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“武士頼み”するトランプ大統領、足りないのは対話です!

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
アジア外遊に出発するトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

「重要なのは私だけだよ」

アジア歴訪の旅を目前に行われたフォックスニュースのインタビューで、トランプ氏はそんな言葉を放った。

 北朝鮮という脅威を抱えているにもかかわらず、米国国務省では、いまだ、大使や外交官など外交を担う高官ポストの多くが空席状態だ。インタビュアーがその問題を指摘した時、トランプ氏は冒頭の一言を返したのである。外交政策を決めるのは結局自分だから無理に空席を埋める必要はない。そんな考えがトランプ氏にはあるようだが、言い訳にも聞こえる。

 実際、国務省の人事は進んでいない。就任して9ヶ月間で、トランプ氏が指名した候補は55人の大使だけ。比較上、オバマ元大統領の場合は、就任年の10月末時点で79人を指名し、ブッシュ元大統領の場合は95人を指名していた。また、トランプ氏が指名した55人中、承認されたのは25人だけである。いまだ、70ものポストが空席のままなのだ。その中には、オーストラリアや韓国など重要な同盟国との外交を担うポストも含まれている。

 重要なポストが埋まっていないのは、一つに、トランプ氏の下では働きたくないという不満の声があるからだ。ベテラン外交官も次々辞任している。トランプ氏がシャーロッツビルで放った、差別を容認するような発言に愛想をつかして辞任した者もいる。

武士頼みするトランプ大統領

 しかし、北朝鮮という脅威は眼前に立ちはだかっているため、多くの外交ポストが確定していない状況に、ワシントンでは苛立ちが募っている。もっとも、トランプ氏の方はというと、外交上、頼りにしている懐刀があるから、案外焦ってはいないのかもしれない。それは日本だ。同じフォックスニュースのインタビューで、トランプ氏は日本についてこう言及した。

「日本は武士の国だ。私は中国にも、それ以外に聞いている皆にも言っておく。北朝鮮とこのような事態が続くのを放置していると、日本との間で大問題を抱えることになる」

 安倍首相はすでに、トランプ氏にとっては、ともに北朝鮮に立ち向かおうとしている同志のような存在。しかし、中国は変わらず及び腰である。訪日を前に、トランプ氏は、強固な日米同盟の下、北朝鮮に対峙すべく、”武士頼み“したのである。

 さらに、トランプ氏は、

「北朝鮮のことは我々が解決する。もし解決しなかったら、北朝鮮にとってはあまり気持ちのいい状況にならないだろう。誰にとってもあまり気持ちのいい状況にはならないだろう」

と警告した。こんな発言の背後には、軍事オプションという文字がちらつく。

ピンポイント攻撃しただけでも壊滅的に

 しかし、軍事オプションを採用したら、莫大な数の死傷者が出ることは火を見るよりも明らかだ。国際戦略研究所でミサイル防衛を研究するマイケル・エルマン氏が言う。

「アメリカは発射地点にあるミサイルを破壊する方法も研究していますが、これは非常にチャレンジングなことで、確実に破壊できる保証などありません。それに、小さなピンポイント攻撃をしただけでも、瞬く間に、状況は壊滅的なものにエスカレートしてしまうでしょう」

 そんな結果を見据え、エルマン氏は訴える。

「我々がまだ行っていないことがあります。それは北朝鮮との十分な対話です。どうすればいいのか、何ができるのかなどの対話をしているとは言えません。対話や交渉をもっとしていく必要があるのです」

圧倒的に足りない対話

 対話について、ここに興味深いデータがある。CSIS(戦略国際問題研究所)でコリア・チェアを務める研究員のリサ・コリンズ氏が、過去25年の間に、アメリカと北朝鮮の間で行われた対話の回数と北朝鮮が行った挑発行動の回数を調査した研究報告書「交渉と挑発の25年:北朝鮮とアメリカ合衆国」だ。この報告書によれば、米朝間の対話の回数が増えると北朝鮮の挑発行動の回数が減るという逆相関関係があり、交渉/挑発の率は、1990〜1994年の金日成政権下で最も高く、2012年から現在に至る金正恩政権下で最も低いことがわかった。以下の数字が示す通り、金正恩政権下での交渉数は前任者たちに比べると歴史的に低く、挑発回数が歴史的に高くなっている。エルマン氏が指摘しているように、対話が圧倒的に足りないのである。

 トランプ氏は今回の外遊で、首脳たちと、対話への道を切り開くための議論ができるのか? 

交渉回数と挑発回数の逆相関関係

金日成政権

第一次北朝鮮核危機と米朝枠組み合意に向けた取り組み  

1990年1月〜1993年1月               

交渉回数:挑発回数 7:7

第一次北朝鮮核危機

1993年1月〜1994年7月                

交渉回数:挑発回数 19:3

金正日政権の始まり

1994年7月〜2001年1月                 

交渉回数:挑発回数 109: 24

第二次北朝鮮核危機

2001年1月〜2009年1月                 

交渉回数:挑発回数  64: 27

戦略的忍耐と閏日合意

2009年1月〜2011年12月                  

交渉回数:挑発回数 3:17

金正恩政権の始まり

2011年12月〜2017年1月                 

交渉回数:挑発回数 2:63

最大圧力と衝突

2017年1月〜現在                     

交渉回数:挑発回数  0:25(今年2月〜9月)

(「交渉と挑発の25年:北朝鮮とアメリカ合衆国」より抜粋)

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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