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「紀の国トレイナート号」や観光列車に見る、鉄道会社と地域の関係

伊原薫鉄道ライター
「紀の国トレイナート号」過去の車内の様子(写真提供:JR西日本)

○「紀の国トレイナート号」で楽しむ”芸術の秋”

 日中も過ごしやすい気温となり、すっかり秋らしくなってきた今日この頃。食欲の秋、スポーツの秋と、さまざまな「○○の秋」があるなか、今年もJR西日本がちょっと面白い臨時列車を走らせる。

地元アーティストによって彩られた朝来駅の駅舎内。ほかにも沿線各所でアートが見られる(写真提供:JR西日本)
地元アーティストによって彩られた朝来駅の駅舎内。ほかにも沿線各所でアートが見られる(写真提供:JR西日本)

 「紀の国トレイナート号」と名付けられたこの列車は、2019年10月19日(土)と20日(日)の2日間にわたって運行。19日は紀伊田辺→御坊→串本→紀伊田辺、20日は紀伊田辺→新宮→紀伊田辺というルートで走る。使用される車両は、関空快速や紀州路快速で使われている225系で、この形式が周参見~新宮間を走るのは史上初という点が、鉄道ファンからは注目を集めている。

 ところで、「紀の国トレイナート号」はただの列車ではない。そもそも、「トレイナート」とは「トレイン」と「アート」を組み合わせた造語。2014年に、田辺エリアでアートを通じたまちおこしに取り組んでいた地元有志から「きのくに線(JR紀勢本線)の無人駅舎をアートで彩り、列車で巡ることで紀南地域を盛り上げるのはどうか」という話が持ち上がり、JR西日本が協力する形で「紀の国トレイナート」がスタートした。駅舎を活用したさまざまなアートに加えて、車内を装飾しジャズ演奏などが楽しめる臨時列車も運行され、大いに話題となった。

過去には列車内でジャズ演奏も。いつもの列車がライブ会場に”変身”した(写真提供:JR西日本)
過去には列車内でジャズ演奏も。いつもの列車がライブ会場に”変身”した(写真提供:JR西日本)

 以降も毎年開催されてきたが、6年目となる今年はさらにパワーアップ。列車から見える位置にアートを設置し、列車の窓を額縁と見立てて鑑賞してもらうという試みが、初めて行われる。車内も「ボタニカル」をテーマに、網棚など各所に植物を配置しており、まるでおしゃれなカフェのような雰囲気となっている。さらに、列車の待ち時間に串本駅前で「カツオ茶漬け」を味わったり、新宮駅近くにある洋館「旧チャップマン邸」を訪れたりするオプショナルツアーも実施。乗車時間以外もいろいろな楽しみが待っている。

○地域と鉄道会社がタッグを組んだ”地域おこし”

 近年では多くの鉄道会社が、地域とタイアップした取り組みを進めており、JR西日本も例外ではない。「地域の皆さまとともに、まちや沿線の魅力・価値向上を創出する地域共生企業となるべく取り組みを進めている」(JR西日本広報担当者)というが、その一つがこの「紀の国トレイナート」だ。ほかにも、各地で運行されている観光列車では、停車駅ごとに地元のおもてなしや特産品の販売などが見られる。観光列車というと、その列車自体の内装や車内での食事などに注目が集まりがちである。いきおい、列車に乗ることそのものが目的となり、ともすれば終点まで一歩も降りない、さらには終点に着くとそのままトンボ返り、となりかねない。だが、このようなオプショナルツアーやおもてなしがあれば、初めてこの地を訪れる人でも、気軽にその町の魅力に触れることができる。

「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」立ち寄り観光で特別実施された火縄銃の演武。その迫力に乗客は圧倒されていた(筆者撮影)
「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」立ち寄り観光で特別実施された火縄銃の演武。その迫力に乗客は圧倒されていた(筆者撮影)

 2017年に運行を開始した「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」も、その好例だ。同列車のツアーでは1日1回、列車を降りて沿線の観光地を訪れる。訪問先は鳥取砂丘や倉敷の美観地区、岩国の錦帯橋など。それぞれ、「瑞風」乗客に限定した特別公開などが設定されており、初めて訪れた人はもちろん、訪れたことがある人でも新たな発見が得られるようになっている。各地域にある“宝物”を積極的にPRし、見る・体験する手段を提供することで、来訪者がその地域の特色や歴史をさらに深く知ることができるのだ。こうした取り組みはリピーターを生み出すとともに、取り組み自体が地域の活性化につながる。鉄道会社にとっても、地道な努力ではあるが乗客数の底上げが期待できる。

列車から見える位置の擁壁に地元有志がアートを描く。列車の窓からどう見えるかは、現地でのお楽しみだ(写真提供:JR西日本)
列車から見える位置の擁壁に地元有志がアートを描く。列車の窓からどう見えるかは、現地でのお楽しみだ(写真提供:JR西日本)

 「『紀の国トレイナート号』の車内には、沿線の高校生が撮影した駅の風景画なども展示するなど、さまざまなアートに接することができる。太平洋を望む雄大な景色とアート作品の融合をゆっくりと楽しんでいただきたい」(JR西日本の広報担当者)という言葉の通り、今年は「列車で楽しむ芸術の秋」を味わってみてはいかがだろうか。

鉄道ライター

大阪府生まれ。京都大学大学院都市交通政策技術者。鉄道雑誌やwebメディアでの執筆を中心に、テレビやトークショーの出演・監修、グッズ制作やイベント企画、都市交通政策のアドバイザーなど幅広く活躍する。乗り鉄・撮り鉄・収集鉄・呑み鉄。好きなものは103系、キハ30、北千住駅の発車メロディ。トランペット吹き。著書に「関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか」「街まで変える 鉄道のデザイン」「そうだったのか!Osaka Metro」「国鉄・私鉄・JR 廃止駅の不思議と謎」(共著)など。

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