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フロリダ州高校銃乱射事件 高校銃乱射犯たちの共通点とは? 原因は”心の問題”だけではない

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
フロリダ州高校銃乱射事件では、生徒14人と学校スタッフ3人が犠牲となった。(写真:ロイター/アフロ)

 アメリカで再び、学校銃乱射事件が発生した。現場となったのは、フロリダ州パークランドにあるマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校だ。亡くなったのは生徒14人、学校スタッフ3人の17人。この数は、26人の犠牲者を出した、2012年のサンディーフック小学校銃乱射事件に次ぐ多さだ。

身を挺して女子生徒を守ったコーチ

 

 当日の時間経過を辿ると以下のようになる。

 事件の容疑者ニコラス・クルーズ(19歳)は、バレンタインデーの14日の午後2時6分、ウーバーで学校に向かい、2時21分に校舎に侵入、火災報知器を鳴らした後、4つの教室を次から次へと移動して乱射し、2階に上がって乱射後、3階へと移動。3階からは、窓を割って、校舎の外に避難した生徒たちを撃とうとしたが、防弾ガラスのためガラスを割ることができなかった。2時27分、クルーズは、階段に銃とバックパックを放置し、避難する生徒や学校スタッフらに混じって逃走。2時50分、ウォルマートまで逃げ切り、中にあるサブウェイでソフトドリンクを購入。その後、マクドナルドに行って数分滞在した後、3時41分に警察に拘束された。

 クルーズが校舎に侵入してから乱射して逃走するまでの約6分間に起きた惨劇だった。生徒を守るために自ら犠牲となった学校スタッフもいた。この日、同行一年生のクリス・マッケナは、トイレに行く途中、弾丸を詰め込んでいた犯人のクルーズに遭遇。クルーズに「ここから逃げた方がいいよ。ひどいことが始まるから」と警告された。マッケナは「銃を持っている人がいる」とアシスタントフットボールコーチに報告。コーチはマッケナを球場まで避難させ、再び学校へと戻って行った。しかし、それがマッケナがコーチを見た最後になった。コーチは、銃撃されそうな女子生徒の前に身を投げ出し、代わりに被弾して亡くなったからだ。

高校銃撃犯たちの共通点とは?

 今、様々なメディアが、容疑者クルーズについて報じているが、彼には、拙著『そしてぼくは銃口を向けた』(草思社刊)で取材した高校銃撃犯たちと共通する点が多々見られるので、ここに記したい。

1.銃撃予告

 銃撃犯の多くがクラスメイトに「明日、何かでかいことが起きるぞ」と言ったり「明日、君は生きるか死ぬかわかるだろう」と言ったりして、銃撃を予告している。しかし、それを聞いたクラスメイトは冗談だと思い、先生には報告しない。

 昨年秋、ミシシッピ州のビデオブロガーが、自分が投稿したユーチューブビデオに「僕はプロの学校銃撃犯になる」というコメントが書かれているのを発見。本人かは不明であるが、コメントの差出人名はニコラス・クルーズとなっていた。ブロガーはFBIに通報。FBIの捜査員はコメントの差出人についてデータベースで調査したが、人物は特定できなかった。

 また、前記したように、クルーズは銃撃直前、廊下で出くわしたある生徒に「ここから逃げた方がいいよ。ひどいことが始まるから」と警告している。

2.計画性

 計画性は多くの高校銃撃犯で見られる。銃撃リストやヘイトリストを作成して、あらかじめ銃撃のターゲットを定めていることもある。

 クルーズは、ウーバーを使って学校に行き、生徒を外に誘き出すために火災報知器を鳴らしている。警察によると、彼はまた、発煙弾とガスマスクも所持していたという。用意周到な計画を立てていたことが伺える。

3. 加害者

 都市部ではなく、郊外または田舎にある高校に通っている白人男子生徒。バックグラウンドは様々で、母子家庭で育った生徒もいれば、経済的に裕福な家庭で育った生徒もいる。

 クルーズも、郊外の街に住む白人男子生徒。現場となったパークランドはフロリダ州でも最も安全な街と評価されており、裕福な人々が数多く居住している。クルーズは養子として、この街で育った。

4. 犯行の前触れ

 高校銃撃犯は犯行を起こさせる理由のため、長い間、精神的に落ち込んでいるが、精神病や精神病質者の過去はない。

 クルーズの家系には鬱病の傾向が見られたという。また、彼は精神問題を抱えて治療を受けていたが、ここ1年以上は治療に行っていなかった。また、クルーズに近い友人は「クルーズはだんだんおかしくなっていった」と話している。生徒たちは「学校で銃乱射をするとしたら、彼だろう」と冗談を言っていた。それだけ、彼は危険視されていたのだ。

