズが、トランプ氏がコーエン氏に電話をかけたという情報を掴み、報道した。二人がどんなことを話したかは不明だが、捜査を受けている状況下、やり取りが行われたこと自体が問題視された。

 加えて、トランプ氏には元家政婦との間にできた子供がいるという隠し子疑惑まで浮上し、メディアを賑わせた。

トランプ氏ならそれもあり得る

 これらのスキャンダルに襲われていた矢先、毎朝見ているモーニングショーが、国民の目をスキャンダルからそらさせるためのアイデアをくれた。トランプ氏がそれに飛びついて、攻撃するなら今だと感じたとしても、何ら不思議でないだろう。

 実は、今年1月にも似たようなことがあった。このモーニングショーが延長されようとしていた「外国情報監視法」を批判すると、トランプ氏はこの批判にならったのか、法案の延長に否定的なツィートをしたのだ。そのため、延長を支持していたホワイトハウスは混乱に陥った。トランプ氏はその後延長を表明したものの、“トランプ氏は身近にいるアドバイザーたちではなく、モーニングショーの方にコントロールされている”という批判から免れることはできなかった。

 もちろん、トランプ氏が、モーニングショーの司会者の発言に触発されてシリア攻撃をしたのか、本当のところはわからない。

 しかし、問題は、“トランプ氏ならそれもありえる”と人々に感じさせているところだ。

 MSNBCのニュースキャスターがこう指摘していた。「トランプ氏の真の攻撃の動機がなんであれ、多くの人々が、シリア攻撃は内政問題から人々の注意をそらすことを意図したものだと感じているでしょう」と。

 トランプ氏に、人々の注意をそらすという意図があったのかどうかはわからないが、問題は、トランプ氏が、人々にその意図があったと感じさせていることなのだ。人々に疑惑を抱かせていることが問題なのである。そして、疑惑の数は着実に増えていく一方だ。果たして、トランプ氏という“疑惑のデパート”はどこまで大きくになっていくのだろうか?

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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