5. バイオレンス趣味

 暴力性の強い映画やインターネットサイト、ビデオゲームを好んでいる。銃や爆弾などの武器に強い興味を示していた者も多く、武器を収集したり、学校に持ってきたりしている。実際に、爆弾を製造していた銃撃犯もいる。

 削除されたクルーズのインタグラムには、多数のナイフや銃が掲載されていた。中には、150個の弾丸が入った箱の写真も投稿されていたという。また、警察は、SNSに、クルーズ容疑者の名前で、「AR15で人を撃ちたい」、「人を大量に殺して死にたい」などと書き込まれた多数のコメントを見つけたという。

6. 虐待

 犬や猫などの動物を虐待した過去がある。

 クルーズも、インスタグラムに、動物殺しやペレット銃で行なっている射撃練習に関する投稿をしている。友人にも、ペレット銃でリスやトカゲのような小動物を撃つのが楽しいと話している。前のガールフレンドも虐待していたという。

7. 先立つトラブル

 銃撃を実行しようと最終的に決意させるようなトラブルが、事件に先立って起きている。ガールフレンドにふられたり、学校で何か問題が起きたりなどのトラブルだ。

 クルーズの場合、学校にバックパックを持ってくることを禁止されたり、生徒を威嚇したため退学処分を受けたりしていた。数年前には育ての父が、昨年11月には育ての母がそれぞれ他界している。母の他界後、クルーズは母の友人宅に移り住むが、そこではハッピーではなかったため、自分の友人宅に移り住むという不安定な生活を送っていた。

8. コピーキャット性

 銃撃事件後は事件を模倣した事件が発生することが多い。

 今年に入って、学校銃撃事件が相次ぎ発生したことも、今回の事件に影響を与えているのかもしれない。

かたや銃撃犯に、かたやヒーローに

 ところで、クルーズは逮捕された時、JROTCと書かれたシャツを着ていた。アメリカには予備役将校を訓練するための“ROTC”と呼ばれる教育プログラムが大学に設置されているが、“JROTC”はその高校版で、アメリカライフル協会も支援している。クルーズは同高のJROTCのメンバーで、射撃チームでは”ウルフ”と呼ばれる上手い射撃手、「AR-15で撃つのはとても楽しい」と射撃に癒しを見出しているかのように話していたという。卒業後は、軍隊に入り、エリート特殊部隊兵になる夢を持っていたようだ。

 同じJROTCのプログラムに参加していた同校の生徒は、事件が発生した時、学んだことを思い出し、混乱して屋外に逃げ出そうとする生徒たちを教室に呼び戻し、教室に設置されていたケブラー製のカーテンを外して防弾用のバリケードを作って生徒たちを守った。

 同じJROTCのプログラムで学んでも、かたや生徒たちを無差別に殺傷する銃撃犯になり、かたや生徒たちの身を守るヒーローとなった。こんな矛盾に、事件の悲劇性を感じないではいられない。

心の問題だけではない

 アメリカでは、銃乱射事件が起きる度に銃規制に関する議論が再燃し、銃規制反対論者たちは事件の原因を銃には求めず、犯人の“心の問題”にしている。トランプ大統領もお決まりにように、犯人の精神的な問題に原因を求めた。

 確かに、銃乱射犯たちは“心の問題”を抱えていた者が多く、クルーズも精神問題を抱え治療を受けていたという。かつてインタビューした高校銃撃犯にも鬱病の傾向があり、彼は筆者にこう訴えた。

「銃規制しても、すでに出回っている多数の銃を回収するのは簡単じゃない。銃規制したところで、人殺しをしようとしている人の気持ちまでは抑えられないんです」

 確かに、人を殺すのは結局、殺すと決めた人の心だ。その心は、銃がなければ、ナイフで、素手で殺そうと考えるかもしれない。しかし、銃はその殺傷能力がナイフや素手よりはるかに大きい大量殺人兵器なのだ。

 先般のラスベガス銃乱射事件に際して、銃器暴力リサーチセンター所長のガレン・ウィンテミュート氏がロサンゼルス・タイムズの取材でこう話していた。

「犯人のパドックがナイフを投げたり、矢を放ったりしていたら、結果は違っていたでしょう。銃の場合、狙いを定める必要はなく、ただ人々がいる方向に向けて乱射すればいいのですから」

 犯人の心の問題に気づき、手を差し伸べて、未然に事件を防ぐことは重要だ。しかし、大量殺傷能力がある銃もまた規制されないことには、悲劇は永遠に繰り返されていくだけである。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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